実地指導とは?監査との違いや覚えておくべきポイントを解説

実地指導の連絡を受け、不安を感じている介護事業所・施設の担当者もいるでしょう。実地指導では、どのようなことが行われるのでしょうか。今回は、実地指導の内容や当日の指導までの流れなどを解説していきます。


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実地指導とは?

実地指導は、介護保険制度において、健全で適正な運営、適正な事業実施のために行われるものです。指導は、介護保険法第23条と法第24条規定の権限を行使する形で行われます。

国や地方自治体が指導を行う目的は、質の高いサービスの提供と利用者・入居者の尊厳を守り、指導やアドバイスをもって適正なサービス提供ができるよう支援することです。

不正請求を防止するとともに、制度管理の適正化やより良いケアに向けた事業者への支援を行っています。

個別の一般指導に分類されるのが、運営指導と報酬請求指導の2種類です。それぞれの指導の内容について見ていきましょう。

運営指導

運営指導は、高齢者虐待や身体拘束等の防止のため、各行為が与える影響の理解を促進し、防止のための取り組みについて行政指導を行うことです。個別ケアの推進や尊厳のある生活支援のため、運営指導マニュアルを用いて運営上の指導が行われます。

具体的な運営指導の方法は、運営指導Ⅰと運営指導Ⅱのふたつです。

運営指導Ⅰでは、利用者・入居者の生活実態を確認します。指導担当者が、実際に事業所・施設内の行動・心理症状のある利用者・入居者の生活実態などを確認し、虐待や身体拘束が行われていないかを見て実施される指導です。

運営指導Ⅱは、サービスの質を確認することで行われます。運営指導Ⅰをベースに、事業所・施設からのヒアリングや説明をもって実施される指導です。認知症ケアの理解や虐待・身体拘束の防止などを中心に担当者から説明が行われます。

報酬請求指導

報酬請求指導は、事業所・施設が介護報酬や各種加算について、適正な事務処理やサービス実施を行っているか、不正防止と適正化を目的にした指導です。

報酬基準に基づいて実施する場合はヒアリングをし、報酬基準に適合しない場合は過去の請求について自己点検してもらい、不適切な部分は過誤調整する形で確認が行われます。

実地指導と監査の違い

実地指導以外で、行政が介護事業者や介護事業所・施設に対して行うものに、監査があります。監査は、介護サービスや介護報酬請求に関して不正が疑われる場合の措置です。

例えば、利用者・入居者やその家族から通報があった場合や、国保連などに苦情が寄せられた場合、保険者の行う介護給付費分析に異常が見られる場合など、必要と思われるときに監査が実施されます。

監査は、介護保険法第70条以降をもとに実施される重い処分です。監査で指定時点からの基準違反などがあった場合には、指定の取り消しなどの処分を受けることもあります。

その点、実地指導は介護事業者や介護事業所・施設のサービス、介護報酬の適正化を支援するためのものですので、基本的に監査のような厳しい処分は下されません。

しかし、実地指導が行われた結果、運営指導で生命の危機があると判断された場合や、報酬請求指導で悪質な請求があると判断された場合は、実地指導から監査に変更されます。実地指導から監査への変更があったときは、重い処分を受ける可能性もあるでしょう。

なお、実地指導は事前通知がある一方、監査は事前通知がありません。

実地指導で必要な資料

実地指導を受けるにあたって書類の準備が必要になります。事前に提出する資料と当日担当者に提出する資料がありますので、すぐに提出できるように準備しておきましょう。

事前に提出する資料

実地指導にあたって、事前に提出しなければならないのは以下の資料です。

・自主点検表
・運営規程
・重要事項説明書、施設パンフレット、契約書
・職員の勤務体制および勤務形態一覧表
・サービス提供に関する調書
・緊急時や事故発生時・苦情対応のマニュアル

自主点検表は、事業運営にあたり最低限遵守しなければならない事項を、自主的に点検するためのものです。様式は、各都道府県や市町村のホームページに掲載されています。印刷するなどして、必要な箇所への記入を済ませておきましょう。

運営規定は、介護保険事業所が適切なサービスの提供や運営を行うために、事業目的や運営方針など、事業所・施設の基本的な事項や重要な事項を内外に示すためのものです。

重要事項説明書は、適切なサービス提供のために、利用者・入居者やその家族に対して必要事項を説明するための書類になります。

職員の勤務体制および勤務形態一覧表は、介護保険法に基づき人員配置が適切に行われているか確認するための書類です。厚生労働省で推奨フォーマットが公表されていますので、フォーマットを活用して作成すると良いでしょう。作成のためには、従業員ごとの勤務形態や資格、勤務時間、兼務状況などの情報が必要です。

サービス提供に関する調書は、事業所・施設のサービス提供に関する書類になります。こちらも各都道府県や市町村の様式などを活用して作成すると良いでしょう。

このほか、緊急時や事故発生時、苦情があったときのマニュアルの提出も必要です。

当日提出する資料

実地指導当日は、次のような資料の提出が求められます。

・職員の勤務関係書類(出勤簿などの勤務状況がわかるもの)
・資格証または資格証の写し
・事故発生や苦情処理の対応状況がわかる資料
・研修実施状況がわかる資料
・介護給付費請求書、介護給付費明細書
・請求書または領収書の控え
・サービス計画書
・サービス提供の記録

実地指導の担当者にすぐに渡せるように、当日までに必要な資料の準備を済ませておきましょう。また、実地指導を行う都道府県や市町村によって、必要な書類が異なることもあります。各自治体のホームページで、必要書類について確認しておくようにしましょう。

実地指導の流れ

実地指導のタイミングは、都道府県や市町村で異なります。自治体によって実地指導にかけられる時間などに違いがあるためです。介護事業所設置年度に実地指導が行われることもあれば、開設から数年後に行われることもあります。

また、実地指導の事前通知は、おおよそ実施の1ヶ月以上前に行われるのが一般的です。自治体によっては2週間ほど前に通知されることもあります。通知を受けたら書類などの準備を進めておきましょう。

また、通知を受けたら介護事業所・施設は指定日の届け出を行います。実地指導日の前日には日程の確認のための連絡があり、実地指導が行われる流れです。

自治体によって実地指導の時間は異なりますが、基本的に9:00~17:00まで1日かけて指導が行われると考えていた方が良いでしょう。文書確認や説明を受けられる場所の確保、実地指導当日に対応できる管理者の配置なども進めておくことをおすすめします。

実施結果について

調査結果については、主に口頭と文書で行われます。

口頭での指導は、実地指導の当日に担当者から直接受ける改善のための指導です。準備の段階で気づいた不備などについて当日に申告することにより、口頭による指導だけで済む場合もあります。

文書での指導は、書面指導と是正勧告があります。是正勧告については、期限までの改善の報告が必要です。原則として、期限内に是正勧告の内容について改善を行い、是正改善報告書を提出します。

なお、口頭の場合も文書の場合も、指導を受けたということは改善の余地があるということです。実地指導の結果はしっかり受け止め、改善指導などに従ってサービスや運営の改善に努めましょう。

まとめ

行政が行う実地指導は、介護事業所・施設の提供するサービスや介護報酬の請求などに関して、適正化を図る目的で行われるものです。介護事業者を支援するためのものですので、監査と違って基本的に処分は行われません。

実地指導の通知を受けた後はさまざまな書類を提出しなければならないものの、現在は現場の負担軽減のために、書式の簡素化やオンライン化が進められています。通知を受けたら必要な準備を進め、当日指導を受けたら真摯に改善点を受け入れるようにしましょう。