介護現場における法令遵守のポイントとは?わかりやすく解説

コンプライアンスや法令遵守といった言葉を耳にする機会が増えたと感じる方は多いことでしょう。ただ介護現場において法令遵守のために、どんなことを具体的にすべきか、よく知らない方もいるかもしれません。 法令遵守のためには、まず介護関連の法令を知っておくことが大切です。その上で、法令遵守違反にならないよう対策を講じる必要があります。 本記事では介護現場における法令遵守のポイントについてわかりやすく解説していきます。


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介護事業所・施設における法令遵守(コンプライアンス)とは

法令遵守とは、法律やルールに基づいて業務を行うことです。介護事業所・施設で適用される具体的な法律やルールには、主に次のようなものがあげられます。

・介護保険法
・労働基準法
・高齢者虐待防止法
・個人情報保護法
・権利擁護
・職業倫理
・食品衛生

これらの法律やルールを守ることで、介護事業所・施設の利用者・入居者が不利益を被ることを防ぎます。また、事業所・施設のサービスの質の維持にもつながります。

介護事業所・施設で働く職員は、これらの法律やルールへの理解を深めることが重要です。介護事業所・施設の経営者は、そのための環境を整備し、機会を提供する必要があります。

介護事業所・施設で知っておきたい法令

介護事業所・施設で働く方が知っておくべき法令について見ていきましょう。

介護保険法

介護保険法は介護や支援を必要とする人を社会全体で支えるための仕組みを作っている法律です。自立支援・利用者本位・社会保険方式の3つを基本としています。

自立支援は、介護や支援が必要になった人がずっと介護してもらうのではなく、自立できるように支援するという考え方です。介護事業所・施設においては、利用者・入居者の支援をするだけでなく、利用者・入居者が自分でできることを増やしていくようなサポートが求められます。

利用者本位とは、利用者・入居者が自分の意思で利用するサービスを選択できることです。たとえば、保健医療サービスや福祉サービスなどから、利用者・入居者が自分にとって必要だと判断したものを選択します。

社会保険方式は介護保険料を社会保険として徴収し、明確に決められた基準に基づいて給付することです。

老人福祉法

老人福祉法とは、高齢者福祉について定めている法律です。高齢者が健全で生きがいをもって生活できることを基本理念としています。1963年に制定され、高齢者の生活の安定や健康維持、社会参加などを目指しています。

老人福祉法により、6種類の老人居宅生活支援事業や7種類の老人福祉施設を定義し、都道府県、市町村において老人福祉計画の作成を義務づけています。

労働基準法

労働基準法は労働条件の基準や労働者の権利を定めた法律です。主に労働時間・休日・年次有給休暇などについて規定されています。

介護業界を含めた労働者全般に適用されるものです。労働基準法は労働者が人としての生活を保障しています。

介護サービスを提供するためには、利用者・入居者が気持ち良く生活するのはもちろんのこと、職員も伸び伸びと働ける状況でなければなりません。職員が快適に働ける環境を整備していなければ、質の高い介護サービスの提供は難しいでしょう。

介護事業所・施設の経営者は労働基準法に違反しないよう、労働基準法を理解しなければなりません。職員も法を知り、自らの不利益にならないよう努める必要があります。

個人情報保護法

個人情報とは、個人を特定できる情報のことです。生年月日や電話番号など単一の情報だけでは個人が特定できない場合でも、指名などほかの情報と照合できれば個人情報として扱われます。

またメールアドレスなど、単一の情報だけで個人が特定できるものも個人情報と見なします。

個人情報は、漏洩した場合に個人の権利や利益を侵害する可能性があるものです。高度情報通信社会の進展に伴い、個人情報漏洩のリスクが高まってきたことを背景に、2005年に個人情報保護法が施行されました。

また、情報化が進み、社会情勢が変化する中で個人情報保護法は改正が重ねられています。個人情報を扱う場合や漏洩が発生した場合の対応について、新しい法令の規定を確認する必要があります。

高齢者虐待防止法

高齢者虐待防止法とは、高齢者への虐待を防止し養護者を支援するための法律です。

ひとたび高齢者虐待が発生してしまえば、事業所・施設の社会的な信用を大きく損ねてしまいます。高齢者虐待防止法をよく理解し、虐待が起こらないように対策を講じなければなりません。

また、高齢者虐待防止法が対象としている「高齢者」は具体的には65歳以上の者と定義されています。

介護事業所・施設の法令遵守違反とは

介護事業所・施設で起こりうる可能性がある法令遵守違反として、主に以下の事例があげられます。

介護保険法に対する違反

介護保険法に関する法令違反として、介護報酬の不正請求や人格尊重義務の違反があります。

不正請求には、サービス提供回数の水増しや架空請求などがあげられます。主に経営陣主導で起きるケースが多いため、複数人の役員による相互監視や外部監査への依頼などで対策しておくことが大事です。

人格尊重義務の違反には、利用者・入居者への身体的虐待や心理的虐待などが該当します。これらの違反が見られた場合には、介護事業者の指定や許可が取り消しになることがあります。

労働基準法に対する違反

職員へのサービス残業の強制な違法な長時間労働は、労働基準法に対する法令違反にあたります。

サービス残業は、発生した時間外労働手当が支払われていないケースです。実際は職員が残業していても、残業を記録せず、過少報告を強制する例などがあります。また、36協定で定めた上限を超えて長時間労働させることも違法です。

違反した場合は、労働基準監督署による行政指導や刑事処分の対象となるおそれがあるので注意しましょう。

介護事業所・施設で法令遵守違反をしない方法とは

介護事業所・施設で法令遵守違反をしないために、次のような対策が必要です。

法令遵守のルールを作成する

法令遵守のための具体的なルールを作成し、法令遵守違反になる行為を防ぎましょう。ルール作成の際には、事業所・施設の特性や状況などを考慮した内容を盛り込むことが重要です。

また、経営者がルールを決めるのではなく、職員との話し合いの場を設けます。経営者と職員の合意のもとで作成し、具体性が高く実現可能な内容にすることが大切です。

また、抽象的で実現可能性が低い内容にならないよう注意しましょう。

事業所・施設で法令遵守違反が起こらない環境を整える

事業所・施設で法令遵守違反を起こさないために、担当者が関連法令を十分に把握しておく必要があります。法令の内容を知らなかったために、法令遵守違反になる行為に及ぶ可能性を防ぐ必要があります。

特に介護保険法・社会福祉六法(生活保護法、児童福祉法、身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、老人福祉法、母子および寡婦福祉法)・労働基準法・個人情報保護法などは重要です。

また、職員の業務負担が重いと、法令遵守が難しくなりがちです。介護業務用のソフトウェアを導入するなどして、職員への業務負担を最小限に抑える工夫も大事です。

職員の意識を高める

職員に法令に関する知識を付けてもらうために、説明会を実施するのは効果的です。

法令の内容を丁寧に説明すれば、職員の理解は深まります。職員一人ひとりの理解を得ることが大切です。

ただ、説明会を実施した直後は理解が得られても、日数が経過すると記憶が薄れてしまうことがよくあります。そのため、定期的なチェックも必要です。

まとめ

介護事業所・施設では、介護保険法・労働基準法、老人福祉法などの法律やルールを守った上で業務にあたる必要があります。

従業員も経営者も法令の内容をよく理解し、意識を高めることが重要です。法令遵守違反が発覚すると、介護事業者の指定や許可が取り消される可能性もあります。

利用者・入居者やその家族に信頼される事業所・施設を目指し、法令遵守を徹底できるよう対策を講じていきましょう。