利用者・入居者に寄り添う支援とは?アプローチから注意点まで解説

より良い介護を提供するために、利用者・入居者に寄り添う支援は大切です。しかし「より良い介護」の正解はすぐに見つかるものではありません。具体策が見つからないと感じる事業者の方も多いのではないでしょうか。 今回は、利用者・入居者に寄り添う支援について具体例を交えて解説します。実践に移す上での注意点もお伝えしますので、ぜひ参考になさってください。


この記事は約7分で読み終わります。

利用者・入居者に寄り添う支援の意味とは

利用者・入居者に寄り添った支援を実現するためには、要介護者やその家族、地域の実情などのアセスメントを行い、適切なケアマネジメントを実践することが重要です。

また、利用者・入居者それぞれのニーズに沿った介護ケアができるよう、プラスアルファのスキルとして、コミュニケーションスキルを充実させることも欠かせません。

特に事業者が意識すべき点は、以下のとおりです。

・利用者・入居者の思いを尊重する
・本人のペースを優先する
・安心できる環境を作る

コミュニケーションは、言葉のやりとりだけで成り立つものではありません。また支援の現場では一方通行ではなく、双方向のやりとりが求められます。

寄り添う支援とは、利用者・入居者が緊張せず、快適な環境で過ごしてもらうためにサービス提供者側がとる配慮です。コミュニケーションスキルを磨き、職員から利用者・入居者に対してだけ与えるものではない点を意識した接し方が求められます。

意思疎通を図る際には、世代間のギャップや、本人の性格・状態によって会話そのものが難しい場合もある点に注意しましょう。

利用者・入居者に寄り添う支援として使える2つのアプローチ

利用者・入居者への支援として、言語と非言語の2つのアプローチがあります。

言語的コミュニケーション

言語的コミュニケーションとしてわかりやすいのは会話ですが、こちらから話しかける以上に、利用者・入居者の話を聞くことが大切です。そのためには、話しやすい雰囲気作りが欠かせません。

具体的には、相手の声のトーンやスピードに合わせることが重要です。加えて、はっきりと聞き取りやすいように意識した応答を心がけます。これによって、意思疎通ができていると実感をしてもらえるようになります。

利用者・入居 者と言葉を交わす際には、単に聞いた内容を繰り返すのではなく、整理して伝える、時にはただうなずく、といったようにバリエーションに幅を持たせることも大切です。

言語的なコミュニケーションは、直接的なアプローチで信頼関係を築き、介護サービスの質の向上につながる方法といえます。

非言語的コミュニケーション

非言語的コミュニケーションは、言葉に頼らずに利用者・入居者と意思疎通を図るアプローチです。話を聞くときの姿勢や、表情など視覚的な部分に気を払い、相手に寄り添います。

そのほかにも、声のトーンや服装、匂いなどにも配慮できれば、より早く信頼関係を構築できるでしょう。

会話とは異なるアプローチをとるとき、利用者・入居者は普段の接し方をもとに、安心できる相手であるのかを判断します。逆に言えば、非言語のコミュニケーションは利用者・入居者がどのような人なのかを判断する材料にもなります。

もし、不機嫌な態度や表情、声で接してしまうと、利用者・入居者は不信感を抱き、良好な関係を構築することはできません。

利用者・入居者によって、コミュニケーションで気にするポイントは異なります。日頃から利用者・入居者のことを気にかけて記録をつけておくと、コミュニケーションが取りやすくなるだけでなく、変化にも気付きやすくなります。

利用者・入居者に寄り添う支援の具体例5選

ここからは、具体的にどのようにコミュニケーションをとるべきか、寄り添う支援の例を5つに分けてお伝えします。

否定をしない

否定的な態度や言葉は利用者・入居者に必ず伝わり、関係に溝を作ってしまう恐れがあります。反対に、ポジティブな感情を持って接することができれば、真摯に対応していることが伝わります。

利用者・入居者の中には、強い話し方をされる方、同じ話を何度も繰り返す方がいるかもしれません。それでもコミュニケーションを取ろうとしているのだと判断し、否定を避けることが大切です。

もし否定的な態度をとってしまうと、介護サービスを受けること、さらに人とのコミュニケーションそのものが嫌になってしまう可能性もあります。まずは、受け入れる姿勢を大切にしましょう。

相手を尊重する

相手を尊重することは、利用者・入居者との関係を良好にするために重要です。

約束を守り敬語で接するのは基本的なことですが、つい見落としがちなことです。

もし約束が守られない場合、たとえささいなことであっても利用者・入居者は不信感を抱きます。どれだけ利用者・入居者が親しみやすい方だとしても、敬語で接していなければ、次第に関係性は崩れてしまいます。

事業者は職員が日頃から利用者・入居者に対して敬意をもって接しているか、確認しておきましょう。言葉遣いだけでなく、態度面でも尊重、配慮の気持ちを表すよう指導することが大事です。

価値観に共感する

相手の思いや考え方を受け入れ共感することは、コミュニケーションの重要な要素です。

「価値観」というと幅広いですが、身近なものでいえば食べ物や飲み物、趣味や嗜好品に対する好き嫌いが挙げられます。職員が自身の考えを押し付けずに利用者・入居者のもつ価値観を大切にするよう、事業所・施設全体で心がけると良いでしょう。

新しい知識や話を聞くこともでき、コミュニケーションを広げるきっかけにもなります。

利用者・入居者一人ひとりが持っている考え方を受け入れる姿勢が、質の高い介護サービスを提供するために必要なことです。

沈黙に慌てない

利用者・入居者とのコミュニケーションにおいて、会話を優先し、沈黙を避けようと慌ててしまうケースもあるでしょう。しかし、言葉だけではなく、ただ行動を共にするだけでも、寄り添った支援につながります。

利用者・入居者の中には、さまざまな事情でうまく会話をすることが難しい方も見られます。無理にコミュニケーションをとろうとすると、かえって利用者・入居者にとって負担になるおそれがあります。

その場合は、ただ隣に座って過ごしたり、笑顔で微笑みかけたりするなどして、非言語コミュニケーションを活用しましょう。利用者・入居者の状態に合わせた行動をとることで、安心感をもたらせます。

話題を提供する

天気や季節、出身地、時事ネタは、コミュニケーションを深めるための切り口として有効です。

季節の話題を例にとると、「私は桜がきれいな春が好きです。〇〇さんはどの季節が好きですか?」と話しかけるといいでしょう。切り出した後は、一歩踏み込むと会話が途切れません。

利用者・入居者が興味を示したなら、話を掘り下げましょう。ポイントは以下の3つです。

・つまり、(要約)
・それは、(詳細)
・ということは、(言い換え)

たとえば「それは、(詳細)ということですか?」と尋ねることで、話が途切れずスムーズな会話につながります。一つの話できっかけをつかんだら、要約や詳細などのポイントを意識します。

寄り添う支援を実践する上での注意点

専門的な言葉や、日本語に置き換えるのが大変なカタカナ語を避けるように心がけましょう。「嚥下(えんげ)」や「ADL」「QOL」などは仕事をする上でよく使いますが、利用者・入居者やご家族にとってはなじみのない言葉です。

もし、ご家族から現状の説明を求められた場合は、わかりやすい言葉に置き換えます。

また、言葉のバリエーションも大切です。なぜなら、同じ言葉ばかり使うと冷たい印象を与え、信頼を失うリスクがあるからです。

本人には「そうですね」、家族には「変わりありません」と伝えるだけでは、良好なコミュニケーションにはつながりません。寄り添う支援をするには、具体的で深いコミュニケーションが重要です。

まとめ

利用者・入居者に寄り添う支援を実現するためには、コミュニケーションが必要不可欠です。言語と非言語の2つのアプローチを使い分けながら、利用者・入居者との信頼関係構築を深めていきましょう。

5つの具体例の中から、深く考え込まずにまず取り組むことができるところから始めましょう。