介護現場のハラスメントの実態とは?種類や現場ですべき対策

介護職のニーズが高まる一方で、介護現場における利用者・入居者やその家族からのハラスメントが問題視されています。介護現場におけるハラスメントは、一般的なハラスメントとは異なり、利用者・入居者やその家族、また認知症や疾患のある方から、パワハラやセクハラなどの嫌がらせを受けることを指します。 介護職員へのハラスメントは、初期対応が重要です。不適切な初期対応を行うと、介護職員の休職・離職につながったり、さらなるハラスメントを生んだりすることもあります。介護事業者は、介護職員の権利侵害と認識し、早急に対処すること、そして未然に予防することが重要です。 本記事では、介護現場におけるハラスメントの実態についてご紹介します。介護現場で起こるハラスメントの種類と対策方法についても解説しますので、介護事業を経営している方はぜひ参考になれば幸いです。


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介護現場のハラスメントとは

介護現場のハラスメントの実態はどのようなものなのでしょうか?

まずは、厚生労働省が行った調査から、利用者・入居者またはその家族などからハラスメントを受けたことがある事業所・施設に勤務する職員の割合をみていきましょう。

<利用者・入居者からハラスメントを受けたことがある職員の割合>

 

サービス種別 これまで 直近1年間
訪問介護 50% 33%
訪問看護 56% 37%
訪問リハビリテーション 39% 25%
通所介護 46% 36%
特定施設入居者生活介護 60% 48%
居宅介護支援 46% 23%
介護老人福祉施設 71% 62%
認知症対応型通所介護 64% 55%
小規模多機能型居宅介護 55% 41%
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 61% 45%
看護小規模機能型居宅介護 58% 46%
地域密着型通所介護 43% 31%

参考:「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル(平成31(2019)年3月)」(厚生労働省)

上記の表によると、これまでに利用者・入居者から何らかのハラスメントを受けたことがあると回答した職員は約54%と多くいることがわかります。

2018年の1年間では、サービス種別によっては60%以上の職員がハラスメントを受けたと報告しています。

<利用者・入居者の家族などからハラスメントを受けたことがある職員の割合>

サービス種別 これまで 直近1年間
訪問介護 17% 8%
訪問看護 26% 13%
訪問リハビリテーション 13% 5%
通所介護 12% 5%
特定施設入居者生活介護 18% 10%
居宅介護支援 30% 11%
介護老人福祉施設 18% 10%
認知症対応型通所介護 14% 7%
小規模多機能型居宅介護 22% 8%
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 27% 14%
看護小規模機能型居宅介護 20% 11%
地域密着型通所介護 9% 4%

参考:「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル(平成31(2019)年3月)」(厚生労働省)

上記の表によると、これまでに利用者・入居者の家族などからハラスメントを受けたことがあると回答した職員の割合は約19%です。利用者・入居者からのハラスメントと比較すると多くはありませんが、それでもいずれのサービス種別においてもハラスメントを経験している職員がいることがわかります。

職員のなかには、介護現場でのハラスメントを受けたことで、ケガや病気になった職員や仕事を辞めたいと思うようになった方もいます。それぞれの割合は以下のとおりです。

サービス種別 病気やケガになった 仕事を辞めたいと思った
訪問介護 9% 29%
訪問看護 5% 23%
訪問リハビリテーション 7% 15%
通所介護 9% 29%
特定施設入居者生活介護 19% 36%
居宅介護支援 8% 35%
介護老人福祉施設 22% 36%
認知症対応型通所介護 19% 28%
小規模多機能型居宅介護 13% 28%
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 19% 37%
看護小規模機能型居宅介護 16% 35%
地域密着型通所介護 9% 26%

参考:「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル(平成31(2019)年3月)」(厚生労働省)

上記の表によると、ハラスメントを受けたことでケガや病気になった職員は約13%、仕事を辞めたいと思った職員は約30%となっています。ハラスメントによって、精神的なダメージを受ける方が多くいることがうかがえるでしょう。

介護現場で起こるハラスメントの種類

介護現場で起こるハラスメントは、大きく以下の3つに分けられます。

・身体的暴力
・精神的暴力
・セクシャルハラスメント

それぞれの違いと、ハラスメントの具体例をみていきましょう。

身体的暴力

介護職員に身体的な危害を及ぼす行為です。具体例として、以下のような行為があります。

・コップなどの物を投げつける
・叩く
・蹴る
・手を引っかく、つねる
・つばを吐く
・服を引きちぎる など

精神的暴力

個人の尊厳や人格を言葉や態度によって侵害する行為です。具体例として、以下のような行為があります。

・大声で怒鳴りつける
・威圧的な態度で文句をいう
・利用料金を滞納し、「請求しなかった事業所が悪い」と支払いを拒否する
・特定の訪問介護員に対して嫌がらせをする
・利用者・入居者の家族の分の食事も一緒に作るよう強要する など

セクシャルハラスメント

職員が不快に感じる性的な言動や誘いかけ、また性的な嫌がらせをする行為です。具体例として、以下のような行為があります。

・必要がないのに手や腕などの体を触ってくる
・女性のヌード写真を見せてくる
・入浴介助中にあからさまな性的な話をしてくる など

身体的な介助をする場面では、利用者・入居者との距離が近く、また利用者・入居者に対して強く拒否しにくい状況があることから、セクシャルハラスメントの被害に遭いやすいと考えられます。

なぜ介護現場でハラスメントが起こるのか

介護現場でハラスメントが起こる理由は、利用者・入居者もしくはその家族と1対1(もしくは1対多)になりやすいことや、サービスに過剰な期待をしていることなどが挙げられます。

・利用者・入居者もしくはその家族と1対1(もしくは1対多)になりやすい

介護の現場では、ケアを行う場所や体制によって、利用者・入居者もしくはその家族と1対1、もしくは1対多の状況になることがあります。鍵のかかる場所や、助けを求めても声が届きにくいような状況では、よりハラスメントが起こるリスクが高まります。

・利用者・入居者もしくはその家族がサービスに過剰な期待をしている

特に、施設の入居前に自宅で介護をしていた家族では、介護職員が自分の代わりに何でもしてくれると思ってしまうことがあるようです。

また、事業所・施設で提供するサービスの目的、範囲、方法に関して十分に説明できていないために、利用者・入居者もしくはその家族が誤解や過剰な期待をしてしまうケースもあります。

介護現場でハラスメントを防ぐ対策

介護現場でハラスメントをするのは、介護サービスを必要とする利用者・入居者本人、もしくはその家族などです。中には、認知症等の病気や障がいを抱えている方もいます。認知症等の病気または障がいの症状によって現れた言動(BPSD※など)がある場合は、医療的ケアとしてアプローチする必要があります。

また、介護職は自らの感情をコントロールする必要がある感情労働の一面をもちます。職員自身が「ハラスメントとして報告したくない」「ハラスメントに気付かない」というケースもあり、介護現場でのハラスメントは表面化されにくい点も課題です。

介護事業者は、一般的なハラスメントとは異なることを認識し、状況に応じて適切な対策を取ることが重要です。

最後に、介護職員を守るために事業所・施設ができる対策方法をご紹介します。

※BPSD:認知症患者に見られる行動・心理症状のこと

相談窓口を設置する

ハラスメントは、脅迫罪や暴行罪、傷害罪、強制わいせつ罪などの刑事法にかかわる行為です。介護現場で発生したとしても例外はありません。

職員のなかには、ハラスメントを受けても声を挙げにくく感じている方も多くいます。特に認知症や疾患を抱えている相手からのハラスメントだと、不適切な行為だといいにくい状況があるものです。

事業所・施設では職員が報告・相談しやすい窓口を設置し、職員に周知しましょう。被害に遭った職員が相談しやすい環境を整えることが大切です。

ケアや対応方法を見直す

特定の職員に過度な負担がかからないように、担当シフトを調整したり、担当者へのフォローを行ったりしましょう。

また、訪問系サービスは、職員は利用者(もしくはその家族)宅に訪問して、1対1、または1対多の状況になりやすく、ハラスメントが発生するリスクが高くなります。

ハラスメントの発生が懸念される利用者宅に訪問する際は、複数人の派遣スタッフを動員したり、管理者が同行したりするなどの対応が求められます。

提供するサービスについての認識をすり合わせる

介護事業者・施設が提供するサービスの目的やサービス内容、業務範囲について、利用者・入居者やその家族との認識に齟齬があると、不信感につながり、苦情に発展します。

事業所・施設内で、重要事項説明書や契約時の対応・説明方法の統一化を図りましょう。利用者・入居者が受けられるサービスについて、利用者・入居者やその家族が十分に理解できているか、認識の齟齬はないか確認することが大切です。

その際、ハラスメントは介護職員の健康や安全を損ない、介護サービスの提供を困難にするため、契約解除になる可能性があることを明確に伝えましょう。

誤った認識や理解不足により、契約範囲を超えるサービスが強要されないようにすることが重要です。

対応マニュアルを整備する

介護現場でのハラスメントを未然に防ぐための対応マニュアルを作成し、共有しましょう。

マニュアルの作成にあたっては、実際の事例や直面する課題をもとに、発生要因と対応方法を考える必要があります。現場で働く介護職員にもヒアリングをして、意見を取り入れていきましょう。

一度定めたマニュアルは、現場の状況に合わせて都度見直し、更新を行います。介護職員を含め、事業所・施設内で定期的にハラスメントに関する意見交換を行うことが重要です。

ハラスメントへの意識向上や対応方法のブラッシュアップができ、働きやすい労働環境づくりにもつながるでしょう。

まとめ

介護現場では利用者・入居者の身体的な介助を行ったり、利用者宅にひとりで訪問したりすることから、職員がハラスメントを受けやすい状況があります。

ハラスメントによって職員の心身に負担がかからないよう、事業所・施設側はハラスメントを未然に防ぐためのマニュアル、またハラスメントが生じた際の対応方法などを定めておくことが重要です。