特別養護老人ホームの待機者数は?待機解消に向けた取り組みも解説

特別養護老人ホームには入居したくてもすぐにはできない待機者が多くいます。実際どのくらいの人数の待機者がいるのか、また増減はどのような状況なのか気になるところです。 本記事では、特別養護老人ホームの待機者数について解説していきます。


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特別養護老人ホームの待機者数の現状(2022年4月1日時点)

特別養護老人ホームは原則として要介護3以上の高齢者を対象とした介護施設です。「特養」と略されることもあります。人生の最期まで安心して過ごせるように24時間体制で手厚い介護サービスを提供しています。

ほとんどの特別養護老人ホームは、29名定員のユニット型で運営されています。

現状、特別養護老人ホームの数はそれほど多くはありません。また入居できるのは申込順ではなく緊急性の高い方が優先されます。そのため、早期に申し込んでも入居できないでいる待機者が多いのが現状です。

全国の待機者数は27.5万人

2022年4月時点で、特別養護老人ホームの待機者は27.5万人です。要介護度別の内訳は以下のとおりです。

要介護度 要介護1 要介護2 要介護3 要介護4 要介護5
入所申込者数 0.8万人 1.5万人 10.5万人 9.2万人 5.6万人 27.5万人

出典:「特別養護老人ホームの入所申込者の状況」(厚生労働省)

このデータから待機者数がかなり多い状況にあり、入居したくてもできない人がいるのがわかります。

ただ、前年比で見ると要介護3以上は13.5%、要介護1と2は35.3%減少しており、待機者数は改善の傾向が見られます。

都道府県別では東京、神奈川、兵庫がトップ

特別養護老人ホームの待機者数は地域差も大きいです。全体的に見て地方では少なめですが、都市部になるほど多い傾向にあります。

2022年4月1日時点で、関東では東京都・神奈川県・千葉県、関西では兵庫県・大阪府で1万人を超えています。

都道府県別の待機者数の具体的な人数は、次の表のとおりです。

都道府県別の状況(要介護3以上の方)

都道府県名  入所申込者数 都道府県名  入所申込者数 都道府県名  入所申込者数
北海道  9,245 石川  1,592 岡山  5,789
青森  4,063 福井  2,035 広島  9,491
岩手  4,415 山梨  4,878 山口  4,563
宮城  5,347 長野  5,346 徳島  1,275
秋田  6,120 岐阜  5,740 香川  2,883
山形  3,966 静岡  5,069 愛媛  4,366
福島  6,121 愛知  7,013 高知  1,801
茨城  4,762 三重  4,191 福岡  6,909
栃木  2,892 滋賀  5,285 佐賀  1,400
群馬  2,630 京都  9,012 長崎  3,498
埼玉  7,247 大阪  10,687 熊本  3,188
千葉  10,663 兵庫  11,534 大分  2,077
東京  21,495 奈良  2,261 宮崎  2,536
神奈川  14,238 和歌山  1,790 鹿児島  4,198
新潟  8,318 鳥取  1,839 沖縄  2,924
富山  2,755 島根  3,604

出典:「特別養護老人ホームの入所申込者の状況」(厚生労働省)

特別養護老人ホームの待機者数が多い理由

特別養護老人ホームの待機者数が多い理由について見ていきましょう。

入居希望者数に対して施設数が足りない

特別養護老人ホームは有料老人ホームよりも安く利用できます。利用目的や介護サービスの内容が異なる部分はありますが、金銭的な事情から民間の施設利用が難しい方でも利用しやすいために、入居を希望する方が多くいます。

その一方で、介護業界は人手不足に陥っています。そのため、入居希望者に対して施設数が少なく、どうしても待機者数が多くなってしまいます。特に人口の多い都市部ほど、待機者数が多い傾向があります。

受け入れ体制が整っていない

新規入居者の入居前の居住場所として、もっとも多いのは自宅ですが、その次に多いのは病院です。

独立行政法人福祉医療機構の2019年度「特別養護老人ホームの入所状況に関する調査」では、自宅が80.7%、病院が73.7%でした。

出典:「2019年度特別養護老人ホームの入所状況に関する調査」(独立行政法人福祉医療機構)

特別養護老人ホームの入居者は、もともと医療機関で医療的ケアを受けていた人たちも見受けられます。

しかし、多くの特別養護老人ホームでは医療的ケアを必要とする入居者の受け入れ体制が整っていません。体制が整っている施設に入居するとなれば、それだけ待機期間も長くなってしまいます。

特別養護老人ホームの待機解消に向けた動き

特別養護老人ホームの待機解消に向けて行われている行政や民間の取り組みについて見ていきましょう。

介護保険制度の改定により入居条件を変更

2015年の介護保険制度の改正によって、特別養護老人ホームの入居申し込み条件が「原則要介護3以上」に変更されました。

この改正により、本当に特別養護老人ホームへの入居が必要な人が入りやすくなったといえます。その結果、2013年時点で約52万人いた入居待機者は、2019年には約29万人にまで減少しました。

現在特養の待機者は20万人以上とされていますが、重複申し込みの方もカウントされているため、実数は少なくなります。地域によってはほとんど待機のいないエリアもいたり、人手不足により人員基準を満たせず、自主的に空床が発生していたりすることもあります。

そのため、次期法改正の2024年4月には、特別養護老人ホームの入所要件を要介護1以上とする論点が出ています。

外国人の介護職員登用により人材不足に対応

介護業界の人材難を解消するために、政府は外国人の在留資格に「介護」を設け、外国人が日本で継続的に働けるように法律を制定しました。外国人の介護職員を登用することで、人材確保の選択肢が広がるでしょう。

独立行政法人福祉医療機構の調査によると、外国人人材の雇用状況として「現在雇用している」と回答した施設が44.9%にものぼりました。「過去に雇用していた」と回答した施設の7.8%を含めると、約半数が外国人人材の雇用の実績があることがわかります。

出典:「2021年度(令和3年度)特別養護老人ホームの人材確保に関する調査結果」(独立行政法人福祉医療機構)

特養以外の高齢者向け施設の増加

特別養護老人ホーム以外にも高齢者向けの介護施設が増えています。たとえば、住宅型有料老人ホーム・グループホーム・サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などです。

介護施設への入居を検討する際の選択肢が増えたことで、特別養護老人ホームへの申し込みが減り、待機解消につながっています。

特別養護老人ホームが今後解決していくべき課題

待機者数の問題は解消に進んではいますが、まだ十分ではありません。今後は次のような課題も解決していかなければなりません。

介護人材の確保

介護業界において、人材不足は現在でも大きな課題です。外国人介護職員を登用したとしても、それだけで必要な人員をすべて確保できるわけではありません。また、外国人介護職員が帰国する可能性も考慮しなければなりません。

さらに今後高齢化が進むことで、必要な介護職員数は2023年には約233万人、2040年には約280万人まで増加するとの見方があります。今後は、これまで以上に介護職員を確保する施策が求められます。

医療的ケアの体制拡充

現状では医療的ケアに対応できていない特別養護老人ホームも多く、対応している施設の待機者数が多い状況が続いています。

特別養護老人ホームでは医療的ケアを必要とする入居者が多いことから、医師や看護師の雇い入れなど、受け入れ体制の強化は欠かせません。

特に中重度の要介護者が必要とする医療的ケアの体勢拡充が必要です。認知症や褥瘡(じょくそう)をはじめ、胃ろう・カテーテル管理・人工肛門の管理・血糖測定などにも対応している施設は増えつつあります。

しかし、中心静脈栄養・レスピレータ管理・気管切開のケアなどに対応している施設は少ないのが実情です。

まとめ

特別養護老人ホームに入居できない待機者数は、2015年の制度改正以降は大きく減少しました。しかし、それでもなお全国で27.5万人もの待機者数がいるのが現状です。

待機者数が多い背景には、介護業界の人材不足や医療的ケアへの対応が遅れていることなどが挙げられます。待機解消に向けて、今後は人材確保と医療的ケアへの体制拡充がカギとなります。