科学的介護推進体制加算とは? 算定要件や提出方法をわかりやすく解説

介護事業に参入する事業者が多い昨今、既存の事業所・施設が生き残るためには、質の良いサービス提供による差別化が不可欠です。介護サービスの質を向上させる手段のひとつとして、「科学的介護推進体制加算」が注目されつつあります。 ここでは科学的介護推進体制加算の特徴と、関連する介護情報システム「LIFE」の活用方法について解説します。


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科学的介護推進体制加算とは?

科学的介護推進体制加算は、2021年の介護報酬改定にともない創設された加算制度です。科 学的介護情報システム「LIFE」へのデータ提出とフィードバック情報を活用するために 新設されました。

制度が設けられた目的には介護サービスの質の評価、科学的介護の取り組み推進、データ蓄積などがあります。

科学的介護情報法システム「LIFE」は、高齢者の自立支援や重度化防止を図るために導入されました。「LIFE」に収集された情報を分析した成果により、どのような介護ケアが高齢者の状態の改善・維持につながるのか、質の高いケアを提供していく上での目安となります。

介護サービスの客観的な評価を行うためにも、科学的に妥当性のあるデータを現場から収集・蓄積したうえで分析する必要があります。具体的には、介護施設・事業所が行っているケアの計画や内容、介護サービス利用者の状態を収集します。

科学的介護推進体制加算は、現場の評価を行いつつ、円滑にデータ収集・蓄積するために設けられた制度なのです 。

科学的介護推進体制加算となる対象サービスの単位数

科学的介護推進体制加算の対象となるサービスおよび単位数は、あらかじめ下記のとおり定められています。

通所系・居住系・多機能サービス 加算単位数
通所介護 40単位/月
(介護予防)通所リハビリテーション
(介護予防)特定施設入居者生活介護
地域密着型通所介護
(介護予防)認知症対応型通所介護
(介護予防)小規模多機能型居宅介護
(介護予防)認知症対応型共同生活介護
地域密着型特定施設入居者生活介護
看護小規模多機能型居宅介護

 

施設系サービス 加算単位数
介護老人保健施設 (Ⅰ)40単位/月

(Ⅱ)60単位/月

介護医療院
介護老人福祉施設 (Ⅰ)40単位/月

(Ⅱ)50単位/月

地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護

出典:「介護報酬」(厚生労働省)

上記の加算単位は、算定要件を満たした場合のみ適用されます。科学的介護推進体制加算の算定要件は(Ⅰ)と(Ⅱ)の区分ごとに異なっている点に注意しましょう。

(Ⅰ)の区分に当てはまる算定要件は、下記のとおりです。

・ADL値、口腔機能、栄養状態、認知症の状況について、利用者ごとの情報をLIFEにて厚生労働省へ提出していること
・LIFEに提出した情報やフィードバックを施設のサービスに有効活用していること

(Ⅱ)の区分に当てはまる算定要件は、下記のとおりです。

・ADL値、口腔機能、栄養状態、認知症の状況、疾病、服薬状況(一部施設は除く)について、利用者ごとの情報をLIFEにて厚生労働省へ提出していること
・LIFEに提出した情報やフィードバックを施設のサービスに有効活用していること

科学的介護情報システム「LIFE」とは

前述のとおり、科学的介護推進体制加算を適用させるには科学的介護情報システム「LIFE」を利用した報告が不可欠です。

LIFEは、厚生労働省が提供する情報システムです。厚生労働省のウェブサイトから専用サイトへアクセスできるほか、導入に関するマニュアルも、テキストと動画のいずれかで確認できます。

LIFEの役割とは

LIFEの最大の役割は、厚生労働省と各事業所・施設の間で円滑に情報共有することです。職員は利用者・入居者の状態をインターネット上で素早く報告し、厚生労働省で情報分析が行われます。

分析後は送信元である事業所・施設にフィードバックが送られるため、現状の課題把握や改善策を検討する材料となります。集められた情報も厚生労働省側に蓄積され、科学的裏付け(エビデンス) に基づいた 介護サービスを模索する資料として活用される仕組みです。

介護事業所・施設にとっては科学的介護推進体制加算を受けるための手続きであると同時に、提供するサービスについて、PDCAを回すためのツールとしても役立ちます。

LIFEを導入する方法

LIFEを導入するには、まず利用登録が必要です。「LIFE(科学的介護情報システム)のホームページ」にアクセスして、新規利用申請を行います。

専用サイトの「初めてご利用される方」の新規登録ボタンから進み、画面表示に従って必要事項を入力します。新規利用登録の申請後、送付された利用案内のとおりに手続きを行えば、LIFEの導入完了です。

新規利用登録時は、FAX番号や事業所番号の入力が必要です。あらかじめメモを用意して、スムーズに入力できるように準備しておきましょう。

なお、必ずしも申請して即座に登録が完了するわけではありません。LIFEの新規利用登録の受付は毎月25日締めと決められており、締切日までに申請された事業所・施設に対して順次、利用案内が送付されます。

利用案内は基本的に翌月頭までに送付されるため、26日以降に申請した場合は導入まで1ヶ月近くかかることとなります。

LIFEを提出する頻度

LIFEへのデータの提出は、毎日行う必要はありません。基本的には6ヶ月に1回の頻度で行います。ただし、ほかの介護報酬加算も受けている場合は、3ヶ月に1回のペースでデータ提出が求められます。

新規利用登録と同じく、データの提出にも締め日が設けられている点に注意しましょう。データ提出の締め切りは、該当する月の10日です。11日以降に提出したデータは次回分の扱いとなり、該当する月の科学的介護推進体制加算は受けられなくなります。

科学的介護推進体制加算の算定要件

前述のとおり、科学的介護推進体制加算を受けるためには、LIFEの利用などいくつかの算定要件を満たさなくてはなりません。

基本情報をLIFEから厚生労働省に提出する

科学的介護推進体制加算は科学的介護の推進を目的としているため、情報収集システムであるLIFEの利用が絶対的条件です。利用者・入居者に関する定められた基本情報を、一定期間ごとに厚生労働省へ提出しなければなりません。

提出されたデータは利用者・入居者の背景(年齢、性別、要介護度など)やリハビリテーションの有無、栄養状態などさまざまな項目が蓄積されます。ほかの事業所・施設における同等の利用者・入居者データとともに集計したり事業所・施設ごとに集計したりと、多角的な分析に用いられます。

LIFEの情報を活用してPDCAサイクルを回す

提出したデータやほかの事業所・施設から収集したデータを参考に、LIFEからフィードバックが送られてきます。介護事業者はフィードバックを参考にプラン改善を行うなど、PDCAサイクルを回すのに貢献が期待されています。

PDCAとはPlan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)のサイクルです。施策を計画して実行し、LIFEからのフィードバックを受けたら、再度プランを構築して改善策を実行し、後日再びLIFEへ施策による状況の変化を報告する、という流れを繰り返します。

ただし、フィードバック の活用は実用的な領域に達していないといえます。LIFEからフィードバックされるのは介護サービスの全国平均値です。そのため、「デイサービスの全国平均値」や「特別養護老人ホームの全国平均値」などのマクロなデータで比較することになります。

例えば、同じデイサービスでも、要介護度が1-3の要介護者を対象にしていたり、機能訓練に注力していたりと、事業所・施設によって状況が異なります。フィードバックされる一律の全国平均値と比較しても課題抽出がしづらい可能性があります。

また、公表されるフィードバック表は暫定的な集計です。事業所の実態とは異なる可能性があるため、実用的なデータ分析は難しいでしょう。

今後は改良を繰り返し、より精度の高いフィードバックデータの収集が期待できます。各事業所はLIFEが精度向上される間に、データを用いてPDCAが回せる体制を整えておくことが大切です。

科学的介護推進体制加算の提出方法

科学的介護推進体制加算の提出方法は、CSVファイルとLIFEの2パターンがあります。

CSVファイルから取り込む

介護ソフトを使用している場合、CSVファイルから取り込む方法が利用できます。介護ソフトに記録した情報をCSVファイル形式で出力した後、LIFEへ取り込んで提出するのみです。

注意点は、LIFEのフォーマットに対応した介護ソフトでなければ取り込めないおそれがあることです。使用している介護ファイルがLIFEのフォーマットに対応しているか、事前に確認しましょう。

仮に対応していない場合や介護ソフトを使用していない場合、CSVファイルからの取り込みは可能ですが、自力でCSVファイルを作成する必要があります。

LIFEの画面から手入力する

LIFEの画面から、直接手入力する方法もあります。介護ソフト利用の有無にかかわらず手入力できるため、すべての事業所・施設で対応できる提出方法です。提出時の様式も、厚生労働省があらかじめ用意してくれています。

提出時の注意点は、各加算に応じた様式を必ず利用することです。誤った様式で提出すると、加算が認められない場合があります。

まとめ

科学的介護推進体制加算は、厚生労働省が活用を推進する情報システム「LIFE」への情報提供を条件に導入できる、新たな加算制度です。LIFEを利用した情報の提出は加算要件を満たせるうえ、フィードバックを受けられるため、介護事業所・施設の成長にも役立ちます。

介護事業所・施設が増加傾向にある現代において、長く経営していくためにはサービスの質向上や時代に合った運営方法が不可欠です。科学的介護推進体制加算をきっかけに、LIFEを活用できるように環境を整備していきましょう。