介護現場のヒヤリハットとは? 原因や対策を解説!

介護の現場では、ちょっとしたトラブルが重大な事故につながる可能性があります。そのため、日頃から“ヒヤリハット”な事案に注目し、事業所・施設全体で事故防止に努めることが大切です。 今回は、介護現場におけるヒヤリハットの定義や原因、対策をご紹介します。


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介護現場のヒヤリハットとは

介護現場でのヒヤリハットに適切に対応するには、該当する事案を理解しておく必要があります。

まずは介護現場におけるヒヤリハットの定義と警戒する重要性について考えましょう。

介護現場のヒヤリハットの定義

ヒヤリハットとは、事故には至らなかったものの、一歩間違えるとその危険性があった出来事を指します。

ヒヤッとしたりハッとしたりする場面に遭遇したときに該当するもので、介護現場では、後日発覚した場合や現場に介護者がおらず認識できなかった場合はヒヤリハットとは呼びません。

介護現場でヒヤリハットを考える重要性

介護現場でヒヤリハットを考えることが重要な理由として、さまざまな場面において重大な事故につながる可能性があるためです。

労働災害の分野で浸透している『ハインリッヒの法則』では、1件の重大事故の背後には29件の小さな事故が、さらにその背後には300件のヒヤリハットが隠れているといわれています。

「ヒヤリハットが起こる場面は安全性に何らかの問題があった」という考察に心当たりはありませんか。それはいつ大きな事故が発生してもおかしくないという危機的局面を示しています。

このことからわかるとおり、実害が出なかったからといって放置せず、ヒヤリハットが起きた原因を改善するのは重要な課題といえるのです。

介護現場でヒヤリハットが起きる原因

介護現場での事故は、利用者・入居者の生命を危険にさらすリスクがあります。そのため、事故防止につながるヒヤリハットの原因を見つけることが重要です。

ここでは、ヒヤリハットが起きる原因として、3つの観点から解説します。

利用者・入居者が関係する場合

ヒヤリハットが起きる理由のひとつとして、利用者・入居者自身の状態があげられます。

認知症によって危険察知力が低下していたり、身体機能の衰えによって自立歩行が不安定になっていたりして、転倒や安全性に問題がある行動を取る可能性があるのです。

それ以外に、服用中の薬の副作用によってめまいやふらつきを感じ、転倒してしまうといったケースもあります。さまざまな要因が絡み合って起きるので、利用者・入居者の状態をしっかり把握することが大切です。

介護職員が関係する場合

介護職員側の不注意により、ヒヤリハットが起きる危険性もあります。

介護事業所・施設の職員は、利用者・入居者の送迎や食事・入浴の介助など幅広い業務をこなしています。

体力を使う業務も多いことから、疲労が溜まったり、集中力が低下したりすることで、思わぬ事故につながる可能性があるのです。

介護職員が関係するヒヤリハットを防ぐには、職員が無理なく働けるような仕組みを整える必要があります。

介護環境に原因がある場合

「出入り口に段差がある」「浴室の床が滑りやすい」など、介護事業所・施設の構造が原因のヒヤリハットも考えられます。

こうした環境要因のヒヤリハットは、職員の間で危険な場所や状況を共有することが大事です。

また、利用者・入居者に対しては、危険な場所を張り紙で知らせるなどして、事故防止を徹底しましょう。

そのほか、「ベッドの高さが合わず、移乗の際に利用者・入居者が転落しかけそうになった」など、福祉用具によるヒヤリハットも、介護環境の要因としてあげられます。

福祉用具については、利用者・入居者に危険が及ばないよう、点検したり、改めて使い方を見直したりすることが大切です。

介護現場のヒヤリハットの対策

ヒヤリハットはいずれ大きな事故につながるリスクがあるため、早急に原因を取り除くことが大切です。ここでは、介護現場でのヒヤリハットの具体的な対策をご紹介します。

ヒヤリハット報告書を書く

報告書の作成はヒヤリハット対策に役立ちます。明文化すると、介護事業所・施設全体でヒヤリハットを意識し、問題を見直す環境を整えることができます。ヒヤリハット報告書には、以下のような内容を記載しましょう。

・対象者
・発生日時
・発生場所
・発生内容
・原因分析
・再発防止策

事実が伝わりやすいよう、客観的な視点で書くことが大切です。

ヒヤリハットの事例を検証する

ヒヤリハットを防止するには、報告書の作成で終わらせず、事例の検証へつなげることが重要です。

研修やミーティングなどのときにヒヤリハットの事例を共有し、原因や再発防止策について介護職員同士で意見交換しましょう。

そして、意見交換で提案された対策を実践し、効果を検証します。効果が薄かったり、問題があったりした場合は改善を行い、再び実践してPDCAサイクルを回し、対策の質を高めていきましょう。

介護現場でよくあるヒヤリハット事例

介護現場で起こりがちなヒヤリハットの具体例を知っておくことも、防止に役立ちます。

ここでは入浴時・食事時・歩行時・トイレ、4つのシーン別に事例と対策をご紹介します。環境や当事者の能力の差を考慮しつつ、対策を考える際の参考にしてください。

入浴時の事例

入浴時のヒヤリハットの事例として、以下のようなものがあります。

・浴室での移動時に滑って転倒しかけた
・脱衣所で服を脱ぐ際にバランスを崩した

こうしたヒヤリハットは、浴室や脱衣所にマットを敷く、泡が残らないよう浴室の床をしっかりと流す、衣服の着脱時は椅子に座るよう促すなどの対策で防止できます。

また、以下のような、介護職員側に被害が及びかねない事例にも注意が必要です。

・浴室内の移動介助中に滑って転倒しかけた
・利用者・入居者の体を支えようとして腰を痛めかけた

浴室では転倒事故が起こりやすいため、転倒防止の対策を講じましょう。そのほか、入浴介助の正しい姿勢を覚える、複数名で作業するなど、介護職員の負担を軽減する対策も重要です。

食事の事例

食事の際のヒヤリハットで多いのが、以下の2点です。

・利用者・入居者がほかの人の食事を食べそうになった
・ほかの利用者・入居者の薬を飲ませそうになった

こうした事故を防ぐために、食事や薬袋への記名といった対策を取っている場合が多いでしょう。しかし、うっかりミスを完璧に防ぐことはできないうえ、一瞬目を離してしまった隙に利用者・入居者自身が誤った行動をする可能性もあります。

これらの事例には、ダブルチェックを徹底する、複数名で食事介助にあたるなどの対策が有効です。

歩行・転倒時の事例

介護事業所・施設内での歩行中の事例もあります。

・曲がり角でほかの利用者・入居者と接触して転びかけた
・ドアストッパーにつまずき転倒しそうになった

高齢になると、認知機能の衰えによって視野が狭くなったり、筋力の低下が影響して思うように体が動かなくなったりします。

そのため、歩行時には介護職員が付き添う、出入り口や移動ルートからつまずきそうなものを排除するなどの対策を取りましょう。

トイレ時の事例

トイレ利用時のヒヤリハットには、以下のようなものがあります。

・トイレ介助が必要な利用者・入居者が、介護職員を呼ばずにトイレに行ってしまった
・利用者・入居者が自力で車椅子からトイレの便座へ移乗しようとして転倒しかけた

トイレ介助が必要な利用者・入居者の場合、転倒事故が起こらずとも単独でのトイレ利用はヒヤリハットに該当します。生活のなかでトイレに行くタイミングや時間を決めておくと、事態の予防に役立つでしょう。

また、日頃から利用者・入居者としっかりコミュニケーションを取り、介助が必要なときに声をかけやすい雰囲気を作ることも大切です。

車椅子からの移動は、正しい手順を練習するとともに、転倒しかけた動作をしないように何度も訓練しましょう。

まとめ

ヒヤリハットは安全性に問題があるときに起こるもので、いずれ大きな事故につながる可能性があります。

大きな被害が出なかったからといって放置せずに、介護事業所・施設全体で再発防止に取り組みましょう。