介護事務所・施設におけるカスタマーハラスメント(カスハラ)とは?
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、一般的には顧客からの要求内容、または要求態度が社会通念に照らして著しく不相当であるクレームや顧客からの迷惑行為を指します。
介護事業所・施設において見受けられるケースは、暴言や暴行、脅迫などで職員に理不尽な要求を押しつけるなどの行為です。
ときに同じ内容のクレームを言い続ける、長時間拘束するなど、執拗なクレームを受けることもあるようです。
介護におけるハラスメントについては、以下の記事でも詳しく紹介しています。
「介護現場のハラスメントの実態とは?種類や現場ですべき対策」
介護事業所・施設で家族からのクレームが多い理由
介護事業所・施設で利用者・入居者の家族からクレームが発生する背景をみていきましょう。
職員がなんでも要求に応えてくれると誤解している
介護職員は何でもしてくれるものだと利用者・入居者の家族が思い込んでおり、そのために過度な要求をしてくることがあります。要求に応えてもらえない場合、威圧的な態度でクレームをつけてくることもあります。
特に、過去に自宅で介護をしていた家族で、周りに悩みを打ち明けられず、我慢していたような方では、介護職員に過度な期待をするケースがあるようです。
加えて、職員のほうが利用者・入居者の家族の期待に応えようと、無理をして対応してしまうこともあるでしょう。介護職は自らの感情をコントロールする必要がある感情労働の一面があり、職員自身が「ハラスメントとして報告したくない」「ハラスメントに気付かない」というケースが発生しやすく、表面化されにくい点も課題です。
介護事業所・施設側で理不尽な要求を拒絶しにくい
介護事業所・施設の管理者は、利用者・入居者の家族との信頼関係を重視するあまり、クレームを受け入れる体制をとってしまいがちです。過度な要求が発生しても、不当な加害行為でなければサービス提供を拒否することはできず、まず受け入れてから理解を求めようとしてしまいます。
また、事業所・施設はサービスの受け入れ上限が決められていないため、理不尽なクレームがあっても拒否できない現状があります。
例えば、「母を毎日入浴させるように」といった要求に対して、事業所・施設側では「入浴は週に〇回まで」といった決まりがありません。クレームを拒む正当な理由がないことから、毅然とした対応をすることが難しいのです。
介護事業所・施設における家族からのクレーム対処法
介護職員にとって利用者・入居者の家族からのクレームは、精神的なダメージが大きいものです。過度な要求を受け続けると、介護職員の休職・離職につながるおそれがあります。
また、介護事業者は職員に対して安全配慮義務を負っています。職員に悪影響を及ぼすようなクレームの放置は安全配慮義務違反とみなされ、損害賠償を命じられるリスクがあります。
そのため、利用者・入居者の家族からクレームを受けた場合は、迅速に対応することが大切です。
ここでは、介護事業所・施設で家族からのクレームを受けた場合の対処法をご紹介します。
クレーム内容の事実確認と内容を整理する
クレームを受けたら、まずは事実確認と内容を整理することが大事です。
クレームには、「通常」のクレームと「理不尽」なクレームの2種類があります。理不尽なクレームに対して、介護事業所・施設側は要求を聞き入れる必要はありません。
一方で、通常のクレームは、介護サービスに対する改善を訴えるものです。利用者・入居者側からの正当な意見であるため、事業所・施設側は誠実な対応をする必要があります。対応が遅れると利用者・入居者の家族からの信用を落としてしまいかねません。
事業所・施設側はクレームの内容を聞き取ったら、まずは事実確認をしっかりと行い、クレーム内容に応じて適切な対応をとることが大切です。
責任範囲を明確にする
クレーム内容の事実確認と内容整理を行った結果、そのクレーム内容に正当だと判断される部分があるケースもあります。
その場合、やってはいけないのが介護事業所・施設側が全面的に非を認めることです。
クレーマーに対して全面的に謝罪してしまうと、相手によってはさらに要求をエスカレートさせることも考えられます。また、事業所・施設側としても落ち度があったことで、今後も相手に頭が上がらない状況になってしまうでしょう。
責任範囲を明確にし、事業所・施設側に非がある部分は認め、その部分についてのみ謝罪するのが正しい対応です。
それでも無理な要求をしてくる利用者・入居者の家族に対しては、法的根拠をもってきっぱりと断りましょう。
話し合いの記録を残しておく
苦情内容を確認し、理不尽なクレームだと判断した場合、利用者・入居者の家族と話し合いを行います。
その際に重要なのが、レコーダーで録音したり、メモを取ったりするなどして、話し合いの記録を残すことです。
話し合いで解決せずに問題が悪化した場合は、警察へ相談したり、裁判の必要が生じたりすることもあります。悪質なクレーマーだと、自分の発言を認めようとしないかもしれません。しかし、話し合いの記録がきちんと残っていれば、重要な証拠となる可能性があります。
クレーム対応は複数人で行う
利用者・入居者の家族のなかには、問題解決を望んでいるのではなく、金銭などの目的でクレームをつけてくる方もいます。また、自分の要求を通すために介護職員を脅して恐怖や不安を感じさせるような行動を取る方もいるでしょう。
そのようなクレーマーを相手に職員ひとりで対応するのは、精神的な負担が大きいものです。また、職員がひとりの状況では、相手が余計に強気の言動をすることも考えられます。
悪質なクレームへの対応は必ず複数人で行うようにし、特定の職員ひとりに精神的な負担がかかることのないようにしましょう。
毅然とした態度で対応する
話し合いの機会を設けても改善がみられない場合は、以下の方法を実行しましょう。
・書面での警告
・誓約書の作成
・身元引受人の変更
・事業所・施設への立ち入り制限 など
また、カスタマーハラスメントを繰り返す利用者・入居者の家族への対応を、介護事業所・施設のみで引き受けるのは望ましくないといえます。必要に応じて地域包括支援センターや地域の事業者団体、警察など地域の関係者と連携を取り、冷静に対処しましょう。
弁護士に相談する
介護事業所・施設がひととおり対応をしたにも関わらず、理不尽なクレームが繰り返されるような場合は、弁護士に相談し、判断を仰ぐことをおすすめします。
法律のプロである弁護士の助言を受けながらクレームへの対応を進めることができます。それでも話し合いが難航する場合は、事業所・施設の代わりに対応を依頼することも可能です。
事業所・施設が適切な対応をとったにもかかわらず、状況が改善されない場合は、早めに弁護士へ相談するようにしましょう。
まとめ
利用者・入居者の家族からのクレームが正当なものであれば真摯に対応する必要がありますが、そうではない理不尽なクレームに対しては、要求に応える必要はありません。
理不尽なクレームをする相手には、本記事で紹介した対処法を参考に、介護事業所・施設全体で対応しましょう。悪質なクレームを減らすには、毅然とした態度で冷静に対応することが重要です。事業所・施設内での対応が難しいと感じた場合は、弁護士へ相談することも検討しましょう。