介護人材の育成に必要なこととは。定着率を高める方法を解説

介護事業の経営は人材なしでは成り立たないものの、なかなか介護職員が定着しないと悩む介護事業者は多いのではないでしょうか。介護人材の定着を図るためにも、人材育成を見直しましょう。 今回は、介護現場での人材育成を成功させるポイントや具体的な施策をご紹介します。処遇改善の方法や自治体の育成事業についても解説しているため、ぜひ参考にしてください。


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介護人材の育成を成功に導く4つのポイント


社員を育ててもすぐに辞めてしまう場合は、人材育成を見直しましょう。間違った人材育成の取り組みによっては介護職員の負担を増やし、モチベーションを低下させている可能性があります。これでは人材が定着しません。

まずは、介護の現場での人材育成を成功に導くポイントを見ていきましょう。

人材を育成する目的を明確にする

人材育成は、目的をもって行うことが大切です。まずは理想と現状のギャップを整理するところからはじめましょう。たとえば、均一なサービスの提供をしたいのに介護技術のばらつきがあり介護職員によって提供サービスに差異がある場合は、業務の標準化を目的とします。

給与や待遇などの条件面で離職する職員が多い場合は、経営理念やビジョンを反映した目的を掲げれば、よりマッチングの高い人材育成につながるでしょう。

具体的な育成計画を立てる

介護人材を育成するにあたって、具体的な育成計画を立てましょう。育成計画は、指導する側とされる側が同じ目標に進むための指標です。目的達成に必要なステップを洗い出し、実施期間、実施内容、到達の目標をわかりやすく計画に落とし込みます。

介護の現場に配置する前には社内外の研修、配置後はOJT、メンター制度など、いくつかの施策を組み合わせると良いでしょう。

客観的な評価基準を設定する

計画策定にあわせて、評価基準も設定しましょう。評価基準は目標までの達成度を測る指標で、計画の進み具合を公平かつ客観的に判断するのに欠かせません。

評価基準は大項目を設け、その下に中項目、小項目、チェック項目などを設定するのが一般的です。とはいえ、介護現場での評価基準の設定は容易ではありません。そのため、厚生労働省の「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」を活用すると良いでしょう。

この制度では、客観的な介護スキルの評価に役立つチェック項目が示されています。7段階のレベルで知識と実践的スキルの両面から評価ができるので、ぜひ人材育成計画に役立ててください。

出典:「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」(厚生労働省)

人材育成計画の見直し・改善を行う

人材育成は、定期的な見直しが必要です。進捗状況をチェックして、目標の達成度を確認しましょう。評価基準に達していない場合は、原因を追及して改善を目指します。

介護職員の特性にあわせて調整するために、育成期間中や終了後に面談やアンケート調査を行うと良いでしょう。

介護人材を育成する具体的な施策

それでは、介護人材を育成するための具体的な施策を見ていきましょう。介護の現場で優秀な人材を育てる手法にはいくつかの種類があるため、事業所にあうものを取り入れてください。

メンター制度を導入する

メンター制度とは、指導を行う上司とは別に比較的年齢が近い先輩の介護職員がサポートにつき、新人の疑問の解決や悩みの相談にあたる取り組みです。メンターが精神面で支えて離職防止にも役立つため、幅広い企業が導入しています。

メンター制度の効果

メンターがいると介護技術や知識、経験などを共有でき、スキルアップのチャンスを増やせるのが特徴です。また、長所を伸ばし短所を克服するアドバイスで人間的に成長でき、モチベーションアップにも役立ちます。

メンター制度を行う手順

メンター制度は次の手順で行います。新人との相性を見ながら、メンターには経験豊富で人材育成への熱意がある、信頼できる人材を選ぶと良いでしょう。

1. 運用ルールをつくる
2. メンターと新人の介護職員の人選をする
3. 実施方法のレクチャーをしてから職場内での指導を実践する
4. 一定の期間が経過したら効果の測定と評価を行う

OJT研修を実施する

OJT (On The Job Training)研修とは、先輩の介護職員がOJT担当者となり、現場で業務にあたりながらスキルを指導する手法です。OJT研修をすることにより、実践的なスキルの習得を目指します。

OJT研修で得られる効果

OJT研修は講師不要で業務を通して指導するため、人材育成にかかるコスト削減に役立ちます。また、能力や適性にあわせた個別の育成ができ、指導効果が高い傾向にあります。

OJT研修を行う手順

OJT研修は次の手順で進めます。介護初心者でも業務内容を理解しやすく、体系的にスキルを習得できるでしょう。

1. OJT担当者が仕事の手本を見せる
2. 仕事のやり方をレクチャーする
3. 新人の介護職員が実際に仕事する
4. 新人の仕事の評価を行い指導する

社内外研修を実施する

社内外での研修も、人材育成に有効です。集団で体系的な教育を受ければスキルのばらつきを防ぎ、レベルを底上げする効果が期待できます。また、職場内での良好な人間関係の構築にも役立つでしょう。

社内研修の特徴

介護職員同士が交互に講師となり、定期的に開催するのが特徴です。毎回テーマを変えれば、幅広い知識を全員で共有できます。また、人前で話をする能力を伸ばす良い機会にもなるでしょう。

社外研修の特徴

外部企業に委託して行う講座や有料セミナーのほか、自治体や病院、社会福祉協議会が主催する無料セミナーなども活用できます。

全員が参加できない場合は一人が研修を受け、社内研修でほかの介護職員に伝えても良いでしょう。対面式の講義のほかイーランニングもあり、受講しやすい方法を選べます。

給与・待遇面の改善に取り組む

介護現場の人材育成には、給与や待遇面からのアプローチも大切です。介護職員のモチベーションアップや人材の定着にもつながるため、ぜひ前向きに取り組みましょう。

厚生労働省の調査によると、令和2年2月の時点で介護職員の平均給与額は325,550円です。これは、看護職員の平均年収383,560円、生活相談員や支援相談員の355,150円と比較して低く、給与面の不満が人材の定着を妨げていると指摘されています。

出典:「令和2年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要」(厚生労働省)

介護職員の待遇改善は、政府も推奨しています。ベースアップが難しい場合は、「介護職員処遇改善加算」も上手に活用しましょう。

介護職員処遇改善加算とは、働きやすい環境を作るために賃金上昇を目的とする制度です。一定の要件を満たす事業所であれば、報酬として加算金が支給されるため、月収やボーナスに反映させて待遇を改善できます。

出典:「「介護職員処遇改善加算」のご案内」(厚生労働省)

自治体の介護人材育成事業を活用する

介護現場における人材不足の解消は、自治体にとっても重要度の高い課題です。自治体ごとに研修会や意見交換会、手当、奨励金の支給といった独自の取り組みをしているので、活用を検討してみましょう。ここでは、具体的な事例を紹介します。

静岡県介護人材育成事業

静岡県では、介護職の未経験者に対し、派遣で働きながら資格取得を目指す支援を行っています。実習期間中に介護事業所や参加者が支払う費用の負担はありません。最長2.5ヶ月の実習で直接雇用への切り替えを目指すため、スムーズに人材確保ができます。

出典:「静岡県介護人材育成事業を実施します」(ふじのくに 静岡県公式ホームページ)

岐阜県介護人材育成事業者認定制度

岐阜県では介護人材の育成と職場環境の改善に取り組む事業所を「ぎふ・いきいき介護事業者」として認定し、PRしています。認定されれば人材の育成・定着のためのコンサルティングをはじめとする、さまざまな支援を受けられます。

出典:「岐阜県介護人材育成事業者認定制度」(岐阜県公式ホームページ)

まとめ

介護の現場では、介護職員を育て、定着させることが重要な課題です。計画的な人材育成で優秀な人材の定着を図り、サービスの充実を目指していきましょう。

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