介護職員の採用が難しい理由とは?採用を成功に導くコツを紹介

厚生労働省の一般職業紹介状況によると、令和4年4月分の有効求人倍率は、すべての職業(パート含む)で1.06倍、介護サービスの職業で3.30倍でした。 有効求人倍率とは、有効求人数(企業の求人数)を有効求職者(ハローワークに登録する求職者)で割った値のことです。有効求職者1人当たりにつき、どのくらいの求人数があるのかを示します。 有効求人倍率が高いということは、それだけ人材を求める企業が多いということです。厚生労働省のデータからもわかるように、介護サービス職はほかの職業と比較して、約3倍も有効求人倍率が高く、人材不足の状況にあることがわかります。 今回は、なぜ介護業界には人材が集まりにくいのか、介護業界の採用が難しい理由のほか、採用を成功に導くためのポイントについて見ていきましょう。 出典:「職業別一般職業紹介状況 [実数](常用(含パート))令和4年4月分」(厚生労働省)


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介護業界の採用が難しい3つの理由

冒頭でも説明したように、介護サービスの職業は、ほかの職業と比べて求職者よりも募集をかけている企業の方が多く、採用難易度が高いことがわかります。なぜ介護業界は、ほかの業界と比べて採用が難しいのでしょうか。

代表的な理由として挙げられるのが、以下の3つです。

・相対的な給与の低さ
・労働環境の厳しさ
・競合の多さです。

それぞれ、詳しく見ていきましょう。

相対的な給与が低い

介護業界の採用を難しくしている理由のひとつが、介護業界に携わる職員の相対的な給与の低さです。次の表は、時給で働く介護業界従事者の職種ごとの平均基本時給額を示した表になります。

常勤 非常勤
介護職員 1,040円 1,130円
看護職員 1,390円 1,460円
生活相談員など 1,090円 1,120円
理学療法士など 1,320円 1,640円
介護支援専門員 1,330円 1,280円
事務職員 1,010円 990円
調理員 950円 950円
栄養管理士・栄養士 1,040円 1,080円

出典:「令和3年度介護従事者処遇状況等調査結果」(厚生労働省)をもとに作成

厚生労働省の「令和2年賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金(時給換算)」によると産業計の平均時給は1,285円でした。

出典:「令和2年賃金構造基本統計調査による職種別平均賃金(時給換算)」(厚生労働省)

平均時給と比較すると一部の職種に関しては平均時給を上回るものもあります。介護業界よりも平均時給が低い産業もありますので、時給額だけで見ると著しく時給が低いとはいえないでしょう。

それでは、なぜほかの業界と比べて求職者が少ないのでしょうか。理由は、求められることに対しての時給が低いと捉えられているためです。介護業界で働くには資格が必須ではないものの、専門的な知識や技術が求められます。

表からもわかるように、実際に現場で介護を担う介護職員の時給は、介護関係の職種の中でも低めです。求められるものは多いものの、それが給与に十分に反映されていないこともあり、介護業界での採用は難しくなっています。

労働環境が厳しい

労働環境の厳しさも介護業界での採用が難しい原因に挙げられるでしょう。労働環境の厳しさには、肉体的な厳しさと、精神的な厳しさがあります。

肉体的な厳しさ

介護の現場では入浴介助など肉体労働がつきものです。肉体労働で体に負担がかかる印象から敬遠されるケースもあります。

さらに、介護施設での人材不足から、職員一人あたりの仕事量が増え、労働時間が長くなることも少なくありません。長時間労働や夜勤、シフト制など、肉体的な労働環境が厳しいイメージから、求職者が集まりにくい傾向にあります。

精神的な厳しさ

精神的な面での厳しさもあります。入居者やそのご家族との対応で負担を感じたり、仕事が忙しく職場の仲間となかなか打ち解けられなかったりするためです。精神的な負担からなかなか休職者が集まりにくい状況があります。

事業者の増加により競合が多い

介護業界で採用が難しくなっている理由は、給与面や労働環境の厳しさからくる人材不足だけでなく、介護事業者同士の競争も要因のひとつです。

日本では人口に対する高齢者の割合が高まっていますが、今後も高齢化はさらに加速すると見られています。高齢化が進むことで、介護サービスのニーズも増加してきました。

これにともない、介護医療院などの開設数も増加の一途をたどっています。平成30年12月には113だった介護医療院開設数は、令和元年12月末時点で301施設にも増加しています。

出典:「介護分野をめぐる状況について」 (厚生労働省)

介護医療院は要介護高齢者が医学的管理のもと介護や日常生活を送れるようにした施設で、平成29年に改正された介護保険法で新設されたばかりの施設です。

介護医療院の開設数の増加はもちろん、ほかの介護サービスもニーズに応じて増加しており、介護事業者が増えたことで採用にも影響が出てきています。

採用が困難である理由として、多くの介護事業者が「同業他社との人材獲得競争が厳しい」と挙げていることが介護労働安定センターの調査でわかりました。

出典:「令和2年度 介護労働実態調査結果」 (公益財団法人介護労働安定センター)

重要なのは、介護業界の魅力に着目すること

介護業界は採用難易度が高いです。しかし、世の中のイメージに誤解があることも多くあります。今後、採用を強化していきたいと考えるのであれば、介護業界の魅力について改めて考えることが重要です。

ここからは、着目すべき介護業界の魅力について解説します。

福祉の仕事はやりがいがある

介護業界は、「誰にでもできる仕事」だと誤解を受けることも多いでしょう。しかし、本質的には専門性の高い仕事です。高齢者の方の栄養管理や口腔機能の向上、認知症のケアなどを通して、自立支援や重度化防止につなげていくことができます。

利用者の方やご家族の方に感謝される機会も多く、責任のある魅力的な仕事といえるでしょう。

成長につながる仕事である

事業所の増加によって競合が多く、なかなか差別化が難しいことも事実です。しかし、向こう20年は事業者や施設が増え続け、そのぶん市場も拡大していきます。

成長産業のため、ステップアップの機会も大いにあるでしょう。資格を取ってケアマネージャーとなったり、相談員になったりと、仕事の幅を広げていくことも可能です。

利用者の方と直接関わる仕事のため、人生の先輩から経験や知識を学ぶこともあります。このように、「介護職員として」だけではなく、「社会に貢献している一人の人間として」成長できるのも介護業界の魅力です。

処遇の改善策も実施されている

前述したように、所得の課題は依然としてあるのが現状です。介護保険制度といった構造的な問題により、なかなか多くの利益を確保していくことは難しいでしょう。

ただし、このような課題を受けて、政府では処遇の改善に取り組んでいます。例えば、介護職員処遇改善加算、介護職員等特定処遇改善加算、介護職員処遇改善支援補助金(令和4年10月以降は介護職員等ベースアップ等支援加算)です。この3つを算定し分配することで、月間数万程度の所得が加算されます。

政府が主導となって施策を行っているため、今後の処遇改善も大いに期待できるといえるでしょう。

介護職員の採用を成功に導くコツ

前述したように、介護業界は成長性のある魅力的な仕事です。世の中のマイナスイメージを取り除いたり、待遇を上げたりすることによって、採用数の向上を目指すことが可能です。介護職員の採用を成功させるにはどのような点を改善していくべきか、成功のコツを4つ取り上げます。

待遇面を見直して福利厚生を充実させる

介護業界での採用が難しい要因のひとつに、相対的な給与の低さを挙げました。給与や各種手当、休日などの待遇を、現場の職員の納得がいくものへ見直してみるのも改善策のひとつとなるでしょう。

ただし、給与に関しては、給与の原資となる介護報酬が法律上のルールで決められているため、大きく向上させるのには難しい面もあります。介護報酬に関わる介護制度の見直しは3年ごとに行われますので、介護報酬の動向について確認しておくと良いです。

また、給与や手当、待遇は現場の職員の納得がいくものをと説明しましたが、そのためにも現場で働く職員の声をヒアリングすることをおすすめします。生の声を聞くことによって、何を改善していくべきか課題が明確になるためです。

経営者目線だけで考えるのではなく、現場の声も取り入れながら待遇を改善させていくことで、現在働いている職員の定着も見込めます。

労働環境について詳細な情報を発信する

介護業界は競合他社が多く、採用が難しい面があると説明しました。人材獲得のためには、自社に興味を持ってもらうことが大切です。

例えば、ホームページや採用情報など、労働環境や業務環境がわかりにくいと、求職者の興味が薄れてしまいます。企業側から発信する情報が少ないと採用後のミスマッチの原因にもなりますので、できるだけ詳細な情報を発信するようにしましょう。

具体的には、シフトや休暇制度、資格取得のサポートなど、求職者が気になる部分を中心に情報を書き出していきます。詳しい情報があると、求職者が自分に合った企業が判断しやすくなるためです。

デメリットと捉えられる内容を記載する場合は、その部分をカバーできる制度などがあることも合わせて記載すると良いでしょう。例えば、夜勤はあるものの、その分、手当がしっかり支給されるなど、関連するプラスの情報も盛り込みます。

求職者の要望に柔軟に対応する

求職者ごとに会社に求める条件は異なります。採用までこぎつけるためにも、面接時などに求職者の求めていることをしっかりヒアリングし、対応できる部分があれば柔軟に対応すると良いでしょう。

例えば、家庭との両立などを理由に希望する勤務形態があれば、それに合わせて柔軟にシフトを組むなどがあります。求職者が人間関係に不安を抱えていれば、上司が現場に声かけし、事前に人間関係を構築しやすい雰囲気を作っておくのも良いです。

いずれにしても、すでに働いている職員と求職者との間で不公平が生じないように調整しながら対応するようにしましょう。

採用対象とする人材の幅を拡大する

採用に厳しさを感じているなら、これまでよりも対象者の幅を広げて採用を検討するのも方法のひとつです。具体的には、利用者に寄り添えるか柔軟性があるかなどをチェックしつつ、無資格者や未経験者まで幅を広げる、外国人労働者を受け入れるなどがあります。

介護職で外国人労働者を受け入れる場合、以下の4つの制度が設けられています。

・EPA
・在留資格「介護」を持つ人の雇用
・技能実習
・特定技能

それぞれ就労できる期間などに違いがありますので、その点も注意しながら採用を検討しましょう。

まとめ

介護事業者が採用を成功させるには、待遇面の改善や採用する人材の見直しを図るほか、必要な情報を適宜取得できるようにしておくことが大切です。

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