BCPとBCMの違いとは
まずはBCPやBCMそれぞれの意義と違いについて解説していきます。
BCP=業務継続計画
BCPは、Business Continuity Planの頭文字を取った言葉で、事業継続計画を意味します。災害や感染症の発生などの緊急事態が発生したときに、被害を最小限に抑えて、事業復旧をいち早く試みるための計画です。
BCPの主な目的は緊急事態が起きた場合でも被害を最小限にして、事業を継続させることです。介護事業所・施設では、自然災害だけでなくインフルエンザや新型コロナなどの感染症に備えたBCPの策定が必須です。
BCM=事業継続マネジメント
BCMは、Business Continuity Managementの頭文字を取った言葉で、事業継続管理といいます。あらゆるリスクについて認識し、復旧のために有効なプロセスは何か、防災やBCPの策定・改善・運用まで総合的に分析します。
BCPのように、非常事態そのものへの対策でない点がBCPとBCMの大きな違いです。BCMは、BCPを活用しながら、計画・導入・運用・改善まで、リスク分析を含めたあらゆる観点から運用方針を策定していくことになります。
BCPやBCMが必要とされる理由
BCPやBCMが重視されるのは、万が一の事態が発生したときに事業が機能できるようにしておくためです。
特に、介護サービスは、利用者だけでなく、利用者の家族の生活にも関わってきます。緊急事態が起こったときも利用者とその家族をサポートする上で、BCPやBCMを策定しておくことは重要です。
過去には、緊急時の計画や訓練などの実施が不十分であったために損害賠償が生じた例もあります。大規模災害の増加、感染症の流行などが発生した昨今においては、適切な対応ができるように体制を整えておくことが必須です。
また、非常事態発生時に事業がストップした場合、速やかに復旧できない体制のままでは利用者などからの信頼を失ってしまうこともあります。
介護サービスの事業停止が社会全体に大きな影響を与える可能性もありますので、平時のうちにBCPやBCMの策定を行い、非常事態発生時に実践しておけるようにしておくことが重要です。
BCPとBCMの対策手順
BCPやBCMの対策手順を説明していきます。
1. 基本方針を策定する
まず、事業内容や事業を取り巻く環境を把握した上で、何を優先して継続するべきか重要な事項を明確にします。優先事項を踏まえて、事業継続への考えを示すBCMの基本方針を策定していきましょう。
なお、非常事態に関して、自然災害と感染症については事業継続の方針が大きく異なります。自然災害において特に重要なのが、災害後の早急な復旧とできる限りの事業の継続です。
一方、感染症については利用者や職員の感染リスク、業務継続の社会的責任、必要な収入の確保など、不確定な要素が多くなります。状況に合わせて事業継続レベルを決定するには、正確な情報の入手と的確な判断を行うための方針を定めることが重要です。
2. インパクト分析と検討を行う
インパクト分析は、BCPやBCMを策定していく上で重要な分析です。インパクト分析は緊急時の事業リスクを分析することで、事業の脆弱性や想定される被害の規模、事業への影響などを分析していきます。
分析結果は、目標の復旧時間の設定、目標の復旧レベル、復旧順位などの設定にも関わってくるものです。
なお、インパクト分析はBCPやBCMの策定の根幹となるため、事務所の移転や組織の重要な変更、業務の大幅な変更などがあった場合には、変更後速やかに実施することが求められます。
3. 計画を策定する
基本方針やインパクト分析の結果をもとに、事業継続の計画に落とし込んでいきます。BCPの策定では、早期復旧を目標とした対策だけでなく、被害を最小減に留めるための事前の対策の検討も必要です。
感染症対策については、いかに感染症が施設内などに広がらないようにするかといった感染防止策が重要なポイントになります。事前の防止策を講じておき、非常時に実行することで、感染症拡大を最小限に抑えることも可能です。
自然災害対策では、災害発生時に必要な物資が不足するおそれもあります。介護サービスの提供で必要な資源が不足した場合にどのように補うか、あるいは普段からどの程度備蓄しておくかを計画に盛り込むことがポイントです。
また、感染症や自然災害による非常時では職員が不足するケースも想定されます。例えば職員の不足が起きた場合、同じ法人の別施設に応援を要請する、退職した職員に依頼できるような体制を整えておく、地域の事業所や施設に応援を要請するなどの具体的な対策が考えられるでしょう。
このように、具体的な行動にまで落とし込んで計画を策定していきます。
4. 社内への周知を徹底する
基本方針を決め、計画を策定しただけでは、非常事態が起きたときにうまく実行できない可能性があります。スタッフに重要性を周知した上で、継続して教育を行ったり、訓練を実施したりして、非常時に備えることが重要です。
緊急時にBCPを実践できるように、平時から育成に力を入れて、緊急時を想定した行動ができるようにしておきます。
5. 課題を見直して改善する
策定したBCPやBCMの有効性の維持、または向上のためには、その内容や実施状況を定期的に見直すことも必要です。
年度ごとの見直しだけでなく、社内または社外で大きな環境の変化があったときは、有効性に問題がないか確認して改善していくようにしましょう。必要に応じて見直しを行い改善していくことで、緊急事態がいつ起きても対処しやすくなります。
BCP・BCMを実施する際のポイント
BCP・BCMを実施するにあたってどのような点に注意すれば良いか、押さえておきたいふたつのポイントを取り上げます。
企業存続に影響するタスクを最優先にする
事業継続のためには、企業存続に関わるタスクを優先することが重要です。どのような事業やタスクを優先するべきかは事業者によって異なります。介護事業所や施設においては、社会的責任なども考慮した上で最優先に設定するべきタスクを決定していくと良いでしょう。
策定自体が目的にならないようにする
BCPの策定やBCMの実施自体が目的にならないようにすることも重要です。BCPやBCMの策定は、緊急時も踏まえた事業継続を目的としたものであって、実際に緊急事態が起こったときに実行可能なものでなければ役に立ちません。
実際に行動できるような計画にすることはもちろん、緊急事態が発生したときにすぐに行動できるような体制を整え、訓練を実施しておくことも必要です。実行可能な計画であることを重視して、計画の策定を目的と取り違えないようにしましょう。
まとめ
BCPは緊急事態が起きたときにいち早く事業を復旧させるための事業継続計画、BCMはあらゆるリスクを認識して計画から改善まで総合的な運用方針を決める事業継続マネジメントのことです。
昨今、多くの事業者が大規模な自然災害や感染症の拡大を経験しました。これらの緊急事態について対策がしっかり講じられていないと、利用者やその家族との信頼関係に影響があるだけでなく、緊急事態発生時に被害が拡大するおそれもあります。
BCPやBCMを平時に策定しておき、いつでも実践できるように職員への周知や教育、訓練を実施しておくことが重要です。