特養の人事配置基準とは?常勤換算の計算方法も紹介

「特別養護老人ホームを運営するにあたって、人員配置基準がよくわからない」と悩んでいる事業者も多いのではないでしょうか。 この基準は法律で定められており、違反してしまうと処分が下されるおそれがあります。とはいえ、事業所・施設の種類や規模によって異なるため、どの基準が正しいのか判断がつきにくいのが難点です。 そこで、今回は特別養護老人ホームにおける人員配置基準と計算方法についてご紹介します。


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そもそも人員配置基準とは

人員配置基準とは、入居者に対して配置すべき職員の人数を定めたものです。適切な介護や医療を提供するには、一定数の人員確保が必要とされているため、それぞれの事業所・施設で人員配置基準が設けられています。

基準は事業所・施設の種類や規模によって異なりますが、ほとんどの事業所・施設において「3対:1」の比率で設定されています。これは利用者・入居者3人に対して1人の介護職員または看護職員を配置するという意味です。

これらの基準を満たすことで、事故を未然に防ぐだけではなく、トラブルに早急に対応できるような体制づくりを整えられます。

特別養護老人ホームの人員配置基準

特別養護老人ホームの人員配置基準については、以下のとおりです。

職種 人員配置基準
介護職員 3:1以上
看護職員
管理者 1 ※社会福祉法第9条の社会福祉主事、社会福祉事業に2年以上従事した者等が要件
医師 実情に応じて配置
生活相談員 100:1以上 ※2年以上従事していること
機能訓練指導員 1以上
介護支援専門員 1以上
栄養士 1以上 ※入所定員40名未満で一定条件を満たす場合は不要
ユニットリーダー ユニットごとに必要

出典:「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の報酬・基準について(検討の方向性)」(厚生労働省)をもとに作成

特別養護老人ホームには、従来の一般的な施設とユニット型の施設があります。それぞれ人員配置基準が異なるため、詳しく見ていきましょう。

一般的な特養の人員配置基準

一般的な特別養護老人ホームの人員配置基準は、「3:1」です。たとえば、入居者が100人いる場合、施設全体で33.3人以上の人員が必要となります。

ここでいう人員とは、介護職員と看護職員です。介護職員は主に食事や排泄、入浴など生活のサポートを担当し、看護職員は入居者の健康管理を担います。

ユニット型特養の人員配置基準

ユニット型特養であっても、人員基準は「3:1」の配置となります。

しかし、ユニット型特養では、さらに3つの基準が設定されています。

・昼間は1ユニットごとに1人以上の人員(介護職員または看護職員)の配置
・夜間はユニットごとに1人以上の人員(介護職員または看護職員)の配置
・ユニットごとに常勤のユニットリーダーを配置

先述した「3:1」の人員配置基準では、これらの基準を満たすことができません。そのため、ユニット型特養では、1ユニットあたり4.2人の人員を配置する必要があります。よって、100人の入居者がいる施設の場合、最低でも施設全体で42人の人員を確保することが求められるでしょう。

また、人員配置基準が24時間365日ではなく、日勤の勤務帯に適用される点にも注意が必要です。特に、人数の削減がされやすい夜間には「3:1」を下回るおそれがあります。施設のシフトを見直した上で、基準を常に満たすように努めることが大切です。

人員配置基準の計算方法

人員配置基準は施設によって異なるため、計算方法を知っておくことも重要です。また、その際には「常勤換算」とは何かについて理解しておく必要があります。

常勤換算とは

常勤換算とは、施設で働いている平均職員数を表すものです。

職員の中には、常勤以外にもパートやアルバイトとして働いている人もいるでしょう。非常勤職員を正職員と同様に計算してしまうと、施設の配置基準を満たせない可能性も出てきます。

このような事態にならないためにも、すべての職員の雇用形態ではなく、労働時間で計算を行うことで、常勤で働いている人がどれくらいいるのか、正確に把握できるようになります。

常勤換算の計算方法

常勤換算は全職員の労働時間(1ヶ月)を把握することで、下記のように求められます。

常勤換算人数=1ヶ月の総労働時間÷1人の常勤が勤務する時間

ここでは、具体的な計算方法についてご紹介します。たとえば、常勤職員の勤務体制が1日8時間で週5日だった場合を取り上げてみます。

1週間 1ヶ月(4週間)
Aさん(常勤) 40時間 160時間
Bさん(常勤) 40時間 160時間
Cさん(非常勤) 30時間 120時間
Dさん(非常勤) 20時間 80時間
Eさん(非常勤) 15時間 60時間

まず、1ヶ月の労働時間を計算します。

8時間×5日=40時間(1週間)
40時間×4週間=160時間(1ヶ月)

次に、全職員の1ヶ月の勤務時間を足していきます。

160+160+120+80+60=580時間

これらを先ほどの常勤換算人数の計算方法に当てはめることで、人員配置基準は3.6人となります。

580時間÷160時間=3.6(少数第2位以下は切り捨て)

なお、常勤換算をする際は、有給休暇や産休・育休の方が常勤であるかどうかで常勤換算人数が異なってきます。というのも、非常勤の場合、常勤換算の計算に含めることができないからです。

ただし、常勤の場合であっても休暇が1ヶ月以上ある場合には、常勤換算の計算から除外されます。そのため、長期休暇にあたる産休・育休中の場合、基本的には計算に含めません。

また、育休明けで短時間勤務をしている常勤職員については、非常勤職員と同様に実際に勤務した時間で計算を行います。

しかし、以下の3つの条件をすべて満たしている場合に限り、常勤としての取扱いが可能です。

1.就業規則などに育児短時間勤務職員の勤務時間に明確な規定がある
2.1に定められた育児短時間勤務職員の勤務時間が週30時間以上である
3.利用者に対して支障がない体制が整っている

短時間勤務をしている常勤職員がいる場合、上記の基準を満たしているかどうか、改めて確認してみましょう。

人員配置基準に違反するとどうなる?

人員配置基準に違反した際の対応については、職種によって異なるため、注意が必要です。

管理者や介護支援専門員、生活相談員が欠けてしまうと、「指定取り消し」「効力停止」が下されることになります。

また、介護職員及び看護職員が欠けていた場合は減算となり、介護報酬の30%がカットされます。減算となる条件については、細かな定義が設けられています。

ただし、違反したからといってすぐに「指定取り消し」や「効力停止」になるとは限りません。事業所・施設によっては、急に職員が退職してしまうこともあり、一時的に基準から外れてしまうケースも少なからずあるためです。

そのため、実地指導において人員配置基準の違反が疑われた場合は、監査へと切り替わり、聴聞・弁明の機会を作るなどして、ある程度段階を踏んでから、その後の対応が決定されます。

もし複数項目での指摘があったり、人員体制に虚偽の報告や隠蔽があったりした場合は「指定取り消し」や「効力停止処分」が下される可能性が高くなります。

厚生労働省の資料によると、平成12年から令和元年までの期間で指定取り消しや効力の停止処分にあった事業所・施設は、2,748件にものぼっていることがわかります。

また、令和元年度において、人員配置基準の違反で処分を受けた事業所・施設は、全体の約5%でした。

出典:「全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料」(厚生労働省)

介護保険法に基づき、介護サービスを提供する事業所・施設は、都道府県及び市町村から指定を受けることによって、介護事業を運営できます。

指定取り消しの処分を受けると、取り消しの日から5年間は、新たな指定を受けられなくなります。その間は介護事業を行うことができなくなるため、人員配置基準に基づいて運営することが重要です。

まとめ

今回の記事では、特別養護老人ホームにおける人員配置基準と計算方法についてお伝えしました。

従来型もしくはユニット型かによって人員配置の基準は異なるため、常勤換算を把握したうえで正確に計算することが大切です。

人員が不足していると、1人の職員にかかる負担が大きくなってしまいます。介護サービスの質が下がるだけではなく、トラブルや事故に発展しかねません。介護事業の継続に支障をきたすおそれもあるため、十分な人員を確保した体制づくりが重要となるでしょう。