介護記録の電子化はするべき?メリットとデメリットについても紹介

介護記録を手書きにしている介護事業者もよく見られますが、近年は電子化に対応するためデータ入力に切り替える事業者も出てきました。介護記録の電子化はなぜ進められているのでしょうか。今回は、介護業界で電子化が進む背景と、介護記録を電子化するメリット・デメリットなどを解説します。


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介護記録の電子化が進められている理由

介護人材は慢性的な人材不足に陥っています。都道府県が推計した第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数によると、2023年度は約233万人が必要と試算されましたが、2019年度比で22万人不足の結果となりました。

今後も、介護人材の必要数に対して人材不足は加速化していくものと思われます。

しかし、限られた人材でも、介護事業はサービスの質を維持または向上しなければならない難しい立ち位置にあるのが現状です。このような中、介護人材確保のための施策と合わせて国は介護現場の生産性向上を推進しています。

2019年には、介護現場革新会議において、基本方針が取りまとめられました。基本方針として掲げられたのが、人材不足に対応するマネジメントモデル構築、ロボットやICTの活用、イメージ改善と人材確保・定着です。

ICTの活用には、ウェブ入力や電子申請、文書の電子化も含まれます。介護業務の改善のため、介護記録の電子化による業務効率化が国からも推進されているのです。このような背景もあり、介護記録の電子化が介護業界で進められています。

出典:「介護人材の確保、介護現場の生産性向上の推進について」(厚生労働省)

介護記録に手書きが多いのはなぜ?

介護業界の生産性向上のため、課題のひとつとして挙げられるのが文書の電子化です。介護事業所・施設においては、介護記録を手書きで行っているところも多く見られます。

公益財団法人 介護労働安定センターの調査によると、パソコンを利用して介護記録などの情報を共有している事業所・施設は全体で52.8%にも及び、昨年度の50.4%よりも上昇していることがわかります。

介護保険サービスごとに見ると、施設系(入所型)は71.1%と最も高く、一方で訪問系や居宅系は40~50%前後と数値が低い傾向にあります。

このことから、電子化へと移行する事業所・施設は増えているものの、業界には広く浸透しているとはいえないでしょう。

ICT化がほかの業界と比べて介護業界で浸透しにくい背景として、人とのコミュニケーションを重視している業界であることも起因しています。

現場では間接的な対応よりも、直接的な対応が多く求められます。データ化されない利用者の情報にも価値が置かれることから、従来からの価値観が重視され、手書きから移行できていない事業所・施設も多いです。

出典:「令和3年度「介護労働実態調査」結果の概要について 」(公益財団法人 介護労働安定センター)

介護記録を電子化するメリット

介護業界では電子化が浸透しておらず、介護記録を手書きで済ませるところも多いと説明しました。それでも、徐々に電子化を進める事業所・施設は増えてきています。介護記録を電子化するメリットには何があるのでしょう。3つのメリットを取り上げます。

業務の効率化ができるようになる

メリットのひとつは業務効率化の実現です。介護報酬はサービスあたりで計算されるため、いくら介護記録に時間を使っても介護事業所・施設の売上には直接的に影響しません。

それ以上に、報酬の発生しない介護記録にかかる時間が増えると、残業代の発生などで人件費が膨らみコストがかかってしまいます。

介護記録を電子化すれば、訪問先などからも記録できるようになり、煩雑な作業を効率良く進めることができるでしょう。電子化により作業が効率化されることで残業代削減などにつながるほか、労働環境の改善にもつながります。

別の紙に情報を転記する手間も省けますので、ペーパーレス化も実現できるでしょう。ペーパーレス化が進めば紙による保管業務も必要なくなります。

現場の業務に時間を使えるようになる

介護記録の電子化による業務効率化と情報の一元化ができれば、記録や情報の参照に必要な時間を軽減でき、コア業務にかける時間を増やせます。

業務効率化によって空いた時間を介護ケアに充てられれば、利用者・入居者やそのご家族の満足度も上がるでしょう。電子化されれば過去のデータも参照しやすくなるため、過去の記録をケアに活かして、介護サービスの質の向上も期待できます。

さらに、電子化による業務効率化は、ケアにかける時間だけでなく、採用活動にも効果を発揮するでしょう。介護記録の電子化を含め、ICT化によって働きやすい環境を整備できれば、求職者に対するアピール材料にもなるため、人材不足の解消にもつながります。

スムーズに情報共有できる

介護記録を電子化すれば、情報の一元化もしやすくなります。利用者・入居者に関する情報がひとつのシステムに集約されるため、情報共有もしやすくなるでしょう。

また、リアルタイムで情報を更新した際、スムーズに共有できるのもメリットです。更新された情報は関連する書類のデータにも反映されるため、常に新しい情報を関係者間で共有できます。

そのほか、訪問介護など事業所・施設の外で業務を行う場合も、必要に応じて端末から情報を確認できることから、円滑に業務を進められます。必要な情報を簡単に取り出せるようになり、情報管理もしやすいです。

介護記録を電子化するデメリット

ここまで介護記録を電子化するメリットを紹介してきましたが、電子化には注意しなければならない点もあります。介護記録を電子化するデメリットについて2点紹介します。

IT機器を使いこなせる職員ばかりとは限らない

IT機器を導入することにより、介護記録の手順が大きく変わってしまいます。手書きが主流だった職場ではIT機器を使うのが苦手な人もおり、電子化してもうまく利用できない問題も発生することがあるでしょう。

電子化しても使いこなせないと、手書きのときよりも業務負担が増えてしまうことがあります。

電子化導入の前に、現場の職員からICT化を受け入れてもらえるか、IT機器の利用に問題はなさそうかも確認しておく必要があるでしょう。

IT機器の利用が得意でない職員がいる場合は、電子化に慣れるまでに時間がかかることも考慮し、必要に応じて研修を行ったりマニュアルを作成したりすることが大切です。

コストがかかる

介護記録の電子化は、前述したように残業時間短縮による人件費の削減など、長期的に見ればコストカットにもつながります。しかし、導入時にはある程度のコストが必要になることも注意しておかなければなりません。

初期費用として、電子化するための各種ソフトのほか、データを入力・共有するための端末(パソコンやタブレットなど)が必要です。経営資金に余裕のない介護事業者にとっては初期費用がネックとなり、導入まで踏み切れないこともあるでしょう。

介護記録の電子化で受けられる支援を知っておこう

介護記録の電子化は業務効率化を加速させる一方で、事業者によってはコスト面でデメリットになる可能性があります。しかし、公的支援を活用すれば少ない負担で電子化を進めることができます。

介護記録の電子化には、介護事業所・施設の業務改善支援のために2019年から始まったICT導入支援事業の活用がおすすめです。

支援事業の補助対象は、一定の機能を実装している介護ソフトや情報端末、通信環境機器などで、要件を満たせば支援の対象となります。

補助要件はLIFEの情報収集などに協力すること、導入計画を作成することなど複数あり、事業規模に応じて導入費用の補助を受けられる仕組みです(職員等の数が1~10人の事業所の補助上限は100万円など)。

補助の割合は各都道府県の介護現場革新会議で決定され、2分の1を下限(一定の要件を満たすときは3分の4を下限)に各都道府県の裁量で異なります。

出典:「介護分野におけるICTの活用について」(厚生労働省)

まとめ

介護現場においてICT機器利用の促進などもあり、介護記録を電子化する介護事業所・施設も見られるようになってきました。電子化にはメリットもありますが、初期費用がかかる点など、デメリットもあります。

初期費用の負担を軽減してスムーズに導入するには、公的支援を活用するのもおすすめです。うまく利用して介護記録の電子化に対応していきましょう。