介護事業の収支差率は高い?計算方法や重要性について解説

介護事業を経営するうえで、収支差率という数値を目にする機会がよくあります。収支差率は介護事業の実態を把握し、介護報酬改定の改定率に影響を与えるデータであるので、経営をする際の参考となります。 今回は、介護事業における収支差率の計算方法や重要性について解説していきます。


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収支差率とは|計算式や利益率との違い

収支差率とは、売上金額に対する利益の割合を測る指標のことです。計算式は以下で算出します。

(収入-費用)÷収入×100=収支差率(%)

一般企業では収支差率という言葉はあまり耳にする機会は少なく、「利益率」という呼び方をすることが多いです。介護事業における収支差率は、営利企業の利益率と同じものと捉えて問題ありません。

収支差率が良化している場合は、高い収入で支出を抑えられていると判断できます。

介護サービス全体における平均収支差率は高い?

厚生労働省「令和4年度介護事業経営概況調査結果」によると、令和3年度決算における全介護サービスの平均収支差率は3.0%でした。前年度は3.9%だったため、0.9ポイント減少したことになります。

また、介護サービスの種類によっても収支差率は変動します。収支差率の減少幅がもっとも大きかったのは認知症対応型通所介護です。令和3年度は4.4%と、前年度の9.3%と比べて4.9ポイントも減少しています。

夜間対応型訪問介護も、前年度の8.6%から4.8ポイント減少しています。

定期巡回・随時対応型訪問看護は8.2%と介護サービス全体の中では高めですが、前年度の8.4%と比べると、0.2ポイントほど減少していることがわかります。

参考:「令和4年度介護事業経営概況調査結果の概要(案)」(厚生労働省)

介護事業で収支差率がマイナスになる原因

収支差率が低いだけならまだ良いかもしれませんが、マイナスになることもあります。マイナスの年が続くと、介護事業の継続も困難になってしまいます。

では、なぜ介護事業で収支差率がマイナスになるのか、主な原因を見ていきましょう。

人件費の増加

収支差率がマイナスになるのは、収入よりも経費が上回っているときです。経費の具体例としては、人件費・施設の賃料・光熱費などが挙げられます。その中でも、特に負担の大きいのが人件費です。

介護事業では23種類のサービス区分がありますが、「令和4年度介護事業経営概況調査結果」によると、そのうち18のサービスで人件費が上昇しています。その中でももっとも上昇幅が大きいのは、介護療養型医療施設です。令和3年度における収入に対する給与費の割合は61.0%、前年度比5.4%増と大幅に上昇しました。

人件費はその性質上、一度上昇すると下がることはほとんどありません。翌年度以降も高止まりしやすく、収支差率の改善も難しくなります。

また、介護業界では人手不足が深刻化しており、求人を募集しても応募が集まりにくい傾向があります。必要な人材を確保するためには、高い給与に設定する企業も少なくありません。

参考:「令和4年度介護事業経営概況調査結果の概要(案)」(厚生労働省)

新型コロナウイルスの影響

新型コロナウイルスは多くの業種に影響を与えましたが、介護業界においても収益悪化の原因になりました。

「新型コロナウイルス感染症の介護サービス事業所の経営への影響に関する調査研究事業(速報)」によると、収支差率が新型コロナウイルス感染症の流行前と比較して、「悪くなった」と回答した事業所は2020年5月の調査で47.5%でした。

また、感染不安により、自主的に通所介護の利用を控えた利用者がいた事業所は81.7%にも上ります。

介護サービスを利用する人が減少したことで、事業者の収入も減少したことが読み取れます。

参考:「新型コロナウイルス感染症の介護サービス事業所の経営への影響に関する調査研究事業(速報) 」(厚生労働省)

介護事業経営実態調査・介護事業経営概況調査の重要性とは?

自身が経営する介護施設・事業所の収支差率の状況を把握するためには、「介護事業経営実態調査」と「介護事業経営概況調査」の平均値を見ておくことが大切です。

とはいえ、介護事業に携わる方でも、どのような調査なのかよく分からない人も多いかもしれません。

ここでは、概要や重要性について紹介します。

介護事業経営実態調査・介護事業経営概況調査とは

介護事業実態調査は、3年に1度、厚生労働省が介護事業所に対して実施している調査のことです。一方、介護事業経営概況調査は、改定後2年間の間に毎年行われるものです。

これらの調査の目的は、各介護施設・事業所の正確な経営状況を把握して、介護保険制度の改善や介護報酬における制度の改正の参考にしています。主に収支差率や、そのもととなる経費などについて調査されます。

対象となる介護事業所は無作為に選出され、事業所に書類が送付されます。回答は書類を返送する形でもインターネットで送信する形でも可能です。

調査の大きな目的は、介護報酬改定議論に使用する基礎データの収集です。介護報酬は定期的に見直しが行われていますが、その際に介護事業実態調査の回答内容が考慮されます。

介護事業経営実態調査・介護事業経営概況調査に回答すべき理由

介護事業実態調査・介護事業経営概況調査への回答は義務ではありません。そのため、書類が送付されても回答しない事業所もあります。介護業界では慢性的な人手不足に陥っているため、回答する余裕のない事業所も多いでしょう。

しかし、これらの調査の回答内容は、介護報酬改定を左右する重要な指標です。調査結果が正しく反映されなければ、介護報酬が引き下げられてしまうこともあるかもしれません。

人手が足りていて時間的余裕のある事業所は、経営状況も良好で収支差率も高めの傾向にあります。そのため、余裕のある事業所の回答率が高いと、収支差率の平均値が高く出てしまいます。

実際には収支差率の低い事業所が多くても、回答率が低いと介護事業実態調査・介護事業経営概況調査の結果にはその実情が十分に反映されません。

適切な調査結果に導くためには、介護事業実態調査・介護事業経営概況調査の対象になったら、忙しくてもきちんと回答することが大切です。

まとめ

収支差率は、介護業界で使われる用語で一般企業における利益率とほぼ同じ意味です。近年では、人件費の高騰や新型コロナウイルスの影響で収支差率がマイナスになっている事業所もあります。

また、介護報酬は3年に1回実施される介護事業経営実態調査や、その間に2年間に毎年実施される介護事業経営概況調査のデータを考慮して決定されます。実態を正しく把握してもらうためにも、調査の対象になったら、必ず回答するようにしましょう。