介護事故の実態とは?原因や発生時の対応、報告書の書き方などを解説

介護事故は防止しなければならないものですが、どんなに気を付けていても完全に防ぐのが難しい側面もあります。 そこで大切なのは、発生原因を理解して予防に努めること、事故が発生した際の正しい対応方法を理解しておくことです。 本記事では、介護事故が発生する原因および発生時の対応方法について解説します。


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介護事故の実態

介護事故とは介護サービスの提供中に発生する事故を指します。これには介護職員の過失だけでなく、利用者・入居者本人の不注意、および利用者・入居者間で引き起こされた事故も含まれます。

事故が発生した場合、介護事業所・施設にはそれを自治体に届け出ることが義務づけられています。

介護労働安定センターがまとめた資料によると、平成26年8月~平成29年10月までの約3年間に起きた30日以上の入院を伴う重大介護事故は「転倒・転落・滑落」が最も多く、全体の65.6%を占めることとなりました。

次点では「誤嚥・誤飲・むせこみ(13%)」となり、「送迎中の交通事故(2.5%)」、「ドアに体を挟まれた(0.7%)」「盗食・異食(0.4%)」と続きます。

出典:「「介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業」報告書」(公益社団法人 介護労働安定センター)

介護事故が起きる原因

誰しもが避けたい介護事故は、なぜ起きてしまうのでしょうか? ここでは、職員や事業所・施設が関係する場合と、利用者・入居者が関係する場合に分けて解説します。

職員や事業所・施設が関係する原因

介護事故が起きてしまう原因のひとつとして、介護職員同士の連携不足があげられます。

例えば、移動に介助が必要な利用者・入居者がトイレに行く様子を見かけ、その場にいた介護職員がトイレの介助をしたものの、その状況を他の職員へ共有していなかったようなケースです。別の日にも職員に声をかけずにトイレを利用し、転倒してしまうリスクが高まります。

この場合、介護職員が別の職員に「この方は声をかけずにトイレを利用することがある」ことを共有し、事故を防ぐ必要があります。

また、介護事業所・施設での教育体制が不十分な場合、職員の知識や技術不足が要因となり事故が発生しやすくなる可能性があります。

手すりが整っていないといった設備の不十分さ、介護用具に不具合がある場合も事故の原因となるでしょう。そのほか、事業所・施設内が整理整頓できていないと、利用者・入居者が物にぶつかったり、つまずいたりする可能性も大いにあります。

利用者・入居者が関係する原因

少し目を離した隙に利用者・入居者が自ら移動しようとして転倒した、ほかの利用者・入居者の薬を飲んでしまうなど、利用者・入居者本人の行動によって事故が起きることがあります。

利用者・入居者の多くは加齢によって筋力やバランス感覚が低下し、視力の衰えもあることから、転倒リスクが高い状態にあります。椅子から立ち上がろうとしたり、人とすれ違ったりしたタイミングで転倒してしまうといった事故はしばしば起こるため、特に注意が必要です。

また、唾液の減少や加齢にともなう歯のトラブルによって誤嚥も起きやすく、食べ物がのどに詰まるといった重大事故につながる危険性があります。

介護事故が起こりやすい場面

介護事故を予防するために、どんな場面で事故が起きやすいのか理解する必要があります。以下では、介護事故が起こりやすい場面をご紹介します。

・食事

体勢変更時の転倒、食事中の誤嚥や火傷に注意が必要です。また、薬の空袋やお菓子を包んでいる袋を誤って飲み込むなどの誤飲、他の人の薬を飲んでしまう誤薬事故が発生する可能性もあります。

・入浴

脱衣所や浴室内移動時の転倒、浴槽での溺水、洗身時の擦り傷、血液上昇やヒートショックといった事故が生じやすいです。

・移動

ベッドから車椅子に移動する際の転倒をはじめ、歩行時に後方から声をかけられて振り向くと同時にバランスを崩す場合があります。また、ちょっとした段差につまずいて転倒するといった事故もしばしば起こります。

・排泄

トイレ内で方向転換する際の転倒、狭い室内で体をぶつける、手すりをうまくつかめないことによる尻もち事故の危険性が高い場面です。認知症患者が排泄物を誤食してしまうケースも報告されています。

介護事故が発生した際の対応

介護職員が細心の注意を払っても、介護事故を100%防ぐことは難しいものです。そこで重要となってくるのが、事故発生後の対応です。

介護事故が発生した際には、利用者・入居者およびそのご家族、そして同僚職員への対応が必要となります。

利用者・入居者への対応

まず行うべきなのが、利用者・入居者の安全確保です。声かけをして、意識の有無・ケガの状態などを確認しましょう。食べ物や異物が喉に詰まった場合は背中をタッピングして吐き出させ、外傷があるなら応急処置を行います。

必要に応じて医師への連絡や救急車の要請も速やかに行いましょう。

利用者・入居者のご家族への対応

利用者・入居者のご家族に連絡し、謝罪するとともに事故の経緯や利用者・入居者の容体の説明を行います。このとき、事故の当事者職員だけでなく事業所・施設責任者も状況を把握し、今後の事故予防策を説明したうえで誠実にお詫びすることが重要です。

事故後のご家族への連絡の遅れは事業所・施設そのものに不信感を与えてしまう要因となりかねないので、事故が起きたら速やかに行いましょう。

賠償が必要となるケースもあり、その場合には手続きに関わる説明も行います。

しかし、法的な話よりも、まずは状況の丁寧な説明と、なによりも事故が発生したことに対する誠実な謝罪を行いましょう。

職員・関係各所への対応

事故当事者もしくは発見者は、利用者・入居者の安全確保後に事故報告や責任者への状況説明を行う必要があります。

事故が起きた際の状況について、当事者の詳細な報告に合わせて目撃者の意見を確認したうえで、責任者が事故発生からその後の対応までを正確に把握できていることが重要です。

その後、事故報告書を作成します。報告書には、日時や場所、誰がどのような状況で事故が発生したのかといった情報を詳しく記録しなければなりません。

そして、必要に応じて利用者・入居者のかかりつけ医、賠償責任保険などに加入している場合は保険会社、事故の種類によっては警察や自治体、保健所などへの連絡を行います。

事務的な手続きが済んだら、職員間で再発防止の話し合いを行いましょう。事故が発生した状況と原因について分析し、同様の事故を起こさないための予防策を講じることが大切です。

介護事故が発生した時のNGな対応

介護事故が発生した場合は、適切な経路で内容を報告する義務があります。事故を起こした当事者職員および発見した職員は、事故の大小に関わらず責任者への報告を徹底しましょう。職員個人で利用者・入居者に謝罪し、納得してもらった場合でも同様です。

事故の申告漏れや隠ぺいは絶対に避けましょう。

「事故の責任を問われたくない」といった理由で申告を怠ったり、「些細なアクシデントだから報告は不要だろう」と自己判断したりすると、事業所・施設のサービスそのものへの不信につながってしまいます。

また、事業所・施設への悪評になることをおそれての組織的な事故の隠ぺいはあってはならないことです。利用者・入居者およびそのご家族への信用問題に関わるうえ、営業停止をはじめとする行政処分が科せられるおそれもあります。

同様の事故を繰り返さないためにも、事故の状況を正しく報告することは重要です。

介護事業所・施設においては、事故が起きた際に職員が冷静に正しく対応・報告ができるようにマニュアルを整備しておくと良いでしょう。

介護事故における報告書の書き方

介護事故発生の5日以内を目安に管轄の市町村へ報告書を提出しましょう。

報告書を作成する際は、厚生労働省が公開する事故の報告様式』を活用するのがおすすめです。

具体的には、次のような項目を埋めることで報告書を作成します。

・事故状況の程度(受診・入院・死亡・その他から選ぶ)
・事業所の概要(法人名・事業所名・サービス種別・所在地)
・対象者の情報(個人情報・サービス提供開始日・身体状況)
・事故の概要(発生日時・発生場所・事故の種別・発生時状況や事故内容の詳細)
・事故発生時の対応(医療機関にかかった場合はその具体的な情報)
・事故発生後の状況(利用者・入居者の状況・家族への報告・連絡した関係機関)
・事故の原因分析
・再発防止策

参考:「健康・医療・介護情報利活用検討会 介護情報利活用ワーキンググループ(第1回) 資料|参考資料4 介護情報に係る様式の例(P71.72)」(厚生労働省)

事故の原因分析や再発防止策などについては必要に応じて追加報告ができるので、まずは事故の状況を速やかに報告しましょう。

まとめ

介護事故はゼロにするのが理想ですが、どれだけ注意していても発生してしまうものです。

大切なのは、事故が発生したときに利用者・入居者およびそのご家族への誠意ある対応をすること、そして再発防止のための対策をしっかりと講じることです。

事故が発生したときの対応方法についてのマニュアルを用意しておくと、職員一人ひとりが正しく対応する助けとなるでしょう。