そもそもBCPとは?
BCP(Business Continuity Plan)とは、自然災害やサイバー攻撃といった緊急事態が発生した場合でも、企業が事業継続できるようにするための計画書のことです。
BCPマニュアルには事業継続のための戦略や手順、役割分担、連絡先などを記載し、災害発生時に素早く対応できるようにします。BCP対策で想定する緊急事態の例は以下があげられます。
・天災:地震、津波、台風、豪雨、洪水、雪害などの自然災害。
・人災:火災、爆発、テロ、事件・事故、サイバー攻撃、ウイルス感染などの人為的な災害。
・停電:電力不足、施設故障、自然災害などによる停電。
・突然の病気・事故:社員の急病、交通事故などの突然の出来事による業務停止。
・社内問題:ストライキ、企業スキャンダル、組織内部の問題などによる業務停止。
・サプライチェーンの問題:サプライヤーの倒産、原材料不足、輸送遅延などによる業務停止。
・医療・福祉施設の問題:医療従事者の不足、感染症拡大、高齢者施設の災害などによる業務停止。
福祉施設を運営する介護事業者はBCP作成が義務化されており、2024年3月までに策定する必要があります。
BCPマニュアルが重要な理由
BCPマニュアルが重要な理由として、事業継続の確保があげられます。日本は災害大国といわれ、地震や津波などで企業の存続に影響が出るケースは十分あります。
個別のリスクの対策を施すことも重要ですが、それだけでは不十分です。BCPマニュアルを作成することで、あらかじめ想定されるさまざまなリスクに対する対策を総合的にまとめ、組織全体での行動指針を決めます。
近年では猛威を振るった新型コロナウイルス感染症の影響で、サプライチェーンの寸断や飲食サービスの縮小、医療業界の人手不足など、多くの業界・業種がダメージを受けました。予期せぬ事態に備えるためにも、BCPマニュアルは重要なのです。
BCPマニュアルと災害対策マニュアルの違い
BCPマニュアルは、企業が事業を継続するための総合的な指針であり、災害に限らない幅広い事象に対応するために策定されます。
一方、災害対策マニュアルは、災害が発生した場合の対応に焦点を当てたものであり、企業が被災した場合の復旧や復興に必要な対策を策定するものです。
具体的には、災害の種類に応じて、安全確保、復旧作業の手順、従業員の安否確認、顧客・パートナーへの連絡手順などを盛り込みます。
BCPマニュアルを作成する手順
BCPマニュアルは介護事業所にとって非常に重要なものです。ここでは、具体的にBCPマニュアルを作成する手順を解説します。
1. 想定されるリスクをリストアップする
BCPマニュアルを作成する際に、緊急時に想定されるリスクをすべて洗い出すことが大事です。
リスクをリストアップすることで、個別の事象に必要な対策を明確化できます。またそれぞれのリスクに対する優先順位をつけると、災害時の混乱も防ぐことができます。
考えられるリスクをあげることは、マニュアルを策定する前には想定していなかったリスクを見つけることにもつながります。
ただし、リスクをリストアップするだけでは不十分です。できる限り具現化しつつ、影響度や発生確率を評価し、優先順位をつけましょう。
2. BCPの基準を明確にする
どのようなときにBCP対策を発動させるか基準を定めることが大事です。BCPの基準を明確にすることで、トラブルが発生したときに対策を実行に移すタイミングを逃さず、事業継続に向けた迅速かつ適切な対応ができるようになります。
BCPは事業活動が停止し、復旧に時間がかかる可能性がある場合など、災害や緊急事態が発生した場合に発動させます。
例えば、「地震が起きて震度4以上の場合はBCPを発動させる」といったように具体的に数値化しておくと良いでしょう。災害の種類や規模、影響範囲に応じて基準を設定します。
また事業所・施設全体の責任者や各部門の責任者を明確にし、組織として迅速に対応できるようにすることも大切です。
3. 優先する事業や業務を絞り込む
災害や緊急事態が発生した場合、すべての事業を継続させることは極めて困難です。そのため、複数の事業を運営している事業所・施設では、事業の優先順位を決めておく必要があります。
優先すべき事業を絞り込む際には、以下のポイントを考慮しましょう。
・各法人で中核をなす事業
・入所施設など24時間体制でサービスを休止することが難しい事業
また、被災時においても、利用者・入居者の生命・健康を維持できるよう、最低限実施すべき業務を「重要業務」として選定しなければなりません。たとえば、食事や排泄、与薬などがあげられます。
さらに、重要業務を選定する際は、その業務に必要な人数についても検討しておくことが大事です。
4. 目標復旧時間・目標復旧レベルを設定する
BCPマニュアルの作成において、目標復旧時間(RTO)・目標復旧レベル(RLP)を設定することが重要です。
目標復旧時間は、BCPが発動した場合に、どの程度の時間で事業を再開できるか、時間を示すものです。一方、目標復旧レベルは、中断した事業活動をどの程度のレベルまで再開させるかを度合いで示すものです。
例えば、「RTOが1日、RLPは40%」であれば、特定の災害が発生した1日後までに、4割まで復旧させることが目標となります。
目標復旧時間や目標復旧レベルを設定する際のポイントは以下のとおりです。
・事業の性質や規模、リスクレベルに応じて設定すること
・復旧に必要なリソースや時間、予算などを考慮して、現実的な目標を設定すること
5. フェーズごとに具体的な行動を決める
目標復旧時間や目標復旧レベルを達成するための具体的な対策やアクションプランを決めることが大事です。BCPマニュアルの作成では、「初期対応フェーズ」「業務仮再開フェーズ」「本格復旧フェーズ」の3つのフェーズに分けて具体的な行動を決めてみてください。
初期対応フェーズ
初期対応フェーズは、災害発生直後から2〜3週間を指し、被災状況の把握や事業の継続性確保のために、迅速な対応が求められます。安否確認・報告体制の確立、被災状況の把握と情報収集、代替施設や仮設設備の確保などが重要です。
業務仮再開フェーズ
業務仮再開フェーズは、被災から一定の期間が経過し、業務を再開するための準備を整える段階を指します。このフェーズでは、限定的な業務を再開することが重要です。
具体的には、代替施設や仮設設備での業務再開、業務再開に必要なシステムやデータの復旧などがあげられます。
本格復旧フェーズ
本格復旧フェーズでは被災から2〜3週間以降、事業を通常運転するための本格的な段階を指します。施設や設備の復旧作業を実施し、正常な運用ができるようにしましょう。
6. BCPを定期的にチェックする
BCPマニュアルを策定した後も定期的にチェックすることが大事です。継続的な改善や最新化を繰り返し、BCPマニュアルを常に最適な状態に保ち、緊急事態が発生した場合に備えます。
BCPのチェックリストを作っておくのもおすすめです。考えられる項目には「現在の運用体制と合っているか」「連絡先が変わっていないか」などがあげられます。
BCPマニュアルのテンプレート
具体的にBCPマニュアルをどのように作成したらよいのか悩んでしまう方も多いでしょう。そういった場合は、公的機関などが公開しているテンプレートを利用するのがおすすめです。公的機関が公開しているテンプレートには以下の3つがあります。
・厚生労働省/介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修
・中小企業庁/中小企業BCP策定運用指針
・地方公共団体・商工団体(東京商工会議所)/BCPなど企業の防災対策支援
出典:「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」(厚生労働省)
出典:「中小企業BCP策定運用指針」(中小企業庁)
出典:「BCPなど企業の防災対策支援」(東京商工会議所)
まとめ
BCPマニュアルとは、自然災害やサイバー攻撃といった緊急事態が発生した場合に、企業が事業を継続するために作る計画書のことです。令和3年度介護報酬改定により策定が義務付けられいるものの、3年間の猶予期間が設けられています。しかし、2024年4月までには原則、すべての介護事業所・施設でBCPを策定しなければなりません(※)。
BCPマニュアルを作成することで、緊急事態に迅速かつ適切に対応できるほか、災害リスクを想定した上で備えることができます。事業の規模や性質に応じて、BCPマニュアルを作成してみてください。
※この記事は2023年5月時点の情報であり、最新の情報については、厚生労働省のサイトにてご確認いただけますと幸いです。