目次
介護事業所・施設の人員配置基準とは
介護事業所・施設には原則として、入居者・利用者数に対する人員配置の基準が設けられています。
これは、介護職員のほか、医師や看護師などの専門資格を有する人材の配置を介護事業所・施設に義務付けたものです。
こうした基準を設ける主な目的は、利用者・入居者に対し、適切なケアサービスを行えるよう体制を整えるためです。
人員配置基準にある「常勤換算」の説明と計算式
介護施設の人員配置について、常勤のほか「常勤換算」と記載されていることがあります。常勤換算とは、常勤かつ専従の職員を1としたとき、その介護施設で働いている職員数は何人に相当するかを表したものです。
常勤換算をするには、常勤・専従でない職員が何人分に相当するかを把握する必要があります。計算式は次のとおりです。
全職員の1ヶ月の稼働時間÷常勤職員の1ヶ月の勤務時間=その介護施設の常勤換算人数
たとえば、常勤職員の1ヶ月の勤務時間176時間(8時間/日×22日)で、ある施設にはAさん(1ヶ月の勤務時間176時間)、Bさん(1ヶ月の勤務時間132時間)、Cさん(1ヶ月の勤務時間88時間)の3人がいたとしましょう。この場合、常勤換算は次のようになります。
(176+132+88)÷176=2.25
事業所の常勤換算による人員数は2.25人です。
介護事業所・施設ごとの人員配置基準一覧
介護事業者にはどのような人員配置基準の定めがあるのでしょうか。介護施設の種類や事業ごとに人員配置の基準を解説します。
介護療養型医療施設
介護療養型医療施設は、療養病床等のある病院や診療所のうち、入院する要介護者に対し、医学的管理のもと、介護や必要な医療を行う施設です。
このうち、指定介護療養型医療施設は、医療を必要とする要介護者が長期に療養できる施設で、次の人員配置基準を満たす必要があります。
職種 | 人員配置基準 |
介護職員 | 6人につき1人以上 |
看護職員 | 6人につき1人以上 |
介護支援専門員 | 1人以上(標準は100対1) |
医師 | おおよそ48人につき1人以上 ※医療法に規定する必要数 |
薬剤師 | おおよそ150人につき1人以上 ※医療法に規定する必要数 |
理学療法士・作業療法士 | 適当数(実情による) |
栄養士 | 100床以上は1人以上 ※医療法に規定する必要数 |
出典:「介護療養型医療施設及び介護医療院(参考資料)」(厚生労働省)をもとに作成
介護療養型医療施設の場合、6対1以上の割合で介護職員を配置しなければなりません。例えば、入所者が50人の場合は、少なくとも9人は介護職員を配置する必要があるということです。
なお、看護職員に関しては、1病棟(1病棟あたりの病床は原則60床以下)ごとに看護責任者を置くとともに、交代勤務制での看護、詰め所などの設備の設置が求められます。
特定施設入居者生活介護
特定施設入居者生活介護は、介護保険法に定める特定施設に入居する要介護者を対象にした介護サービスをいいます。特定施設の対象となるのは主に以下の施設です。
・有料老人ホーム
・軽費老人ホーム(ケアハウス)
・養護老人ホーム
・サービス付き高齢者向け住宅(※有料老人ホームに該当するもののみ)
対象施設は、以下の人員基準を満たさなくてはなりません。
職種 | 人員配置基準 |
看護・介護職員 | ・要支援者10人につき1人以上 ・要介護者3人につき1人以上 ※看護職員は30人までは1人、30人超は50人ごとに1人 |
管理者 | 1人(兼務可能) |
生活相談員 | 100人につき1人以上 |
機能訓練指導員 | 1人以上(兼務可能) |
計画作成担当者(介護支援専門員) | 1人以上(兼務可能) |
出典:「特定施設入居者生活介護」(厚生労働省)をもとに作成
特定施設入居者生活介護に指定される有料老人ホームの場合、介護職員の人員配置基準は要支援の入居者数と要介護の入居者数により変わります。
特別養護老人ホーム
特別養護老人ホームでは、次のように人員配置の基準が設けられています。介護職員の配置は、入所者3人につき1人以上です。なお、人数の規定のほかにも、常勤や専従の規定が設けられています。
介護職員の場合、職員数は常勤換算(ただし常勤1名以上必要)で数えなければなりません。また、職員は原則専従です。ただし支障がない場合に限り、機能訓練指導員などとの兼務ができます。
従来型とユニット型を併設している施設の場合、介護職員は専従のみ人員として認められますので注意しましょう。
職種 | 人員配置基準 |
介護職員 | 3人につき1人以上 |
看護職員 | 3人につき1人以上 |
管理者 | 1人 |
医師 | 実情に応じて配置 |
生活相談員 | 100人につき1人以上 ※2年以上従事していること |
機能訓練指導員 | 1人以上 |
介護支援専門員 | 1人以上 |
栄養士 | 1人以上 ※入所定員40名未満で一定条件を満たす場合は不要 |
ユニットリーダー | ユニットごとに必要 |
出典「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の報酬・基準について(検討の方向性)」(厚生労働省)をもとに作成
認知症グループホーム
認知症グループホームは、認知症のある高齢者を受け入れる小規模の地域密着型の施設です。
認知症グループホームを利用できる人は、基本的に要支援2や要介護1~5の65歳以上の高齢者で認知症の診断を受けた人、40歳以上65歳未満の若年性認知症などの診断を受けた要支援2や要支援1以上の人です。
人員配置の基準は以下のとおりです。
職種 | 人員配置基準 |
介護職員 | 日中:3人につき1人以上 ※常勤換算
夜間:ユニットごとに1人 |
計画作成担当者 | ユニットごとに1人 ※最低1人は介護支援専門員であること |
管理者 | 常勤で専従の管理者が必要 ※3年以上認知症の介護従事経験があり、厚生労働大臣規定の研修を修了していること |
出典:「認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム)」(厚生労働省)をもとに作成
デイサービス
デイサービスは、要介護になった高齢者が、できる限り居宅で自立した日常生活を送れるよう、通所により日常生活の介護や機能訓練を行うことを目的とした介護サービスです。通所介護ともいわれます。
基本的に、利用者は施設に宿泊せず、送迎により日帰りで通所します。デイサービスの人員配置基準は次のとおりです。
職種 | 人員配置基準 |
介護職員 | 単位ごとに常時1名配置すること。
利用者15人以下:常勤換算で1人以上 利用者15人超:1人+利用者16人から5人につき1人以上 |
看護職員 | 単位ごとに1人以上 ※専従 |
生活相談員 | サービス提供時間に応じ1人以上 ※専従 |
機能訓練指導員 | 1人以上 |
出典:「通所介護及び療養通所介護(参考資料)」(厚生労働省)をもとに作成
機能訓練指導員は、看護職員、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、のいずれかの資格を有していなくてはなりません。
介護職員は利用者数が15人を超えるかどうかで必要な配置人数が変わってきます。ただし、定員10名以下の地域密着型通所介護事業所であれば、看護職員または介護職員いずれか1人の配置も認められます。
訪問介護
訪問介護は、利用者が自宅で自立した生活を可能な限り送れるように、訪問介護員が利用者の自宅へ訪れ、日常生活の介護や支援を行ったり、通院などを目的とする移送などの介助サービスを行ったりする事業所です。
訪問介護の人員配置基準は次のようになっています。
職種 | 人員配置基準 |
訪問介護員等 | 常勤換算で2.5人以上 |
サービス提供責任者 | 利用者40人に対して1人以上 ※一定要件を満たすときは50人に対して1人以上 |
管理者 | 常勤で専従の管理者が必要 |
出典:「訪問介護の報酬・基準について」(厚生労働省)をもとに作成
サービス提供責任者とは、次のような役割を担う人材のことです。
・訪問介護計画を作成する
・利用申し込みを調整する
・利用者の状態変化やサービス意向を定期的に把握する
・居宅介護支援事業者と連携する
・訪問介護員に援助方法の指示や伝達をする
・訪問介護員の業務実施を把握し管理する
・訪問介護員に研修や技術指導を行う
サービス提供責任者は管理する立場にあるだけでなく、利用者との介護計画の調整や訪問介護員への指導も役割として担うため、一定の知識を要していなくてはなりません。要件として、介護福祉士の資格をもつ人や実務者研修修了者などの一定の研修を修了した人に限定されます。
人員配置基準に違反すると指定取り消しやサービス停止処分の場合も
介護施設の人員配置基準は、利用者に良質なケアの提供を目的に義務付けられているものです。
人員配置基準を満たさない場合は良質なケアの維持が難しくなることから、介護事業者に対して行政処分が行われることがあります。
人員配置基準違反により実施される処分の種類は、介護事業者の指定取り消し、サービスの停止、新規受け入れの停止、減算、などです。
中でも、介護事業者の指定取り消しは重い処分となります。介護事業は都道府県知事の指定を受ける必要があるため、取り消し処分となると、5~10年は再度指定を受けられません。
基本的には、6年に1回の実施指導で違反が発覚したときに監査が行われ、監査の結果、違反とみなされることで処分が下されます。
人員配置基準が「3:1」から「4:1」になる?
介護現場において、介護職員の確保と現場の革新は急務となっています。そこで、政府は、限られた人材を生かしつつ負担が重くならないように、人員基準緩和に向けた取り組みを進めてきました。
厚生労働省では、2022年4月から、介護ロボットをはじめとしたITを活用した実証実験を開始しています。また、見守り機器導入による夜勤職員の配置基準の緩和なども進められているところです。
介護職員の不足については、有料老人ホームなどでの人員配置基準を、従来の3対1から4対1に緩和する案も検討されています。とはいえ、現在はまだ検討段階であり、人員基準の緩和に関しては、慎重に少しずつ進めることになるでしょう。
まとめ
介護施設によって、人員配置の基準が定められています。違反すると介護事業者の取り消しなど重い処分を受けることもありますので、人員配置が適切か、特に介護職員の入れ替えなどがあった際には注意しましょう。