グループホーム経営は赤字になることもある?原因や安定経営のコツ

超高齢社会により、認知症高齢者グループホームの需要は高まっています。しかし、需要があるにもかかわらず、現状としてグループホームの経営が上手くいかない事業所もあり、赤字になってしまう企業も少なくありません。 本記事では、認知症高齢者のグループホームについて、経営実態や経営上の課題などを解説します。


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認知症高齢者のグループホームの経営実態

認知症高齢者のグループホームを取り巻く環境がどのような状態にあるのか、詳しく解説します。

認知症高齢者のグループホームの市場規模は拡大傾向

厚生労働省の「介護給付費等実態統計」によると、認知症対応型共同生活介護の請求事業所数は年々増加傾向にあります。

平成19年には8,776件でしたが、平成30年は13,499件、平成31年13,674と12年で1.5倍程度になりました。その間、各年ともに前年よりも増加しており、今後もこの傾向は続く可能性が高いです。

出典:「認知症対応型共同生活介護 (認知症グループホーム)」(厚生労働省)

また、認知症対応型共同生活介護の受給者数も増加傾向にあります。平成30年は2,024,000人、平成31年は2,066,000人、令和2年2,606,000人、令和3年2,651,000人と右肩上がりで伸びています。

平成19年は1,251,000人であったことから、現在と比較して2倍以上に増えたことになります。事業所数以上に伸びていることから、今後もこの傾向が続く可能性は高いでしょう。

出典:「令和3年度 介護給付費等実態統計の概況」(厚生労働省)

介護報酬改定で収入は増えているが、経営が厳しい事業所もある

認知症高齢者グループホームは今後も需要が見込めるため、安定経営が見込めるというイメージを持つ方もいるでしょう。しかし、なかには赤字で経営がうまくいっていないところもあります。

令和3年度の介護報酬改定の際には、改定率がプラス0.70%でした。ただし、改定率には新型コロナウイルス感染症に対応するため、特例的な評価として0.05%分が含まれています。そのため、実際は0.65%であることがいえます。

介護報酬が増えたため、グループホームの収入も増えたことになります。ただし、その増加幅はごくわずかで、経営が厳しい事業所は少なからずあります。

認知症高齢者のグループホームの経営の課題とは

認知症高齢者のグループホームの中には、次のような経営上の課題を抱えて赤字になってしまうところもあります。

人材獲得が難しい

認知症高齢者のグループホームにおいて、人材確保に苦労しているところも見受けられます。求人を募集しても十分な応募者が集まらず、職員を採用するのが難しい状況にあります。

加えて、職員の離職率が高いのも認知症高齢者のグループホームが抱えている課題のひとつです。求人への応募が少ない中でも、採用した職員が早期離職するケースも珍しくありません。ときにはベテランの職員が退職することもあるでしょう。

退職が増えると、ほかの職員の負担が増えることになります。不満が募ってさらなる離職につながってしまうという悪循環に陥ってしまうケースも多いです。

人材不足で職員が足りない状態が続くと、入居者の受け入れも思うようにはできません。そのため空床があっても、入居者を増やせない事業所が多くあります。

介護事業所では人員基準が定められていますが、空床を埋めようとすると、基準を満たせなくなってしまうためです。

競争が激しい

介護事業へ参入する事業者が増えていることから、入居者獲得の競争が激しくなっています。そのため、これまでどおりのやり方では、想定していた人数の入居者が集まらなくなる可能性が高いでしょう。

そして、近年では認知症高齢者のグループホームの多様化が進んでいます。地域とのつながりを強化するなどして、独自のサービスを展開している事業所が多いです。

地域の人と積極的に関わり、行事などに参加しているグループホームは、地域の人たちからの認知度も高くなります。そして、地域の人が認知症になってしまった場合には、自然と知っているグループホームが入居先の候補に挙がるでしょう。

一方で、これといって特色のない事業所や、地域との関わりに積極的でない事業所にとっては入居者獲得が難しくなるかもしれません。特に介護事業所が多い地域では、入居者獲得のための施策が急務です。

認知症高齢者のグループホーム経営を安定させるには

認知症高齢者のグループホームの経営を黒字で安定化させるためには、次のようなポイントが重要です。

人材確保に力を入れる

人材確保のためには、労働環境を改善することが欠かせません。単に人材を採用するだけでなく、どのように人材を定着させるか、対策していく必要があります。

たとえば、介護職員の業務負担を減らせるよう、役割分担を見直す、IT化を取り入れて事務作業の負担を減らす、などが挙げられます。

介護職員にとって働きやすい環境を整備することで、グループホームの安定経営が目指せるでしょう。

職場環境を改善するための方法については、以下の記事をご参考ください。
介護で働きやすい職場とは?職員が快適に働ける環境を整えよう!

また、処遇改善加算によって介護職員の賃金向上を図るのもひとつの方法です。

加算を受けるには、職員のキャリアアップに向けた支援や、職場改善に関する取り組みを実施しているなどの要件を満たす必要があるため、まだ取得していない事業者は検討してみると良いでしょう。

サービスの質を向上させる

認知症高齢者のグループホームでは、入居者の有する能力に応じて、自立支援していく必要があります。

なんでも介護職員が身の回りをお世話するのではなく、入居者の意思を尊重した上で、日常生活でできることを増やしていきます。

たとえば、食事を準備する際に、入居者が食べるだけの状態にするだけでは充分とはいえません。入居者自身も食事の準備をするようサポートすれば、入居者の自立を促せるでしょう。

サービス向上のためには、第三者の目を入れるのもおすすめです。事業所 を運営していく上で見落としていた点に気づけることもあります。ボランティアの受け入れやグループホーム同士の相互評価なども大切です。

地域との連携を図る

地域との接点とを増やせるよう、地域住民との交流を積極的に取りましょう。

認知症高齢者のグループホームが地域社会に向けて実施している活動として、認知症の啓発活動や相談支援、居場所づくり(認知症カフェ、サロン)などが挙げられます。

グループホームが認知症に関する情報発信や相談支援をすることで、地域社会の一員として欠かせない存在となり、地域住民との深いつながりが築けます。

また、近年は在宅介護に対する需要が増えています。在宅介護を支える活動を実施することで、地域に貢献できるでしょう。そこから入居者獲得につながる可能性も高くなります。

まとめ

認知症高齢者のグループホームは、経営が安定しやすいイメージが強いですが、なかには赤字で事業がうまくいかないところもあります。その背景には、人材難や競争の激化などが挙げられます。

しかし、人材配置の工夫やサービスの質の向上などにより改善できる面も多いです。その上で地域との連携も深めておけば、黒字化も十分に可能です。入居者や地域のニーズをよく理解しながら、経営の安定化を目指しましょう。