訪問介護の利益率は落ち込んでいる!経営状況の実態
訪問介護を単独で行っている企業やほかの福祉サービスと併設して行っている企業など、その種類はさまざまですが、訪問介護を実施している事業者全体で見ると、赤字割合は47.7%です。
加えて、従業員規模別に見ると、従業員が4人以下の企業では赤字の割合が高く、56.9%と過半を占めています。
この数値から、約半分の訪問介護を実施している事業者が赤字経営ということがわかります。
さらに、厚生労働省が実施した「令和2年度介護事業経営概況調査」では、訪問介護の経営状況が厳しいものであることがわかります。
日本での訪問介護の需要は増えているものの、利益率は令和元年で2.6%となっており、前年度と比較すると1.9ポイントの減少となります。
コロナ禍となり人手不足が顕著になった介護業界で、人件費が高まったことが、利益率減少の大きな要因のひとつです。
訪問介護で売上を上げるには?実践すべき4つの方法
訪問介護の仕組みは、指定された時間に介護者の家庭に訪問し、30分、45分、60分などの時間からその人に合ったサービスを提供します。提供時間に応じて利用者からは原則1割、国から9割の介護報酬を受け取る仕組みです。
そのため、訪問介護の売上は、サービス単価×利用回数×利用者数の掛け算で決定します。サービス単価や利用回数、利用者数のいずれかを増やさなければ売上は上がらないということです。
また、訪問介護の売上は、400万円前後を目指すと安定するといわれています。
<売上400万円の目安>
・サービス1回の単価:5,000円
・利用回数:2回/週(8回/月)
・利用者数:100人
売上が400万円以下の事業者であれば、まずは売上400万円を目指すところからはじめましょう。
利用者の獲得に向けた営業を行う
法改正以前は、介護サービスが「措置」という位置づけでした。そのため、訪問介護事業者は、営業活動を行わなくても利用者が斡旋されていたのです。
しかし、2000年の社会福祉法改正により、介護サービスは「措置」ではなく「利用」に位置付けられました。これを理由に、介護事業者と利用者との双方の契約になったため、今まで以上に事業者は自ら介護への想いを世に発信し、そして利用者獲得のために営業などが必要になりました。
後期高齢者人口が増加している今、多くの人が介護業界に参入しています。同じエリア内でも多くの競合があるため、計画性のある営業活動が重要になるでしょう。
主な営業先は、居宅介護支援事業所や地域包括支援センター、医療機関が該当します。営業先のなかでも居宅介護支援事業所は、要支援・要介護者が自宅で介護サービスを受けつつ生活できるようにサポートする組織です。
居宅介護支援事業所のケアマネージャーは、特定事業所集中減算を実施するため、特定の事業者だけにサービスを依頼することはありません。要支援・要介護者のケアに合わせて、多くの事業所・施設の中から紹介先を選んでいます。そのため、利用者を獲得するためには連携が欠かせない重要な組織といえます。
単に「自事業者のサービスを利用してほしい」と伝えるだけでなく、普段からケアマネージャーとコミュニケーションを取り、競合と差別化できている部分や自事業所の強みを積極的にアピールすることが大切です。
訪問営業のほかにも、営業先への信頼や共感、利用者への価値を訴求するためのブランディングも同時に行う必要があります。ホームページやブログ、SNS、広告などを利用した積極的な情報発信も欠かせません。
訪問介護の利用者獲得のための方法は、下記の記事でも紹介しています。
利用回数を増やす
訪問介護の事業者が売上を上げるには、一定の利用者数は必要なものの利用回数を増やす方法もあります。
たとえば、月1回利用の人が30人いるよりも、15人の利用者に月3回利用してもらうほうが売上はアップします。これは、一般的なビジネスモデルでいうリピーターの獲得に値しますが、利用者満足度が上がれば利用回数は自然と増えてくるでしょう。
何度もケアを継続して依頼したい、頻繁に利用したいと思ってもらえる事業所になるには、介護職員によるニーズ汲み取りが重要です。利用者は何を必要としているのか、どういう対応が喜ばれるのかを常に意識して業務に取り組むようにしましょう。
また、訪問介護では、安心できる体制の構築も必須です。リスクマネジメントを徹底して行い、利用者が安心して任せられると判断したとき、自然と利用者数も増えていくでしょう。
サービスの質を高める
介護サービスが「措置」ではなく「利用」に位置付けられたことで、利用者も自由に事業所・施設を選べるようになりました。
そのため利用者獲得には、質の高い介護サービスを提供することも大切です。利用者が求める高品質なサービスを提供できれば、利用者満足度向上につながり、月の利用回数が増えたり、口コミから利用者が増えたりします。
では、どうすれば質の高いサービスを提供できるのでしょうか。ひとつはマネジメント人材の育成です。ただ単に業務をこなすだけでなく、観察力や判断力、業務遂行力、多職種連携力、指導力、マネジメント力、改善力などさまざまなスキルを修得している人材の育成は欠かせません。
また、事業所全体では、「日常生活で困りごとを抱えている人を支える事業」ととらえ、多角的な事業を展開していく積極性も重要です。競合事業者が多い業界でもあるので、看取りや認知症ケア、中重度者対応など、他事業所が受け入れてない、より高い専門性が必要な分野に特化するのもひとつの方法といえます。
単価を上げる
1回のサービス単価を上げて、訪問介護の売上を伸ばすことも可能です。
訪問介護での単価を上げるには、ふたつ方法があります。ひとつは、介護度の高い利用者を受け入れることです。
たとえば、要介護度1の人にサービスを提供するよりも、要介護度5の人を多く獲得するほうが単価は高くなります。しかし、介護度が上がることで介護者側が必要とする技術レベルも上がるため、人材の確保とスキルアップの教育体制は必須です。
要介護度1ではトイレや歩行など、日常生活を送る上での一部サポートが必要な状態ですが、要介護度5になると、立ち上がりが困難になり食事や排泄、衣類の着脱などサポートする範囲が広がるため、それに対応できる人材がいなければできません。
もうひとつの単価を上げる方法は、長い時間のコースでサービスを提供することです。30分ではなく、60分のコースで介護を行えば、単価がアップします。長い時間でのサービスを提供するには、利用者とのコミュニケーションを通してニーズを把握することが重要になるでしょう。
事業所で働くすべての人にニーズを把握してもらうためにも、研修や講習などを実施するほか、要介護者とのコミュニケーションを定めたマニュアルの策定も必須です。
まとめ
訪問介護サービスを提供する事業者が売上を上げていくには、利用者ニーズを汲み取り安心して依頼してもらえる信頼感の構築がポイントとなります。
利用者の獲得のための営業を行う、利用者数を増やす、サービスの質を高める、単価を上げることで訪問介護の売上が伸ばせるでしょう。
競合事業者が多い業界なので、自事業者の強みをつくり、他社との差別化を図りながら積極的な情報発信と営業活動に注力していきましょう。