介護ロボットが普及しない理由とは?現状と普及に向けてできること

厚生労働省が公表した「人口推移」では、2025年には団塊世代は75歳以上になると推計されています。それに伴い、将来的に介護職員の負担は大きくなると予想されるでしょう。 そこで介護職員の肉体的、精神的な負担を軽減するためにも介護ロボットが注目を浴びています。介護ロボットの開発や実用化は推進されている一方で、事業所・施設への普及率は高いとはいえません。 今回は、介護ロボットの普及状況や普及しない理由、活用のポイントなどを紹介します。


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現状はどうなの?介護ロボットの普及状況

日本国内において、介護ロボットの普及率は低い状態が続いています。公益財団法人介護労働安定センターの調査によると、介護事業者はいずれも80%以上が「介護ロボットは未導入」と回答しています。

5種類の介護保険サービス系型を見ると、もっとも普及が進んでいる事業でも未導入率が60%を超えているのが現状です。

介護保険サービス系型の種類 未導入の事業者
訪問系 86.2%
施設系(通所型) 85.2%
施設系(入所型) 60.9%
居住系 78.9%
居宅介護支援 84.6%

(参考:公益財団法人 介護労働安定センター「令和2年度介護労働実態調査」)

介護ロボットの種類は、コミュニケーションに特化したもの、入浴や排泄など日々の暮らしを支援するタイプなど、数多く開発されています。しかし、普及率は依然低い状態です。

介護ロボットがなかなか普及しない主な5つの理由

次に介護ロボットが普及しない主な理由を紹介します。

1.介護職員側のITリテラシーが低いから

ひとつめの理由として、介護職員のITリテラシーが低く、介護ロボットの認知がないことが挙げられます。

介護ロボットと一口にいっても、複数の機能を備えたタイプから特定の支援に特化したタイプまでさまざまです。自身の介護現場における課題を介護ロボットによって解決できることや、介護ロボットによってどのような支援ができるのか知らなったり、中には介護ロボットの存在自体を認知していない人もいます。

北九州市が行ったアンケート調査でも、市内の介護事業者の約半数が「導入を検討している」とする一方で、情報不足を理由に導入しないとの回答もありました。

多くの関係者が介護ロボットの必要性を日々感じつつも、検討材料となる情報が少なかったり把握しきれなかったりするため、導入に踏み出せないと考えられます

出典:「介護ロボットの導入状況などに関するアンケート調査(令和2年度)」(北九州市)

2.介護は人しかできないと思っているから

介護ロボットが役立つことは理解していても、心情的に導入を躊躇していることもあります。たとえば、「介護は人しかできない」という考えが根付いているケースです。

介護は高齢者の生活を支えながら、日々のコミュニケーションで精神的な支援も行います。人間同士、血の通ったコミュニケーションがあってはじめて介護が成り立つと考えている方は、必ずしも介護ロボットに魅力を感じるとは限りません。

介護ロボットでは生活の支援をできても、心のケアができないと考えるためです。利用者・入居者側が「介護ロボットでは素っ気ない」と感じており、必要とする声が現場で上がりにくいケースもあります。

3.導入コストが高いから

福祉用具と比べると、介護ロボットはかなり割高に感じられます。補助金に頼らない限り導入は難しいでしょう。国や自治体は補助金・助成金支援制度を用意しているのでチェックすることをおすすめします。

下記は介護ロボット導入に関する支援制度の一例です。

支援制度名 地域医療介護総合確保基金

(イ.介護ロボット導入支援事業)

問い合わせ・申し込み先 各都道府県庁
支援金の上限額 1機器につき30万円まで

※移乗支援・入浴支援ロボットは100万円まで

※見守りセンサー導入のための通信環境整備は750万円まで

 

その他の介護ロボット導入支援事業
税金に関する支援(減税、控除など) ・中小企業の生産性向上のための固定資産税の特例

・中小企業経営強化税制

・商業・サービス業・農林水産業活性化税制

資金の貸し付けによる支援 ・独立行政法人福祉医療機構による無担保貸付

・日本政策金融公庫による低利融資

・商工中金による低利融資

など

ロボットによる事故に備える保険(民間保険会社の提供)など、介護ロボットの導入に関する費用面の課題を解消してくれるサービスが複数挙げられます。

資金面のみを理由としている事業者であれば、各支援を上手に活用することで早期に介護ロボットの導入が実現できるでしょう。

下記の記事でも、介護ロボット導入における補助金などを一部紹介しています。

介護の現場でIoTはどう役立つ?メリットや活用例をチェックしよう

4.慣れるまでの間は負担が増えるから

導入後のフォロー体制の整備が難しいことも、普及しない理由のひとつです。

使いこなせば業務効率やサービスの質を向上させられますが、無理なく活用できるようになるまで時間や手間がかかります。「業務の流れを見直す」「体制を整える」「ロボットの操作方法を練習する」など、介護職員は変化に慣れなくてはなりません。

負担が増える可能性に不安を覚える職員が多ければ、介護ロボットの導入は困難です。

5.使いこなせるか心配だから

介護ロボットの搭載機能を正しく扱うには、操作方法や機能を理解しておくことが必要です。しかし、介護ロボットは「操作が難しそう」というイメージがあり、なかなか導入に踏み出せないケースもあります。

介護ロボットを普及・活用させるための3つのポイント

前述した介護ロボットが普及しにくい原因を踏まえると、現場での導入率を上げるためには費用面以外も対策が必要です。

介護ロボットを本格的に普及・活用させるポイントは、大きく3つ挙げられます。

1.導入する機械をよく選ぶ

介護ロボットと一口にいっても、複数の種類があります。見守り・コミュニケーションに特化したものや、移乗支援、移動支援、排泄支援などの機能を搭載した介護ロボットも挙げられます。

介護ロボットを導入するときは、現場で求められている機能を重視することが大切です。

実際の現場を確認せずに導入しても、活用できないまま維持費が発生するおそれがあります。現場のオペレーションを参考に、誰が、いつ、どのように使うのか関係者で相談して、導入する機械を選ぶと失敗しにくくなります。

2.機能を絞り込んで使う

介護ロボットは1台で複数の機能を有するタイプもありますが、最初からフル稼働させる必要はありません。多くの機能を使おうとすると、職員が覚えきれなかったり業務フローにうまく組み込めなかったりします。

まずは、達成したい目的(介護ロボットを導入した第一の理由)に合わせて、機能を絞り込んで活用することがスムーズな導入のコツです。

3.徹底的に教育する

介護ロボットの種類や導入する目的、必要性について、関係者間で情報共有することが重要です。座学研修を行い、導入する介護ロボットの操作方法や活用すべきシーンについても教育しましょう。

研修制度の整備および徹底した教育が、介護ロボットのスムーズな導入につながります。

まとめ

数多くの介護ロボットが開発されている一方で、日本国内では情報不足や導入費、優先度など複数の事情によって普及率が伸び悩んでいます。現時点では、導入のための費用や準備に対して、得られるメリットも限定的と言えます。そのため導入を検討する際は、活用できるロボットが本当にあるのかどうかをしっかりと見極める必要があります。

ただ技術は日進月歩で進化していくため、今後活用できるロボットが増えていく可能性は多いにあります。
事業所・施設に活用できるロボットがないか、チェックしていくことが大切です。