IADLを評価する重要性
IADL(Instrumental Activities of Daily Living)とは、「手段的生活動作」の意味を持ち、高齢者の身体能力や日常生活レベルを測る指標のことです。高齢者の日常生活動作を評価するADLには、BADLとIADLの2種類があります。
BADLは日常生活における基本的な動作の可否を示す指標に対して、IADLは複雑な日常生活動作の可否を評価する指標です。それぞれの具体的な動作は以下です。
基本的日常生活動作(BADL) | 手段的日常生活動作(IADL) |
歩行・食事・排泄・着脱衣・階段昇降・入浴など | 買い物・掃除・洗濯・料理・服薬管理・金銭管理など |
IADLは単純な動作だけでなく、動作に至るまでの選択を含めた、目的を完遂するために必要な複雑な能力を指すのです。自立した社会生活や生活の質の向上に必要な能力であり、介護や医療の現場が高齢化社会に対応するためにも重要な指標といわれています。
高齢者の自立支援の重要性が高まっている
介護の現場では、BADLやIADLの維持や向上といった自立支援の重要性が高まっています。
平成30年度の介護報酬改定にて「ADL維持等加算」が創設されました。利用者のADLの維持や向上する体制を整え、実際に改善したなど一定の要件を満たした介護事業所の算定に加算できるようになりました。
令和3年度の介護報酬改定では、ADL維持等加算の対象サービスが拡充されたり、一定の要件が緩和されたりなどの見直しがありました。
また、令和3年度の介護報酬改定の主な事項として、従来のプロセス評価からアウトカム評価へと見直す方針となったことにより、自立支援の重要性がより高まっています。
アウトカム評価とは、介護者の状態の維持や改善が問われる評価方法です。従来のような体制整備や過程・活動内容だけでなく、結果的な介護者の状態が重視されます。
自立支援は介護保険法の基本的理念です。介護の質を向上するためにプロセス評価からアウトカム評価にシフトする方針も示されており、IADLの評価の重要性はますます高まるものと考えられます。
「できないこと」の支援に目を向けられる
施設や事業所が適切なケアをするには、“利用者のできることを奪わない意識”が重要です。そのためにも、できないこと・できること、両方を明確に把握する必要があります。
できないこと・できることを明らかにせずに介護をすると、過剰介護によって、IADLの低下、あるいはADL自体の低下を招く可能性があります。要介護者のできないこと・できることを細かく判定し、できないことの支援に注力するにはIADLの評価は重要です。
IADLの評価方法
IADLの評価方法として、代表的な『Lawton(ロートン)』について解説していきます。
Lawton(ロートン)
Lawtonは、複数あるIADL評価指数のなかでも代表的な評価方法です。
「電話の使用能力・買い物・食事の準備・家屋の維持・洗濯・乗り物の利用・服薬管理・金銭管理」の8つの日常生活動作をそれぞれ3~5段階で評価します。
段階ごとに1点か0点の配点があり、合計点によってIADLをシンプルに評価できるのが特徴です。
Lawtonの評価項目8つ
以下の表は、8つの評価項目とそれぞれの評価段階の配点を示しています。
評価項目 | 採点 | |
---|---|---|
電話の使用能力 | 1.電話番号を調べて電話をかけられる
2.よく知っている電話番号にはかけられる 3.電話に出られるが、かけられない 4.電話がまったく使えない |
1
1 1 0 |
買い物 | 1.すべての買い物を自分でできる
2.少額の買い物であれば自分でできる 3.買い物には付き添いが必要 4.買い物がまったくできない |
1
0 0 0 |
食事の準備 | 1.自分で食事内容を考えて準備できる
2.材料が準備されていれば食事の準備ができる 3.準備された食事の温めはできる、または準備はできるがしっかり食事を作れない 4.食事の準備をしてもらう必要がある |
1
0 0
0 |
家屋の維持 | 1.力仕事以外の家事を一人でできる
2.皿洗いを始めとする簡単な家事はできる 3.簡単な家事はできるが清潔に保てない 4.すべての家事で手助けが必要 5.家事がまったくできない |
1
1 1 1 0 |
洗濯 | 1.自分の洗濯は一人でできる
2.小物の簡単な洗濯はできる 3.洗濯がまったくできない |
1
1 0 |
乗り物の利用 | 1.公共交通機関や自家用車を一人で利用できる
2.タクシーは一人で利用できるが公共交通機関の利用はできない 3.付き添いがあれば公共交通機関を利用できる 4.付き添いがあればタクシーや自家用車での移動ができる 5.外出がまったくできない |
1
1 1 0 0 |
服薬管理 | 1.決められたタイミングで適切な量の薬を服用できる
2.仕分けされていれば薬の服用ができる 3.薬を自分で管理できない |
1
0 0 |
金銭管理 | 1.支払いや予算など家計を自分で管理できる
2.小銭の管理はできるが預金の引き出しなどは手助けが必要 3.金銭の管理ができない |
1
1 0 |
出典:日本老年医学会
8項目で評価する場合の点数は0~8点です。男性は食事の準備と家屋の維持、洗濯を除いた5項目を採点対象としていましたが、一人で生活を送る人も増えていることから8項目すべてで評価することもあります。
その他のIADL評価方法
IADLの評価には、Lawtonのほかに『FAI』や『老研式活動能力指標』といった方法があります。
FAI
FAIは、日常の応用的動作に加え、社会活動も含めた15項目でIADLを評価するものです。
住み慣れた地域で生活できている高齢者を対象に3〜6ヶ月かけて面接調査し、それぞれの項目に0〜3点を付与し、45点満点で採点します。点数が高いほど活動的であると評価されます。
・献立の計画から調理までを含む食事の用意
・食卓から流し台に食器を運び、皿洗い・拭きあげ・収納までを含む食事の片づけ
・洗濯(※方法は問わないが、洗いから乾燥までを含む一連の作業)
・掃除や身の回りの整理整頓
・布団の上げ下ろしや家具の移動などの力仕事
・品物を自ら選ぶ・支払うなどの買い物全般
・外出
・屋外歩行(※少なくとも15分の歩行)
・趣味(※能動的な分野に限り、テレビ視聴などの受動的な活動は含めない)
・交通手段の利用
・旅行(仕事の出張は含まない)
・庭掃除
・家や車の手入れ
・読書(※新聞・週刊誌などを除く)
・収入を得る勤労
老研式活動能力指標
老研式活動能力指標は、地域に住む退職後の高齢者がどの程度の生活能力を維持しているかを測定するものです。
手段的自立・知的能動性・社会的役割についての13項目を、はい(1点)・いいえ(0点)の13点満点で評価します。点数が高いほど自立していることを示します。
・一人でバスや電車を利用した外出ができる
・日用品の買い物ができる
・食事の用意ができる
・請求書の支払いができる
・預金や貯金の入出金ができる
・書類や届出の記入ができる
・新聞を読んでいる
・本や雑誌を読んでいる
・健康を題材とした記事や番組に関心がある
・友人宅へ訪問することがある
・家族や友人の相談に乗ることがある
・病人を見舞うことができる
・自ら若者に話しかけることがある
IADLの低下を防ぐポイント
IADLが低下する主な原因は病気や加齢によるものです。ただし、生活環境の変化を始めとする精神的ストレスも、IADLの低下に大きな影響を及ぼすことがわかっています。
ここからは、IADLの低下はどのようにして防止するべきか、4つのポイントをご紹介します。
過度な介護に注意する
日常生活に多少の支障があったとしても、過度な介護は望ましくありません。本人が自立して生活するためのモチベーションを奪うだけでなく、能力の衰えまで招く恐れがあるためです。
介護者としてサポートするときは、本人の自立を妨げないようにあくまで手伝う程度に留めることが重要です。
生活環境を整える
高齢者が自立した生活を維持できるようにするには、状態に合わせた生活環境の整備が必要です。
例えば、足腰の機能の低下では車椅子が選択されることがありますが、自力で歩けるうちは杖やシルバーカーの利用で対処する方法もあります。本人の状態に応じて手すりやスロープを設置するなどの自宅のリフォームも有効な手段です。
適度な運動や外出習慣を身に付ける
IADLの低下を防ぐには、筋力の維持も重要なポイントです。
そのためには、適度な運動や外出などで体を動かす習慣を身に付けたり、栄養バランスに配慮した食事が必要です。運動の程度は、負荷が軽く毎日無理なくできるレベルにすると良いでしょう。
デュアルタスクを心がける
2つのことを同時に実行する“ながら動作”を『デュアルタスク』といいます。例えば、献立を考えながら買い物をする、歌いながら洗濯物を畳むといった動作が当てはまります。
デュアルタスクは、IADLの低下を防ぐほか、認知機能の維持にもつながります。デュアルタスクができるような活動を意識してサポートすることも重要なポイントです。
まとめ
介護報酬のADL維持等加算でのアウトカム評価導入に始まり、高齢者の自立支援のためのIADL評価や、IADL評価に適応したサポートは重要性を増してきています。適切なケアを心がけ、高齢者の自立を支援していきましょう。