福祉用具貸与事業所の今後はどうなる?現状と目指すべき方向性を解説

車いすや特殊寝台などの福祉用品は、高齢者の日常生活動作の維持や改善を支えるために欠かせない設備です。福祉用品には安価なものもあれば、高額なものもあります。個人での購入が困難な福祉用品がある場合、入手先として高い支持を集めているのが、貸与サービスです。 ここでは、サービスを提供している福祉用貸与事業所の現状と今後目指すべき方向性について解説します。


この記事は約8分で読み終わります。

福祉用具貸与に関する現状

超高齢社会と一口にいっても、健康寿命がそれぞれ異なるように、各高齢者が抱えている悩みはさまざまです。日常生活に支障をきたしている高齢者の多くが、福祉用具および介護用品を活用しています。

福祉用具貸与の現状を市場規模や動向の観点からまとめると、下記のとおりです。

市場規模は依然拡大傾向にある

福祉用具に関する市場規模は、2019年度から緩やかに拡大傾向にあります。日本福祉用具・生活支援用具協会が公表した「福祉用具産業市場規模調査」によると、2020年度時点で福祉用具産業市場規模は1兆5,055億円でした。

出典:「福祉用具産業市場規模調査」(日本福祉用具・生活支援用具協会)

数値は前年度比0.9%減となっていますが、時期的に新型コロナウイルス感染症拡大が要因であるといえます。実際、急速的な感染拡大が起こった2020年前半に比べると、後半は市場の勢いが持ち直しています。

内閣府の資料では、2042年には高齢者数が3,935万人に到達してピークを迎えると予測されています。要介護高齢者が増加し続ければ、福祉用具のニーズも今後さらに増加が予想されます。

出典:「平成29年版高齢社会白書(全体版)」(内閣府)

市場動向は介護保険制度に大きく影響される

福祉用具産業市場の動向に影響を与えるのは、要介護高齢者数の増減だけではありません。たとえば、介護に関する法改正も影響を与えるひとつの要因です。

3年に1回の頻度で改定される介護報酬では、内容によっては介護保険を利用できる用具が制限されるおそれがあります。要介護の区分で低い層にあたる人々が対象除外とされれば、市場縮小が生じかねません。

過去にも制度の変更によって、市場規模に影響をもたらした時期があります。2006年の法改正ではベッド・車いすなど一部の福祉用具が、要介護1・2の段階にあたる層は原則給付の対象外となりました。

結果、該当者は継続してベッド・車いすなどを使用したい場合、自費によるレンタルもしくは購入を選択せざるを得ない状況となりました。要介護1にあたる層の動向を見ると、法改正時の2006年は福祉用具貸与の受給者数が344,100人であったのに対して、翌年には85,300人にまで減少しています。

出典:「各種調査研究事業等による数値」(厚生労働省)

徐々に市場が落ち着き、全体数の増加とともに要介護1・2にあたる層の受給者数も増えつつあります。しかし、前例がある以上、今後も同様の減少が起こる可能性がないとは言いきれません。事業者は法改正の影響も視野に入れつつ、今後の経営戦略を練ることが求められます。

福祉用具貸与事業所|業界の今後の展望

前述のとおり、介護業界の需要および福祉用具産業の市場規模は拡大傾向です。福祉用具貸与事業所として今後どのように活動していくべきか、業界全体における直近の動向とともに解説します。

福祉用具の対象種目が追加されることにより、市場の拡大が期待

介護保険法において新しい福祉用具の種目が追加されると、市場が拡大します。

近年、介護保険法(平成9年法律第 123 号)にもとづく福祉用具の種目の一部が、改正されました。2022年4月より排泄予測支援機器が、介護保険の給付対象となる福祉用具として新たに追加されています。

排泄予測支援機器に分類される福祉用具の定義は、下記のとおりです。

【排泄予測支援機器】
購入告示第三項に規定する「排泄予測支援機器」は、利用者が常時装着した上で、膀胱内の状態を感知し、尿量を推定するものであって、一定の量に達したと推定された際に、排尿の機会を居宅要介護者等又はその介護を行う者に自動で通知するものである。専用ジェル等装着の都度、消費するもの及び専用シート等の関連製品は除かれる。

引用:「「介護保険の給付対象となる福祉用具及び住宅改修の取扱いについて」の改正について」(厚生労働省)

排泄予測支援機器は膀胱内に溜まった尿量を実際に計測するため、個々の体質に適応しやすいメリットがあります。失禁を防ぎ、排尿の自立をサポートする効果が期待できることから、高いニーズおよび市場拡大が見込まれています。

福祉用具貸与・販売の選択制導入が検討されている

市場動向に大きく影響する出来事として、福祉用具貸与・販売の選択制導入が挙げられます。2022年9月の検討会にて、福祉用具の利用者増・介護費膨張などの現状に関する対策として、一部福祉用具に選択制導入が話題にのぼりました。

検討段階では、比較的廉価で中長期の利用が想定される福祉用具(歩行補助つえ、固定用スロープなど)が対象となっています。

実施されれば「福祉用具は基本的に貸与」「販売は例外的」というこれまでのイメージが大きく変わり、市場そのものにも変化をおよぼす可能性があります。

ただし、現在は議論そのものがあまり進んでいないため、次期介護報酬改定において議論されていくことになるでしょう。

介護人材不足が深刻化している

多くの業種で人手不足が問題視されているように、介護業界も恒常的な人材不足です。福祉用具業界においても、人材不足を解消することは急務といえます。

人手不足は職員一人あたりの負担を増大させるのみならず、サービスの質を低下させる要因にもなります。

介護業界に多くの企業や団体が参入している現在、サービスの質は競合に対抗できる重要なアピールポイントです。深刻化しつつある介護人材不足の解決方法として、福祉用具やICTの活用が注目を集めています。

人手不足解決の一手として、今後ますます福祉用具の需要は高まることが予測されます。

これからの福祉用具貸与事業所が今後目指すべき方向性とは

上記のとおり、福祉用具貸与の需要は今後もますます増加する見込みです。福祉用具の対象種目の追加や選択制導入による需給バランスの変化など、これまで対象ではなかった層への供給機会が増える可能性も考えられます。

市場動向の変化を想定して、これからの福祉用具貸与事業所が目指すべき方向性として、次の3つが挙げられます。

自社レンタルや保険外領域を強化する

介護保険の対象品目や要介護対象の区分が変更されてきた過去の事例を見ると、今後も同じ事業スタイルを貫くことはリスクがあります。解決策として考えられるのが、自社レンタルや保険外領域の強化です。

卸業者から借りた福祉用具を貸し出す「卸レンタル」を主としている場合、自社レンタルへの転換をはかることで、損益構造がマイナス収支になるリスクを軽減できます。たとえば2024年度改正を視野に、手すり・歩行器・つえなどを自社レンタルに切り替えて減価償却していく方法です。

ただし自社レンタルへの転換は、利用者数が500名を超える程度の高回転レンタルが期待できる事業所向けといえます。該当しない小規模事業所の場合は、介護保険に影響されない商品の開発・取り扱いに注力するほうがローリスクでしょう。

保険外領域とは、たとえば家具や家電などのレンタルが挙げられます。高齢者施設に入居する層をターゲットとすると、サービスとして継続しやすくなります。

福祉用具の機能・内容・価格などについて情報提供を積極的に行う

一般的に顧客が製品やサービスを選ぶ際、同等の機能がついたものであれば、デザインもしくは安価なものを選びます。

しかし福祉用具の場合、利用者の多くは、下記のとおり価格比較を行っていないという調査結果があります。

・福祉用具事業者の比較検討をしていない:74.2%
・価格をほとんど考慮していない:47.9%

出典:「福祉用具貸与事業の情報提供の現状」(一般社団法人シルバーサービス振興会)

ただし、上記の数字は必ずしも価格に関係なく福祉用具を選んでいるわけではありません。

多くの高齢者や介護者が相談する相手(ケアマネージャーなど)のアドバイスを参考にレンタルを利用しており、比較検討できるほど情報を得ていないことも関係しています。

今後、デジタルデバイスに強い世代が介護世代になることによって、価格情報が伝わりやすくなります。そのため、価格情報の開示内容を見直すことが重要です。積極的に価格の構成要素を情報発信していくことで、市場における価格競争の活性化が期待できます。

デジタル化・分業化により生産性の向上を図る

人材不足の解決策としても、生産性向上につなげるうえでも、今後は業務のデジタル化や分業化が不可欠です。職員一人あたりが担当できる業務量および分野には、限界があります。それぞれがマルチタスクに複数の業務を担当しても、生産性向上は期待できません。

生産性向上のためには、設備導入や外部サービス利用など必要な部分には相応のコストをかけることが重要です。単調な業務はデジタルツールに切り替え、専門性の高い人材にはひとつの業務に集中してもらう環境を整えたほうが、全体の生産性向上につながります。

まとめ

超高齢社会が続く見込みであることから、日本における福祉用具貸与事業は今後も需要の増加が考えられます。一方で法改正などの影響により、レンタル利用者が増減する可能性もあります。よって、外的要因による市場変化も視野に入れた事業展開が不可欠です。

福祉用具貸与事業所は、自社レンタルサービスの強化や生産性向上など、供給面の見直しを行うことが今後の安定経営につながります。自社で取り扱う製品の強みやコストパフォーマンスの高さを強調したアプローチも、積極的に行いましょう。