介護におけるQOLとは|評価方法や介護職員がやるべきことを解説

近年、QOLを向上させる取り組みに力を入れている事業所・施設は増えています。このQOLとは、一体なにを指しているのか、向上させるためには、なにが必要なのか、疑問に感じる方もいるのではないでしょうか。 そこで今回は、介護におけるQOLの概要や評価方法、介護職員が積極的に取り組むことを解説します。


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介護においてのQOLとは

QOLとは、Quality of Lifeの頭文字を取ったもので、人生の質や生活の質を意味します。生きる上での満足度や幸福度を表すときに使われることが多いです。介護の分野においては、利用者・入居者が自分らしく充実した生活ができることを指します。

ただし、充実感や満足感の尺度は、個人の価値観によるもので、明確な基準はありません。具体的にどのような状態が、QOLが高い状態と言えるかは、利用者・入居者それぞれで異なります。

介護においてQOLが低下する原因

QOLの低下とは、望む生活と実生活に大きな差があることです。QOLを構成する要素は主に5つあります。

・心理面

・身体面

・社会面

・役割・機能面

・スピリチュアリティ

5つの要素の状態が悪いと「QOLが低い」ということになります。原因はひとつではなく、それぞれの要素が相互に影響していることが多いです。

例えば、加齢による疼痛で体が思うように動かせないという身体面の問題があれば、日常生活の動作に支障が及ぶだけでなく、意欲の低下やストレスなど心理面への影響も現れます。

また、身体的な問題から行動が制限されれば、社会生活へ参加しにくくなることもあるでしょう。

介護におけるQOLとADL・IADLの関係性

介護の現場においては、QOLのほか、ADLやIADLなどの指標も使われます。

・ADL・・・Activities of Daily Living(日常生活動作)のこと。食事や排泄、歩行、着脱衣、入浴などの基本的な身体動作を指します。高齢者や障害者の方の生活レベルや身体能力を図る際に用いられる指標としても使われています。

・IADL・・・Instrumental Activities of Daily Living(手段的日常生活動作)で、買い物や食事の準備、電話対応など、ADLを応用した動作です。日常生活における単純な動作だけではなく、判断力や金銭管理などの複雑な動作のことを指します。

QOLとADL・IADLは深く関係しているといわれています。たとえば、手や足が自由に動かせない方は、食事や歩行の喜び(QOL)が低下してしまいます。そこで、リハビリなどを通してIADLを高めると、不自由なくご飯を食べたり、自由に散歩できたりすることが実現するため、QOLが向上するといえます。

ただし、ADLやIADLが高いと、必ずしもQOLが向上するわけではありません。ADL・IADLを重視することでQOLが低くなってしまう場合もあるので、介護の現場では注意が必要です。

たとえば、歩行が困難な方が歩行訓練でわずかな距離を移動できるようになったとしても、本人が「自由に外出したい」という想いをもっていれば、QOLの向上にはつながらないでしょう。自力で歩行するよりも、車椅子などの手段を用いて行動範囲が広がるほうが、QOLは上昇すると考えられています。

介護におけるQOLの評価方法

介護におけるQOLを評価するには、「SF-36」「WHO QOL26」などの方法があります。ここでは、代表的な、「SF-36」「WHO  QOL26」の評価方法を解説します。

SF-36

SF-36は36の質問に答えることで、以下8つの健康概念を測定する評価方法です。

・身体機能

・日常役割機能(身体)

・体の痛み

・全体的健康感

・活力

・社会生活機能

・日常役割機能(精神)

・心の健康

SF-36は国際的に広く使われている包括的な評価方法で、健康な人や疾病のある人などとの比較評価ができます。改良版のSF-36v2では、性別・年齢別の国民標準値との比較も可能です。

WHO QOL26

WHO QOL26は、WHOによるQOLを評価する調査票です。「身体的領域」「心理的領域」「社会的関係」「環境関係」の4領域を測定する24問と、全体的なQOLを測定する2問の全26問から構成されます。

WHO QOL26は過去2週間に対象を限定して評価することが特徴です。10分程度で回答できる簡単なチェックのため、経過観察にも使用しやすくなっています。また、国や文化、年代、性別に関わらず共通して使用できる評価方法であることも特徴です。

利用者・入居者のQOLを向上するために介護職員がやるべきこと

QOL向上には、ただ手厚い介護サービスを提供すれば良いわけではありません。QOLの向上には、利用者・入居者が望む生活が送れるようにサポートすることが不可欠です。

そこで、利用者・入居者のQOLを向上するために、介護職員がやるべきことや介護にあたり注意すべきことを紹介します。

利用者・入居者の思いを理解する

QOLの向上に向け、まずは利用者・入居者が自分の生活についてどのような価値観を持っているかを知ることが大切です。先に述べたとおり、何を幸せと感じるかは基準があるわけではなく、人によって大きく異なります。

利用者・入居者の価値観を知るには、介護職員に思いを素直に話せる環境を作ることが第一歩です。

普段から観察しながら積極的にコミュニケーションを取り、利用者・入居者の話をじっくり聞くようにしていきます。内容を否定せずに受け止め、随時質問を交えるのも良いでしょう。

普段の何気ない話からも、利用者・入居者が本当に望んでいることが垣間見られることも多いです。また、話をすることで、利用者・入居者にとって刺激となり、本人が意識できていない想いが見えてくることもあります。

しかし、利用者・入居者本人とのコミュニケーションが難しい場合もあるでしょう。そのときは、家族やほかの介護職員など、周囲の人から話を聞くことでも分かることがあります。

過度な介護をせず見守る

介護は利用者・入居者の不便を減らしたり解消できたりします。しかし、介護が過度になり過ぎると、自分でできることを減らしてしまう可能性もあります。

たとえば、介護職員がいつも着替えをサポートしている利用者・入居者でも、時間をかければ自分で着替えられるケースもあります。中には、「介護職員に迷惑になるから」といって気を遣って任せてしまう利用者・入居者もいるのです。

逆に自分で何もやらないことをストレスに感じることや、「サポートしてもらえるから」と自分でやる意思をなくしてしまうこともあります。

このようなことから、介護による介入が、かえってQOLを下げてしまうことにもなりかねません。

過度な介護を防ぐために必要なことは、利用者・入居者が自分でできることは、できるだけ自身でやってもらうようにすることです。

介護職員はサポートに徹し、本人がどこまででき、どういった部分に困っていて介入が必要なのか見極める必要があります。

また、質の高い介護を目指そうとすると、ADLやIADLにばかりに目がいきがちです。ADLやIADLを向上させることは、介護において大切な、利用者・入居者のQOLの向上のためであることを忘れないようにしてください。

社会的交流の場をつくる

利用者・入居者の意向にもよりますが、社会的な交流の場を設けることもQOL向上に役立ちます。利用者・入居者の孤独感を解消し、新たな楽しみや喜びの発見につながるでしょう。

事業所・施設内でのレクリエーションや外部イベントなどを活用して、他者と交流する機会を設けると良いでしょう。

また、ちょっとしたもの作りや仕事など、何か社会や人に貢献できる機会が増えるように働きかけるのも効果的です。

本人に大きな負担とならず、できる範囲で取り組むことがやりがいや生きがいにつながり、QOLの向上が期待できます。

まとめ

QOLについての価値観は個人によって異なるため、介護にあたっては、利用者・入居者がどのような生活を望んでいるかを十分に理解したうえで、必要な介入を行うことが大切です。

ADLやIADLにこだわって自立度を上げることだけが、質の良い介護とは言えません。QOLの実現には、利用者・入居者が毎日の生活に満足感や喜びを見出せることに重きを置きましょう。