介護現場の問題点6選
介護業界が抱えている問題点は、大きく分けて6つです。では、それぞれ詳しく見ていきましょう。
介護を必要とする高齢者人口の増加(2025年問題)
65歳以上の人口の割合が全体の21%以上を占める状態を「超高齢社会」と呼びます。日本は既に超高齢社会に突入しており、今後も高齢者の人口は増え続けると予測されています。2025年問題とは、出生数約800万人の団塊世代が75歳を迎えることによって生じる諸問題です。
高齢者の人口増加に伴い、65歳以上の認知症患者の増加も推測されています。2025年には、高齢者(65歳以上)のうち12.8%は日常生活自立度Ⅱ以上の高齢者数に上昇するといわれています。介護サービスを求める高齢者は増え続け、介護現場の負担は大きくなるでしょう。
出典:総務省「国勢調査」及び「人口推計」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計):出生中位・死亡中位推計」
出典:総務省「今後の高齢者人口の見通し 」
介護難民の発生
介護難民とは、要介護認定を受けた障害者や高齢者など、介護サービスを求める人たちが、さまざまな理由により介護支援を受けられない状態のことを指します。
日本創成会議が公表した研究結果によると、2025年には東京圏だけでも約13万人が介護難民になると推測されています。 超高齢社会によって高齢者の人口が増加する一方で、介護事業所・施設の受け入れ体制が間に合わず、介護難民が急増する可能性もあります。
介護職員の人手不足
令和3年度の「介護実態調査」によると、人手不足に悩む事業所・施設は全体の63%を占めています。
人手不足に陥る要因はさまざまですが、その要因の一部に介護職員の待遇や労働条件が挙げられます。同調査では労働者の65.4%が基本給の引き上げを希望していました。
また、介護職は介護業務以外も担っているケースが多く、業務範囲の広さや業務量を負担に感じられている方もいます。さらには、採用をかけている競合数も多いことから、欠員補充のための求人を募集しても、なかなか応募が集まりません。
介護職員の人手不足改善のために労働条件や環境改善に動く事業所・施設も増えていますが、まだ実情追いついていない状態が続いています。
老老介護の増加
老老介護というのは、高齢者(65歳以上)同士で介護をすることです。例えば、65歳の妻を65歳の夫が介護している状態を指します。また、高齢夫婦だけでなく、親子関係においても老老介護の状態になっている世帯は少なくありません。
内閣府が公表した「高齢社会白書」では、要介護者と同居している人の年齢は男性で70.1%、女性で69.9%が60歳以上でした。今後も高齢者人口が増え続け、介護難民に陥る人が増加すると、老老介護をせざるを得なくなる世帯も多くなるでしょう。
老老介護の問題は、要介護者と同居する介護者(配偶者)の体力や精神面への負担が大きいことです。要介護者への入浴や排泄、食事などの介護は体力の消耗が激しく、身体能力が衰えている高齢者の場合だと、負担はさらに増大します。
また、介護者は介護に専念するため外出の機会は減り、ストレスがたまったり気分が晴れない状態が続いたりなどの、精神的な負担も大きいでしょう。
最悪の場合、共倒れするリスクもあるため、老老介護を事前に防ぐための対策が求められています。
出典:内閣府「令和2年版高齢社会白書(全体版)第1章高齢化の状況(第2節 2)」
要介護者への虐待
要介護者への虐待も最近では問題となっています。ニュースなどで、高齢者虐待の事件が報じられているのを目にしたことがある人も多いでしょう。介護を必要とする高齢者の増加とともに、虐待件数も年々増えています。
虐待は主に5つの種類に分類されます。それぞれの内容を表にまとめています。
虐待の種類 | 内容 |
身体的な虐待 | 高齢者に対して暴力的な行為をして、身体を傷つけること。 |
心理的な虐待 | 高齢者に対して精神的な苦痛を与える行為のこと。 |
性的な虐待 | 高齢者に対して同意のない性行為を強要すること。 |
経済的な虐待 | 高齢者に同意もなく財産を無断で使用すること。 |
介護の放棄・放任 | 介護が必要な高齢者に対して介護サービスを受けさせなかったり世話をしなかったりする行為のこと。 |
これらの虐待を防止するためにも、原因を突き止め、予防することが求められています。
介護離職の可能性
介護離職というのは、家族の介護をするために仕事を退職することです。
大和総研の「介護離職の現状と課題」によると、介護離職は2007年~2017年の10年間で2倍に増えています。
介護離職が増えれば、企業にとっては人材流出や労働力不足などの問題につながります。介護離職をする労働者にとってはキャリアが中断され、復帰が難しくなるケースが多いです。
また、以前まではパートタイム労働法などの非正規雇用の労働者が中心でしたが、最近では正社員の介護離職が増加傾向にあります。
今後も高齢者が増加するため、介護離職は増加の一途をたどるとの見方が強いです。
出典:大和総研「介護離職の現状と課題」
介護現場の問題点に対する解決策
介護現場が抱えている問題点の解決策について見ていきましょう。
働きやすい労働環境を整備する
介護職員の多くは人手が足りていないことで悩みを抱えています。人手が足りていないと、介護職員1人にかかる負担が大きいためです。その結果、離職を検討する介護職員も少なくありません。
ほかにも、業務内容の割には給料が安いことや、有給休暇を取得しづらいなどの悩みを抱えている介護職員も多いです。
この状況を改善するには、介護職員ひとりにかかる負担を軽減することが重要です。そうすれば、離職率を下げられるでしょう。人手不足に拍車がかかれば、労働環境の改善もしやすくなります。
たとえば、日報の管理をIT化してペーパーレス化にするなどです。作業時間を削減し業務負担が減ります。また、見守り支援ロボットなどの機器を導入するのもひとつの手です。
スキルのある介護職員への待遇を改善する
経験やスキルのある介護職員に対して、待遇を改善するための施策が必要です。経験やスキルに応じた待遇を実現することで、離職を防止します。
厚生労働省では、2022年10月より「介護職員等ベースアップ等支援加算」が新設されました。目的としては、介護職員等の処遇改善を図り、収入3%程度(月額平均9,000円)を引き上げるための措置とされています。
これにより、経験やスキルのある介護職員の賃金水準が、他産業と遜色ないものにすることを目指します。
助成金を利用する
一定の条件を満たしていれば、国や公共団体などに申請して給付金を受け取れます。介護職員の確保や定着、設備導入による業務改善、生産性向上など、目的に応じて適切な助成金制度を利用しましょう。
助成金の種類は数多くあり、詳しくは各省庁や自治体などのホームページで情報提供されているため、定期的に確認してください。
ここでは「人材雇用」と「介護機器」に適した助成金を一部紹介します。
人材確保支援助成金
人材の確保や定着を促進させ、労働環境の向上などを図るために助成される支援制度です。人材確保支援助成金には複数のコースがあり、「人事評価の改善」や「雇用管理制度の導入」など、目的に応じてコースを選択できます。
介護事業主が積極的に利用すべきコースは以下です。
・介護福祉機器助成コース
・中小企業団体助成コース
・人事評価改善等助成コース
IT導入補助金
中小企業・小規模事業者の業務改善などを図るITツールの導入経費を一部補助する制度です。例えば、勤怠管理システムや利用者管理ツール、それらを活用するための電子機器(パソコン・タブレットなど)の導入が挙げられます。
また、2022年度では4枠の補助対象を設けています。
・セキュリティ対策推進枠
・デジタル化基盤導入類型
・複数社連携IT導入類型
枠によって補助額や機能要件が定められているため、自身の事業所・施設に適した枠を選択しましょう。
まとめ
介護現場で生じる問題は、年々深刻化しています。介護事業所・施設は2025年を迎える前に対策を抉ることが求められます。受け入れられる高齢者の数を増やすためにも、設備を整えたり介護職員の待遇を見直したりなどを実施して備えましょう。