介護事業所・施設の利益率を上げる方法|業界の現状や課題点も解説

介護業界の利益率は、全体的に減少しているといわれています。そもそも介護事業における利益率とは何を指すのでしょうか。この記事では、介護事業の利益率の現状と利益率が落ち込む原因、利益率を上げるための施策について解説していきます。


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介護事業の利益率は減少傾向にある

利益率とは、売上高に対して純利益が占める割合のことです。社会福祉法人では、経常増減差額率といい、次のような計算式で求められます。

経常利益額(経常増減差額)÷サービス活動収益計×100%

利益率(経常増減差額率)は、介護事業所や施設が収益性を測るのに重要な指標です。マイナスの値となる場合、将来的な財務状況悪化が懸念されます。

介護業界全体として利益率はどのように動いているのか、まずは現状を見ていきましょう。

業界全体で前年度から0.7ポイント低下(2019年度)

公的介護サービスの2019年度の利益率は、全サービス平均2.4%で、前年度よりも0.7ポイントの低下となりました。理由は後述しますが、業界全体で利益率が大きく落ち込んでいることがわかります。

出典:「令和2年度介護事業経営実態調査」(厚生労働省)

利益率の低下が著しいのは夜間対応型訪問介護サービス

公的介護サービス全体ではなく、各サービスの利益率を個別に見ていきましょう。前年度と比較すると、わずかながら平均の利益率が向上しているサービスもあります。しかし、一部であって、2019年度は23サービス中17サービスで低下が見られました。

中でも利益率の低下が著しかったのが、夜間対応型訪問介護です。平均2.5%で2.9ポイント落ち込みました。ほかにも、訪問介護平均2.6%で1.9ポイントの落ち込み、特別養護老人ホーム1.6%で0.2ポイントの落ち込みとなっています。

前年度も-0.1%だった居宅介護支援は、さらに1.5ポイント落ち込み、-1.6%となりました。

介護事業全体をとおして見ると、デイサービスなどは利益率が高いものの、特定施設入居者生活介護(有料老人ホーム、サービス付高齢者住宅など)や施設サービスは利益率が低い傾向にあることがわかります。

出典:「令和2年度介護事業経営実態調査」(厚生労働省)

介護事業の利益率が落ち込んでいる3つの原因

なぜ介護事業全体で利益率の大きな落ち込みが見られるのでしょうか。主な原因を3つ取り上げます。

同業間での競争が激しい

介護サービスを利用する高齢者の増加にともない、介護事業所や施設も増加の一途をたどっています。

利用者にとっては選択肢が広がった一方で、競合間での競争は激化している現状です。利用者の獲得は、自身の介護への想いを世の中に広めるために必要です。また、利用者に選ばれるための努力をしなければ、利用率は下がり十分に収益を上げられなくなってしまいます。

利用してもらえる工夫を続けなければ、利益率が低下するばかりかサービスの維持や経営の継続も厳しくなるかもしれません。

新型コロナウイルス感染拡大による影響

新型コロナウイルス感染症も介護事業の利益率に影響を与えています。介護サービスでも特に影響が大きかったのが、デイサービスや通所リハビリテーションなどの通所型のサービスです。

一時、クラスターが懸念されるという理由で通所介護を休止する事業所・施設も見られました。利用者側の利用控えも起き、規模の大きい通所介護サービスは大きく利益率を下げています。

比較的影響の少なかった施設型のサービスも安心できません。介護職員の感染リスクもあり、職員が出勤できないこともあるためです。まだまだ収束の見通しが立っていない現状から、事業所・施設は苦しい状況が続いています。

介護事業の需要に労働者供給が追いついていない

介護事業における利益率低下の要因のひとつに介護職員の不足も挙げられます。ただ、介護業界全体としては介護職員の処遇改善や環境整備などに動いているため、徐々に介護人材数は増加傾向にあります。

とはいえ、後期高齢者人口の増加に対して介護人材の供給は追いついておらず、まだまだ人材不足の状況が続いているのです。

人材を確保するために、引き続き介護職員の処遇改善や整備を行いつつも、通常の募集で集まらない場合は、委託などを活用して人材不足に対応する必要があります。ただ、これらの方法は、安定的に人材が確保できるようになるまで事業者にとってコストがかかってしまう方法になります。そのため、人材獲得にかかるコストの圧迫が、利益率低下につながっているケースもあるのです。

介護職員の不足は利用者受け入れにも影響を与えます。介護事業には人員配置基準が設けられているため、介護職員の離職などにより対応できる人数が不足すると、利用者の受け入れを制限しなくてはなりません。利用者の受け入れが減少すると収益の減少にもつながります。

介護事業所・施設で利益率を上げるためには

競合が増えたことによる競争の激化や介護職員の人手不足など、介護事業を取り巻く環境のなか、コンスタントに利益率を上げるにはどうすれば良いのでしょうか。介護事業者が利益率を確保するための4つの施策を紹介します。

稼働率を上げる

稼働率が低いと赤字に陥りやすくなります。利益率をしっかり確保するには、稼働率を上げることも重要です。

稼働率が低い原因は事業者や施設によって異なりますので、まずはその原因を把握することから始めましょう。よくある原因としては、以下が挙げられます。

・利用者数が少ない

・利用者ひとりあたりの利用頻度が少ない

・キャンセルが多い など

原因を特定できたら、その原因を改善できるようにサービスの見直しを行い、施策を打っていきましょう。

例えば、デイサービスで一人あたりの利用頻度が低い場合は、サービス内容全般を見直して利用してもらいやすい環境を作り、利用数を増やしてもらえるよう働きかけます。

強みや特徴を明確化してアピールする

増加する競合施設の中から利用者に選んでもらうためにはブランディングも重要です。ブランディングとは、競合と差別化を図り利用者にサービスを知ってもらい、価値を認めてもらうことです。

稼働率を上げるためにも介護業界でのブランディングは大きな意味があります。ブランディングのために必要なのは、競合分析による自社の強みと特徴の明確化です。

競合他社との違いを把握することで効果的にブランディングできるようになります。まずは自社の価値に気づくことです。

強みや特徴を把握できたら、HPやSNS、パンフレットなどの複数の営業ツールを活用してアピールします。「○○といえばこの事業所・施設」というように、ケアマネージャーや地域住民などにしっかり認識してもらうことが重要です。

業務効率化を図る

介護現場においても業務効率化を図ることは重要です。業務効率化を進めていくことで、力を入れたいコア業務に集中できます。

まず、適切な人員配置ができているか見直すことも重要です。事業所が抱える課題によっては、人材を増やすだけではなかなか改善されないケースもあります。

特定の業務で本当にそれだけの人員が必要なのか、ほかに代替できないか検討しましょう。人員配置の見直しは、結果的に人件費を抑制することにもつながります。

業務の可視化で個々の業務の見直しも図りましょう。事業所・施設によっては、それぞれの人員がどのような業務を担っているかしっかり把握できていないケースもあります。誰が何をしているのか見えるようにして、重複している部分は見直しが必要です。

ICTツールの導入も業務効率化につながる可能性があります。介護職員の業務負担につながったり、導入しやすかったりするツールはまだ少ないものの、しっかり活用できるツールを選定することで、事務作業の負担軽減や会議時間の削減などにつながります。そして、残りの時間をケアや顧客獲得に活用できれば、利益率向上に役立つでしょう。

加算をしっかり取得する

介護事業は公共性の高い事業のため、介護保険制度のもとで実施されます。つまり、介護保険の定める介護報酬が収益に大きく関わります

介護事業者の収益は、基本報酬と介護報酬加算を合算した額から、介護報酬減算が行われた額です。収益性を高めるためにも、介護報酬加算をできるだけ取りこぼさないようにしましょう。

介護サービスによって介護報酬加算項目は異なります。まずはどのような項目があって、どのような手続きが必要か把握することから始めましょう。介護報酬加算に関するセミナーや説明会などに参加するのも方法のひとつです。

また、介護報酬は定期的に改定が行われています。加算の取りこぼしを防ぐためにも、介護報酬改定の動向を把握して、必要な情報を取得できるようにしておきましょう。

まとめ

介護業界では、利益率が上がらずに経営が厳しくなる介護事業者も見られます。コンスタントに利益率を上げていくには、介護事業者が自ら利益率を上げていくための施策を打つことが大切です。