介護現場での事故を防止するには?トラブルへの対処法も解説!

介護現場では利用者の転倒や誤嚥、誤薬など事故のリスクが絶えません。介護事業所・施設の責任者の中には、未然に介護事故を防止するための施策を考えている方もいるのではないでしょうか。そこで今回は介護事故の事例とその原因、日々の運営の中で実施することができる事故防止策について解説します。また万が一、介護事故が起こったときの対応についてもご紹介していますので、ぜひ参考になさってください。


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介護事故の定義とは

厚生労働省が公表している介護事故の定義は以下の通りです。

「社会福祉施設における福祉サービスの全過程において発生する全ての人身事故で身体的被害及び精神的被害が生じたもの。なお、事業者の過誤、過失の有無を問わない」

引用元:「福祉サービスにおける危機管理(リスクマネジメント)に関する取り組み指針 ~利用者の笑顔と満足を求めて~」について(厚生労働省)

つまり、利用者・入居者のケア中に起きたアクシデントはすべて介護事故に分類されます。軽微なものから利用者・入居者の命に直結するものまで、さまざまな種類があります。

なお、利用者・入居者同士によるトラブルやスタッフのケガ、入院などは介護事故には含まれません。

介護事故の種類

介護現場では、具体的にどのような事故が発生しているのでしょうか。具体的な事例とその原因をご紹介します。

転倒・転落

要介護者の転倒・転落は介護現場で頻発しやすい事故のひとつです。例えば、歩行中や車椅子からの移乗、ベッドからの移乗など、あらゆる状況で転倒・転落のリスクがあります。

転倒・転落は大きな怪我につながる可能性が高く、大腿骨など主要な骨を損傷するケースも珍しくありません。

特に大腿骨を骨折すると、歩けるまでに時間がかかります。その間に筋力などの身体機能が衰えてしまい、寝たきりや車椅子生活になることも少なくありません。

誤嚥(ごえん)・誤飲

誤嚥とは、口に含んだ水分や食物が胃に送り込まれず、誤って肺に入ってしまう現象です。年齢を問わず誰にでも起こりますが、通常は咳反射によって嚥下のルートを戻し、胃袋に送り込まれています。

しかし、高齢者は体力が低下している場合も多く、むせ込んでも排出されずに気管に入り込んでしまうことも少なくありません。

肺に送られた異物から細菌が繁殖し、誤嚥性肺炎を引き起こす可能性もあります。誤嚥性肺炎は高齢者の主要な死因のため、介護現場でもより注意すべき事象としてあげられています。

誤薬

誤薬とは、利用者・入居者が薬の用量を間違えて飲んだり、誤って他人の薬を飲んだりする事故のことです。誤薬は種類や量によっては命に関わる事故のため、配薬などの人為的な作業には十分に注意が必要です。

また、介護職員は看護師・薬剤師との連携を深めるのも、誤薬を防ぐうえでは重要です。薬を管理している看護師や薬剤師から各利用者・入居者がどのような薬を処方されているのか確認しましょう。

紛失・破損

利用者・入居者が大切にしている所有物の過失・破損も介護事故に含まれています。例えば、以下のような事例があげられます。

・ベッドのうえに利用者・入居者を横にしたときに、眼鏡が下敷きになっていた
・利用者・入居者から一時的に預かった補聴器を壊してしまった など

利用者・入居者個人の所有物を失くしたり、壊したりすれば事業所・施設として損害賠償の責任が発生します。

介護事故を予防するための対策方法

実際の現場でも導入されている介護事故防止策について見ていきましょう。

ヒヤリハット事例を共有する

介護におけるヒヤリハットとは、事故には至らなかったが「ヒヤリ」や「ハッ」とする事態のことです。例えば、利用者・入居者が車椅子から自力でベッドに移乗しようとした際に転倒しそうになり、寸前で介護職員が体を支えた、などがあげられます。

介護職員は、過去のヒヤリハットの事例を全体に共有し、迅速に対策を講じる必要があります。そのためには介護職員同士のコミュニケーションや利用者・入居者の介護に関わる方々の連携が不可欠です。

各自の体験を報告書などにまとめ、その原因を共有することで、より安全で質の高い介護を提供することにつながります。

事故が起こりにくい環境・仕組みを整備する

介護現場の事故防止策として、介護職員のミスを防ぐために管理に注力したり、介護職員の注意力を高める活動を実施したりなど、さまざまな対策を講じている介護事業者もいるでしょう。

ただし、介護現場での事故防止を徹底するのであれば、介護事業所・施設で環境を整備し、事故を防ぐ仕組みを作る必要があります。

まずは、注意深くしていても誰でもミスをすることを念頭に置いて、本質的な原因に目を向けることが大切です。

例えば、利用者・入居者が車椅子からベッドに移乗するときに転倒した場合、安全機能が低い車椅子に問題があるとも考えられます。安全性を考慮して車椅子に変更することで再発防止につながるでしょう。

また、類似したヒヤリハットの事例を共有しておけば、事故の発生を未然に防げる可能性が高くなります。

加えて、不祥事が起こったときにミスを発見できる仕組みを作ることも大切です。

例えば、服薬の前に誤薬がないか、介護職員が本人確認できるチェックリストを作ります。チェックリストには利用者・入居者の本人写真と薬の名前を記載しておき、配薬が完了した際にチェックを付ける項目を設けて誤薬を防ぎます。

仮に配薬ミスが生じた際にチェックリストが有効活用されていたか振り返ることができるので、次の対策に活かせます。

このように個人の能力に依存せず、介護事業所・施設全体で対策することが重要です。

介護職員と利用者・入居者の信頼関係を築く

利用者・入居者の中には視覚や聴覚、言語能力が低下して上手く意思疎通ができない方も多いです。利用者・入居者と適切なコミュニケーションができず、体調の異変に気付けずに介護事故を招いてしまうケースも珍しくありません。

正しいコミュニケーションを身に付け、利用者・入居者と介護職員の信頼関係を築くことで、相手の気持ちを察し、状況に応じた適切な対応ができます。

介護事故発生時の対応の注意点

介護現場で介護事故が発生した際の注意点についてお伝えします。

すみやかに適切な対処を行う

介護事故発生時にまず重要となるのが利用者・入居者の安全確認です。

転倒・転落事故であれば利用者・入居者に打撲・骨折・裂傷の兆候がないか確認します。誤薬・誤飲であれば窒息、その後の体調不良がないかを確認したうえで、少しでも異常があれば医師に報告します。

判断ミスにつながるため、思い込みはせずに利用者・入居者の観察を怠らないよう注意しましょう。

また、利用者の安全確保が確認できれば、ご家族に状況や利用者・入居者の容態を説明します。推測などは伝えずに事実のみを伝えます。

事故の状況を正確に記録・報告する

介護事故が起きた場所を撮影したり、担当の介護職員に聞き込みをしたりして、状況を正確に記録します。設備に問題がなかったのか、介護職員の対応に不備はあったのか、明確にして事故報告書を作成します。

そのあとは、公的機関に提出しましょう。介護事故の記録は再発防止のための参考資料になるだけでなく、介護事故による情報の整理や分析に用いられるのです。

まとめ

さまざまな介護事故を防止するためには、介護職員の注意力を高める活動だけではなく、介護事業所・施設全体で環境を整えたり仕組みを作ったりすることが大切です。

また、介護職員は日頃から利用者・入居者に寄り添ったコミュニケーションを取り、体調などの異変があれば、全体に共有して早期の対応をすることが介護事故の防止につながります。

とはいえ、介護事故は100%防ぐことは難しいため、もし事故があった際は迅速な対処ができるよう介護職員に対し、しっかりと指導しておきましょう。