介護における多職種連携の強化方法とは?事例をもとに具体的に解説

介護における多職種連携の強化は、多くの事業責任者にとっての課題です。具体的にどのように連携を図り、質の高い介護サービスを実現すべきか悩む介護事業者も多いのではないでしょうか。今回は、介護において多職種連携を強化する方法について、事例を交えながら具体的に解説します。


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介護現場における多職種連携とは

介護現場におけるとは、医師・看護師・介護職員など、専門職が利用者・入居者のために、それぞれの知識を持ち寄りながら、ともに目標達成を目指すことを意味します。

労働人口が減っている現代においては、それぞれの職種が自分の役割をこなすことだけを考えるのではなく、連携してサービスを提供することが求められる時代です。逆に言えば、一人ひとりには限界があっても、多職種で連携すれば質の高い介護サービスが実現します。

厚生労働省は2025年をめどに、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしができるように、包括的かつ継続的な治療・ケアを提供する「地域包括ケアシステム」の実現を目指しています。

少子高齢化や働き手不足にある日本で、地域包括ケアシステムの強化が図られなければ働き手それぞれの負担が大きくなると考えられます。日本は、多職種連携を具体的に行動に移すべき局面にあります。

出典:「地域包括ケアシステム」(厚生労働省)

介護現場の多職種連携が抱える3つの課題

介護現場における多職種連携は、多くの事業所・施設が抱える課題です。ここでは、具体的な3つの課題をお伝えします。

コミュニケーションの課題

コミュニケーションを取ろうにも、時間的余裕がなかったり、つながりが持てなかったりする例が挙げられます。

たとえば、特定の職種のスタッフが忙しい状態にあると、意思疎通を図るタイミングがなく、最低限の声かけにとどまってしまうケースが考えられます。

また地域包括ケアシステムの強化を作り上げる上では地域の支援も欠かせませんが、事業所・施設や医療機関や地域包括支援センター、自治会、NPOなど地域資源の活用方法がわからない場合もあるでしょう。

サービス提供の課題

多職種が連携しながらサービスを提供する上での課題は、それぞれの職種がもつ視点や役割の違い、情報共有の難しさにあります。職種によって捉え方や優先順位が異なり、もっている知識も異なります。

そのため、連携時には意思疎通を図り、視点を合わせなければ必要としている情報を共有することもままなりません。

チームとしての課題

幅広い職種の職員が集まると、異なる職種のメンバーの能力や理解度を測ることができず、チームとして機能しない場合があります。すり合わせに時間を要し、ストレスにつながるかもしれません。

また、異なる専門性をもつ職員同士のコミュニケーションがうまく進まない可能性も考えられます。

介護の多職種連携を可能にする3つのポイント

ここからは、多職種連携を実現させるための3つのポイントを詳しく解説します。現場の状況と照らし合わせながらご覧ください。

リーダーを立てる

多職種連携の実現に向けて、リーダーを立てることは重要です。特に介護の場においてリーダーがいなければ、まとまりが欠けケアの質が低下するおそれがあります。

リーダーを選ぶために、以下の能力を備えているか確かめます。

・コミュニケーション能力
・リーダーシップ・人間力
・介護の知識・スキル

介護サービスでは、専門性が高く幅広い職種の職員が関わるため、正確な情報伝達や周囲の人々を理解するコミュニケーション力が必要です。さらに、一人ひとりに適した指導や教育ができる人間力は、職場の雰囲気を良くする上でも大切です。

複数人が同じ目標に向かうためには、リーダーのまとめる役割が不可欠です。リーダーがいなければ、質の高い介護サービスを提供することはできません。

役割を明確にする

一人ひとりがすべき役割が明確になると、効果的な介護サービス提供が実現します。また、スキルや知識が異なっても意思統一ができるのは大きなメリットです。

実際の現場では、明確な役割とあいまいな役割が混在している場合が多くあります。しかし、もっとも大切にすべきは、利用者・入居者にとってより良いサービスを提供することです。

役割分担の方法を理解するために、地域で開催されているグループワークや研修に参加することは有効な手段です。現在の教育体制を見直し、前向きに検討しましょう。

出典:「在宅医療・介護連携推進事業の現状と課題について」(厚生労働省老健局老人保健課)

情報共有を徹底する

一人ひとりの役割を共有し、具体的に学び合うことで、利用者・入居者に提供すべき介護サービスの全体像が把握できます。

例えば、介護のケアプランを作成するにあたり、利用者・入居者本人の状況や家族からの要望、関わる職種の役割、目標などを網羅的に考える必要があります。有効なケアプランを立案するにはカンファレンスを開催し、目的意識の統一を図る仕組みづくりが重要です。

すぐにできる情報共有の方法として、数字を意識したコミュニケーションがあります。たとえば「◯時に誰が◯を◯回する」と、具体的に数字で落とし込めば、認識のズレを防ぐことができます。

介護の多職種連携を成功させた具体例5選

ここからは、厚生労働省が発表している資料から、多職種連携と情報共有に関する具体的な事例を5つ紹介します。

千葉県柏市「柏モデルガイドブックの発行」

顔が見える関係を構築しようと、柏市は事務局として連携ワーキンググループを発足させました。多職種の代表者からなるグループは、業務上で直面している課題と解決策を議論して「柏モデルガイドブック」をまとめて発行しています。

また「顔の見える関係会議」を立ち上げ、多職種が連携するためのルールを策定したり、多職種連携が構築しやすい環境を作ったりと、職種の垣根を超えて活発に活動しています。

出典:「平成27年度厚生労働省委託事業地域における医療・介護の連携強化に関する調査研究」(厚生労働省)

和歌山県紀美町「ケアマネージャーによる医療機関の訪問」

ケアマネージャーとかかりつけ医との連携を活性化させるために地域包括支援センターが主体となり、ケアマネージャーが町内の医療機関を訪問する取り組みを始めました。

この取り組みが功を奏し、ケアマネージャーがかかりつけ医に担当している利用者に関する相談がしやすくなり、スムーズに連携できるようになりました。

出典:「平成27年度厚生労働省委託事業地域における医療・介護の連携強化に関する調査研究」(厚生労働省)

熊本県熊本市「グランドデザインの策定」

元々熱心に多職種連携を進めていたものの、限定的な活動にとどまっていました。そこで「くまもと医療都市2012グランドデザイン」を策定し、市全体として活動を後押しする方針に変わりました。

検討会を通じて、現場レベルでの顔が見える関係づくりが必要との指摘を受け、多職種連携研修会の立ち上げに至り、意見交換を活発に進めるためのネットワークが構築されました。

出典:「平成27年度厚生労働省委託事業地域における医療・介護の連携強化に関する調査研究」(厚生労働省)

大分県国東市「情報共有ルールの作成」

従来から、退院時に病院が必要と考える情報を退院先の介護保険施設に提供しているものの活用されていないことが課題でした。また再入院の際の情報不足もあるなど、それぞれの活動が細切れの状態でした。

そこで、医療・介護関係者が必要とする情報や、その共有方法を聞いたアンケートをもとに情報共有ルールを作成しています。

現在は「くにさき地域包括ケア多職種連携マニュアル」として公表されており、入院・退院の円滑な情報提供に役立てられています。

出典:「平成27年度厚生労働省委託事業地域における医療・介護の連携強化に関する調査研究」(厚生労働省)
出典:「くにさき地域包括ケア多職種連携マニュアル」(くにさき地域包括ケア推進会議)

山形県鶴岡市「顔の見える関係の構築」

対面の交流を重視した「庄内プロジェクト」を運営し、顔の見える関係が構築しやすい環境を作り上げています。

具体的には、ICTシステムを導入して情報共有を強化しました。アクセス権を持つすべての施設が自由に書き込み可能な共有カルテをベースに、家族やヘルパーの見守り状況も共有できるツールを作り上げています。

出典:「平成27年度厚生労働省委託事業地域における医療・介護の連携強化に関する調査研究」(厚生労働省)

まとめ

介護における多職種連携は、多くの事業者にとって課題になっています。多職種連携を強化するためには、成功事例を自社に落とし込み、実現可能な形に整備する必要があります。紹介した連携強化に資する3つのポイントから、検討を始めてみてはいかがでしょうか。