常勤換算とは
介護保険法では、事業所・施設の人員配置基準が定められています。人員配置基準は、適切な介護サービスを提供する上で必要最低限の基準です。
しかし、正社員とパートなどでは労働時間が異なる場合もあるため、それぞれを1人分として考えると、人材配置基準を下回ってしまいます。
そこで、労働者の平均労働時間を1人分として、通常何人で働いているかを示すのが常勤換算です。
人員配置基準の具体的な区分は、「常勤・専従」「常勤・兼務」「非常勤・専従」「非常勤・兼務」です。常勤換算では、常勤・専従を1として、そのほかの従業員が常勤・専従の何人分に相当するかを換算します。
例えば、訪問介護では一定の資格を有する介護職員が常勤換算で2.5人以上必要など、介護保険法に定める事業所・施設で必要な人員配置は異なります。
常勤換算の計算方法
常勤換算はどのようにして行われるのでしょうか。ここでは計算方法を順に説明します。
週あたりの労働時間を計算する
まず、常勤の従業員が勤務すべき週あたりの労働時間について把握します。勤務すべき時間とは、事業所・施設の就業規則に基づいた所定労働時間のことです。
例えば、1日の所定労働時間が8時間で週5日勤務の場合、所定労働時間は40時間です。
なお、常勤の従業員の所定労働時間が週32時間未満のときは、週32時間を基本として計算することを把握しておきましょう。
常勤職員の人数を把握する
次に、常勤・専従の職員の人数を計算します。常勤に該当するかどうかは、労働時間が所定労働時間を満たしているかで判断するため、雇用形態は問われません。所定労働時間が正職員と同じような場合は、パートなどでも常勤として考えます。
令和3年度の介護報酬改定では、育児や介護で所定労働時間の短縮措置が取られている従業員の扱いが変更されました。一定の要件を満たすときは、対象者について例外的に週30時間以上の勤務で常勤とみなすことができます。
出典:「令和3年度介護報酬改定について」(厚生労働省)
なお、計算にあたっては、常勤のうち、業務に専従している職員のみをカウントします。複数の業務を兼務している職員については兼業者となるため、常勤・専従には含めません。
非常勤職員の平均労働時間を計算する
非常勤職員、兼務職員がいる場合は兼務職員、それぞれひと月当たりの労働時間を把握し、週当たりの平均労働時間に換算します。
例えば、常勤・兼務の職員Bの4週の合計労働時間が130時間、非常勤・専従の職員Cの4週の合計労働時間が110時間だった場合、BとCの合計労働時間は240時間です。合計労働時間を4で除して1週当たりの労働時間に換算すると、BとCの1週当たりの平均労働時間は60時間になります。
常勤と非常勤の平均人数を合算する
常勤・専従の職員を1として、常勤・専従以外の職員の平均労働時間が常勤・専従の職員何人分になるかを換算します。
常勤・専従の職員の人数に、そのほかの職員の換算数を加算したのが常勤換算人員数です。具体的な計算方法について、次の項で解説します。
常勤換算の計算方法の例
常勤換算について、具体例を挙げながら計算方法を解説します。
(例)常勤職員3人、非常勤職員5人の事業所・施設のケース
非常勤職員の労働時間はそれぞれ次のとおり。
A:4週の合計労働時間80時間
B:4週の合計労働時間60時間
C:4週の合計労働時間100時間
D:4週の合計労働時間70時間
E:4週の合計労働時間90時間
【換算方法】
1.週当たりの労働時間の計算
当該事業所・施設における常勤職員の勤務すべき週当たりの労働時間は、1日8時間勤務、週2日休みの就業規則により週40時間。
2.常勤の職員の人数
常勤の職員は3人。
3.非常勤の職員の労働時間の計算
非常勤職員A~Eの月の合計労働時間は400時間、週あたり平均100時間。
4.常勤と非常勤職員の平均人数の合算
常勤職員3人:3
非常勤職員5人:100÷40=2.5
合計:3人+2.5人で、常勤換算人員数は5.5人。
常勤換算の計算が難しい場合は、厚生労働省の「常勤換算シート(ダウンロード)」の利用がおすすめです。
常勤換算における3つの注意点
ここまで常勤換算の手順について具体例を挙げながら説明してきました。常勤換算にあたっては注意しなければならない点もあります。ここでは3つの注意点をご紹介します。
有給休暇の扱い方
常勤職員と非常勤職員では、労働時間に有給休暇や出張を含めるかの扱い方が異なります。非常勤職員については、基本的に有給休暇や出張を労働時間に含めることはできません。
常勤職員については、有給休暇や出張の期間、欠勤まで労働時間に含まれます。ただし、常勤職員であっても、出張や休暇が1ヶ月を超える場合は、翌月から労働時間に含められなくなるため注意が必要です。
なお、労働時間は月によって変動し、年末年始など営業日数が少なく労働時間がほかより大きく減少してしまうような月も出てきます。このようなケースでは、労働時間ではなく、実際の開所日数で常勤換算をします。
兼務の扱い方
併設の事業所・施設や系列グループで、介護職員が複数の業務を兼務するケースもよくみられます。原則、同一の敷地内かつ同一の法人が運営をしている事業所・施設であれば兼務は可能です。
人員配置基準において兼務できる職種であれば、兼務している業務の労働時間も含めて常勤換算できます。
しかし、管理者など、兼務が制限されるような職種もあります。兼務か専従かだけでなく、兼務が制限されていないかどうかも常勤換算の計算に関わってきますので注意しましょう。
育休・産休の扱い方
育児休暇や産後休暇を取得している常勤職員がいる場合は注意が必要です。基本的に1ヶ月を超える長期の休暇として扱われるため、労働時間に含めずに常勤換算することになります。
ただし、常勤換算の計算方法でも簡単に触れましたが、育児休暇や産後休暇明けで短時間勤務をする常勤職員については、一定の要件を満たす場合に例外として常勤の扱いができます。
具体的には、以下の条件のすべてを満たす場合は、育児休暇明けなどで短時間労働をしている常勤職員について、週30時間勤務で常勤換算することが可能です。
【常勤換算の条件】
・育児の対象が3歳未満の子どもであること
・就業規則などで育児をする短時間勤務職員の勤務時間が明確に規定されていること
・利用者に支障のないよう事業所が体制を整備していること
常勤換算と合わせて把握したい人員配置基準
常勤換算と密接に関わっているのが人員配置基準です。以下の表は、主な介護施設の職種別の人員配置基準になります。
職種 | 有料老人ホーム | 介護老人福祉施設 | 介護老人保健施設 |
医師 | – | 必要数 | 常勤1人以上 |
薬剤師 | – | 利用者・入居者300人に対して1人が基準 | |
看護職員 | 入所者30人に対して1人以上
50人増すごとに1人追加 ※常勤換算 |
入所者3人に対して1人以上
※端数を増すごと |
利用者・入居者3人に対して1人が基準
(うち看護は2/7以上) |
介護職員 | 要介護者3人に対して1人以上
(看護職員含) ※常勤換算 |
||
理学療法士・
作業療法士・ 言語聴覚士 |
– | – | 利用者・入居者100人対1 |
機能訓練指導員 | 1人以上
※常勤換算 |
1人以上 | – |
栄養士 | – | 1人以上 | 定員100人以上で1 |
生活相談員 | 1人以上
※常勤換算 |
入所者100人に対して1人以上
※端数を増すごと |
– |
支援相談員 | – | – | 利用者・入居者100人に対して1人以上
※常勤1人以上 |
ケアマネジャー | 1人以上
※常勤換算 |
1人以上
※100人または端数を増すごと |
利用者・入居者100人に対して1人以上 |
事業所・施設を運営する上では、常勤換算を行い、人員配置基準を満たさなければなりません。
人員配置基準に違反した場合は、厳しい処分が下ることがあります。まずは指導や監査の対象となりますが、改善されない場合はサービスの停止や指定の取り消しとなることもありますので注意が必要です。
まとめ
介護サービスを提供する事業所・施設では、どの職種の人員をどのくらいの割合で設置するべきか人員配置基準が定められています。人員配置基準は介護保険法に定められたもので、事業所・施設は、この基準を満たした上で運営しなくてはなりません。
人員配置基準を満たす上で必要になってくるのが常勤換算です。単に職種に該当する人数が確保できているだけでは人員配置基準を満たせないこともあります。そのため、非常勤職員や兼務者を常勤に換算する常勤換算の計算について理解し、人員配置基準を下回らないようにしましょう。
また、常勤換算の考え方や兼務の考え方は、自治体によって多少解釈が異なるケースがあるので、その点も押さえておくことが大切です。