介護事業の経営において最も大切にすべきこと
介護事業の経営において大切なのは、事業所・施設においての介護理念や経営理念を職員にしっかりと伝えることです。
地域全体をより良くしたい、その人らしいシルバーライフを支えたい、職員たちの笑顔が溢れる職場にしたいなど、事業所・施設により理念は異なります。しかし、理念に則った行動をするだけでなく、「介護の目的とはなにか」を職員たちが日々意識できるよう、事業者から発信することも大事です。
介護事業所・施設の運営には、設備費や人件費などのさまざまな経費が発生します。事業継続のため、売上に注目せざるを得ないときもあるでしょう。
しかし、売上の確保に集中するあまり、介護という仕事の本質を忘れてしまってはいけません。介護の本質は“人々が快適に老後の生活を送れるよう多方面からサポートする”ところにあり、売上の確保はそれを達成するための手段にすぎないのです。
“目的(=理念、介護の本質)”と“達成するための手段”は切り分けて考える必要があるため、介護職員にはこの2つを明確にして説明することが有効です。「日々の業務はあくまで“目的(=理念、介護の本質)”を追求するためにある」と伝えましょう。
では、“目的(=理念、介護の本質)”を示す『介護の三原則』とは、どのようなものでしょうか。改めて振り返ってみましょう。
【3つの基本理念】介護の三原則とは
介護の世界には、『介護の三原則』という基本理念があります。これは、1982年に福祉先進国・デンマークで提唱された考え方で、現在では日本をはじめ世界中で取り入れられています。
『介護の三原則』では、高齢者一人ひとりを尊重し、いつまでも自分らしく生活できるよう支援することを目的に、以下の3つの原則を示しています。
・生活の継続性
・自己決定の尊重
・残存能力の活用
これらは介護者が忘れてはいけない介護の基本理念です。ここで改めて、3つの介護の基本理念について確認しましょう。
「生活の継続性」
介護の三原則の1つ目が、『生活の継続性』です。介護を必要とする人が、住み慣れた生活環境や生活リズム・習慣を変えることなく、できるだけ今までどおりの生活を継続できるようサポートすることを指します。
人は、生活環境や生活リズム、身についた習慣などへの大きな変化に、身体的にも精神的にも負担を感じるものです。
そのため、介護者の都合で強制的に環境や習慣を変えることがないよう注意する必要があります。
「自己決定の尊重」
介護の三原則の2つ目が、『自己決定の尊重』です。利用者・入居者が、暮らし方・生き方を自分で決められるように支援し、その決定を尊重することを指します。
介護現場では、高齢者本人ではなく家族の希望・都合などで住む場所や提供される介護サービスが決められることが少なくありません。高齢者が幸せな老後を過ごすためにも、『自己決定の尊重』は忘れないようにしたいところです。
また、利用者・入居者のなかには、「迷惑をかけたくない」という気持ちから、希望や不満があっても言い出せない場合もあります。
介護者は、利用者・入居者の気持ちに寄り添い、どんな生活を送りたいか、困ったことはないかなど、本音を引き出すことも大切です。
「残存能力の活用」
介護の三原則の3つ目が、『残存能力の活用』です。これは介護者のサポートは最低限に留め、利用者・入居者自らの能力を活かすことを指しています。
利用者・入居者ができることまで介護者がやってしまうと、利用者・入居者本人の残存能力が衰え、自立生活へのモチベーションが低下してしまうおそれがあります。
介護者はできるだけ過度な介護は行わず、利用者・入居者の「できること」をしっかりサポートしていくことが大切です。
介護の基本理念を実現するための考え方
『介護の三原則』の内容からわかるとおり、介護の理想は高齢になっても自立した生活ができるようサポートするところにあります。介護保険制度も、“自立支援”を基本理念としています。
さまざまな制限があるなかで“自立支援”を実現するために、以下の3つの考え方をとおして介護への理解を深めていきましょう。
すべての人が基本的人権の主体である
自立支援を実現するためには、「すべての人が基本的人権の主体である」という考え方のもと、介護にあたることが大切です。
介護をする側はもちろん、介護を受ける側も、誰もが異なる人格を持つかけがえのない存在であり、尊重されるべき人権があります。
忙しかったり意思疎通が困難であったりしても、プライバシーを無視した行動や冷たい態度で尊厳を傷つけてはなりません。
介護事業所・施設の利用者や入居者は、それぞれが異なる個性をもつ1人の人間であることを忘れずに、利用者・入居者の尊厳や基本的人権を守りましょう。
人間としてあたりまえの生活ができる
まるで隔離されているような場所での生活や非人道的な扱いは、“自立支援”からは程遠いものです。介護の要否や障害に関わらず、誰しもが対等・平等に、人間として健全な生活をする権利があります。
誰しもが平等かつ人間らしく暮らす権利が保障される社会を目標とした考え方が、北欧で生まれた『ノーマライゼーション』です。
自身の可能性を追求し、自己実現できる場が提供されること、社会参加を推進することも目的としており、日本では厚生労働省を主体として推進されています。
介護を必要とする人がほかの人と同じように人間らしく生活できるよう取り計らい、1人の人間としての尊厳を保てるように心がけ、サポートしましょう。
その人らしい生活を送れるよう支援する
利用者・入居者の幸せを考えるとき、“人間としてあたりまえの生活”だけでは足りません。
人間は誰しも「自分らしく楽しく生きたい」と思うものです。そのため、利用者・入居者の希望や理想を汲み取り、その人らしい生活をサポートする必要があります。
個人が望む生活を実現するには、『QOL(Quality Of Life)』という考え方が重要です。QOLとは“生活の質”“人生の質”“生命の質”を意味します。QOLを向上させることで人生に対する満足感・充実感を高めることが可能です。
QOLを向上させるためには、画一的な介護サービスではなく、一人ひとりの利用者・入居者に合わせたケアを行う必要があります。利用者・入居者本人の希望に耳を傾け、その人らしい生活が実現できるような介護を目指しましょう。
まとめ
人は誰でも、自分らしく幸せな生活を送る権利を持っています。しかし、歳を重ねてできないことが増えてくると、思い描く生活が困難になるものです。
介護事業所・施設やそこで働く介護職員は、利用者・入居者が自分らしく生きるためのサポートをする、大切な役割を担っています。
介護事業者は、職員一人ひとりが『介護の三原則』に則って行動できるよう、定期的に介護のあり方について周知する機会を設けるようにしましょう。