【活用事例5選】介護業界へのAI導入で得られる効果とは?

人口減少を迎える日本にとってAI(人口知能)が幅広く社会に普及して活用されることで、働き方や雇用が大きく変化すると予想されています。近年はAIを用いた会話型チャットサービスが広く認知されましたが、今後ますますAIの技術発展は進んでいくでしょう。 今やAIの活用は、多くの業界で労働生産性の向上が期待されており、介護業界も例外ではありません。そこで今回は、介護業界でAIが注目される背景や介護現場におけるAI活用の事例をご紹介します。


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介護業界でAIが注目される背景

AIが介護業界でも注目される背景として、深刻な介護人材不足があげられます。国立社会保障・人口問題研究所が公表した「日本の将来推計人口」には、2025年以降は人口の割合が多い団塊世代が後期高齢者(75際以上)に達すると推測されています。一方で、労働人口は減少していくため、後期高齢者を支える介護職員の数が不足すると考えられます。

団塊の世代約800万人が後期高齢者になり、社会保障関連費の負担増や介護人材不足が一気に加速すると予想されるでしょう。加えて、厚生労働省の調査によると、2040年度には介護職員の必要数が約280万人を突破すると推測されています。

このような背景に伴い、介護サービスの質や効率を向上させる必要性が高まっています。AIの活用は、人手不足や介護職員の負担軽減に寄与し、介護業界全体の効率的なサービス提供を支援することが期待されています。

出典:「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」(厚生労働省)

介護現場におけるAI活用事例

AI技術の発展により介護サービスの質と効率を向上させる見込みがあります。それでは具体的にどのような技術が取り入れられるのでしょうか。ここでは介護現場におけるAI活用の事例をご紹介します。

事例1.AIセンサーの導入

AIセンサーを導入することで、以下のような効果が期待できます。

・巡回の回数が減り、介護職員の負担が軽減できる
・転倒や抜け出しなどのトラブルが起きたときに、速やかに対処できる

AIセンサーは利用者や入居者の体温、心拍数などを、AIセンサーと連携したシステムを用いてモニタリングし、異変があればアラートで知らせるものです。

介護事業所・施設のあらゆる場所にセンサーを設置し、プライバシーを侵害しない範囲で利用者・入居者の行動を把握することができます。

事例2.介護記録AIアプリ

介護記録AIアプリとは、介護記録や連絡、申し送りといった介護職員の間接業務をサポートするAIアプリです。

利用者・入居者の名前と介助内容を声に出すだけで、アプリが必要な言葉だけを認識し、自動で記録してくれます。

スマートフォンやタブレットがあれば利用でき、専用の機器などは必要ありません。介護記録AIアプリの導入により、以下のような効果が期待できます。

・会話内容をメモして打ち込むなどの二度手間が削減できるため、業務効率化につながる
・その場ですぐに記録できるので、介護記録の抜け漏れを防げる
・介護記録や申し送りがデータ化されるため、職員間での連絡や情報共有がスムーズになる

非効率な間接業務が削減されると介護職員の負担が減るだけでなく、利用者・入居者と向き合える時間が増えるため、介護サービスの質も上がるでしょう。

事例3.ケアプランの作成ツール

ケアプランの作成も、AIを活用することが可能です。たとえば、AIを搭載したケアプラン作成ツールなら、AIが利用者・入居者の基本情報や現状から将来像を予測し、自動でケアプランを提案してくれます。

ケアプラン作成ツールを導入すれば、以下のような効果が得られるでしょう。

・アセスメントの分析結果を確認できるので聞き漏れを防げる
・利用者・入居者の将来の状態や要介護度の予測が数値で可視化されるため、本人や家族が納得しやすくなる
・悪化する可能性が高い項目について、今後どのようなケアやサービスを実施するかを検討したり、早めに医師に相談したりできる

事例4.送迎ルートの作成サービス

介護事業所・施設の業務のなかでも負担が大きい「送迎」でもAIが活躍します。通所介護の利用者・入居者の送迎は、ただ送り迎えすれば良いわけではありません。

車椅子の利用者・入居者はいるか、施設と自宅がどれくらい離れているかなど、さまざまなことを考慮して送迎する必要があります。そのため、送迎ルートの作成に時間がかかっている介護事業所・施設も多いでしょう。

そんな介護職員に負担がかかる送迎ですが、AIを搭載した送迎ルートの作成サービスを利用すれば、登録した情報をもとに自動で送迎ルートを作成してもらえます。送迎ルートの作成サービス導入によって期待できる効果は、以下のとおりです。

・送迎計画作成の時間が短縮できるようになり、送迎業務の工数が大幅に削減できる
・本来の業務に充てる時間が増え、介護サービスの質向上につながる

事例5.コミュニケーションロボット

高度なコミュニケーション知能をもつAIロボットを活用すれば、職員の負担を軽減するだけでなく、利用者・入居者のQOL向上にも役立ちます。

主にレクリエーションやお出迎え、お見送りなどの際に、介護職員の代わりにAIロボットが対応します。

AIロボットを導入することで、以下のような効果が期待できるでしょう。

・コミュニケーション不足による利用者・入居者の抑うつが軽減できる
・リハビリの待ち時間の対応をAIロボットが担うことで、介護職員の負担が軽減できる
・AIロボットがクイズ、音楽など多種多様なレクリエーションを行うことで、レクリエーションの質が向上する
・介護レクリエーションに慣れていない職員が、AIロボットのサポートにより安心してレクリエーションに入れる
・AIロボット考案の転倒予防運動などにより、効率的なリハビリができるようになる

AIの導入で活用できる補助金制度

AIを導入すれば業務効率化や人材不足の解消につながるものの、費用面で導入をためらっている事業者もいるのではないでしょうか。

ここでは、AIの導入で活用できる補助金制度についてご紹介します。

IT導入補助金

IT導入補助金とは、中小企業・小規模事業者などが業務効率化や課題解決のためにITツールを導入する場合に、費用の一部を補助する制度です。補助額は最大で450万円、補助率は1/2~3/4となっています。

※2023年6月時点での情報です。

出典:「生産性向上を目指す皆様へ」(経済産業省)

自治体の補助金事業

自治体によっては、独自にAI機能が搭載された機器の導入に使える補助金事業を実施しています。

具体的には、以下のとおりです。

・東京都三鷹市:介護ロボット等導入支援事業補助金
・岐阜県関市:中小企業競争力強化補助事業
・鳥取県:介護分野ICT導入支援事業 など

実施期間や補助金額、補助対象となる条件などがそれぞれ違うため、自治体のホームページなどで確認しましょう。

参考:
介護ロボット等導入支援事業補助金」(東京都三鷹市)
中小企業競争力強化補助事業」(岐阜県関市)
鳥取県介護分野ICT導入支援事業」(鳥取県)

※2023年6月時点での情報です。

まとめ

近年、さまざまな業界で急速に普及しているAIは、介護業界でも人手不足解消や介護サービスの質向上を目的として導入されています。

ただし、現場でのAIの使い道は一部の業務に限られ、全体的な業務効率化は実現が難しいのが現状です。また、各種補助金は活用できるものの、導入にかかる初期費用のほか、継続的なメンテナンスや再学習などのコストもかかります。

AI導入にあたっては、将来的なメリットや運用コストをふまえて検討する必要があるでしょう。