訪問介護の平均売上とは?売上を伸ばす5つのコツと生産性向上の重要性

今後も高い需要が予測される業種のひとつが、訪問介護をはじめとする高齢者向けの支援サービスです。一方で、人手不足や支援金の問題など、運営に悩んでいる事業所も少なくありません。 今後も訪問介護の事業を継続していくためには、他の事業所の状況や生産性に関する工夫を学ぶことが重要です。 そこで今回は、訪問介護の平均売上や生産性向上のコツを紹介します。


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訪問介護の平均売上高は1ヶ月あたり200万未満が約半数

訪問介護の平均売上高は、規模に左右されます。小規模な企業ほど売上高は少なく、1ヶ月あたりの金額を見ると下記のとおりです。

売上高(1ヶ月あたり) 事業所の割合
100万円未満 21.3%
100~200万円 26.8%
200~400万円 28.3%
400万円以上 23.6%

参考:日本政策金融公庫「訪問介護の1カ月当たり売上高

特徴は、介護保険外のサービスを主としていても、売上高に大きな違いはないことです。介護保険外のサービスを導入している「訪問介護のみ」「通所介護のみ」「訪問介護と通所介護のみ」の3事業所の平均売上高は、128万円でした。

保険外サービスを導入しているから採算が良い、とはなりません。ただし、黒字と赤字の割合で見ると、黒字企業が52.4%と半数を超えています。

訪問介護の平均売上アップを考えるときのポイント

前述のとおり、訪問介護の平均売上には保険外サービスの影響がほとんどありません。売上アップを狙って保険外サービスを導入したとしても、大きな増収は期待できないのが現状です。

それでは、訪問介護の平均売上をアップさせるためには何をするべきか、意識すべきポイントを紹介します。

ポイント1.訪問回数が400~600回程度で収支がほぼゼロとなる

訪問介護の収益を支える要素は、介護保険料と介護報酬の2つです。介護サービスの対価に国から9割の介護保険料を、利用者からは原則1割の介護報酬を受け取ります。収益を単純に計算すると、式は下記のとおりです。

売上=サービス単価×利用回数×顧客数

訪問介護は、事業所に登録している訪問介護員などのスタッフを、依頼に応じて利用者宅へ派遣するシステムです。訪問回数が増えれば、必然的に利益は増えます。

厚生労働省の資料によると、支出を差し引いた収支がほぼゼロから利益へ転じるのは、訪問回数400~600回程度でした。400回以上の訪問介護サービスを行うと、ようやく1%弱の利益が生まれます。

出典:「令和2年度介護事業経営実態調査結果」(厚生労働省)

ポイント2.訪問介護事業における支出の大半は人件費

訪問介護事業を運営するうえで、欠かせないのが介護にあたるヘルパーの確保です。事業の支出も、大半は人件費が占めています。

厚生労働省の資料によると、2021年における介護職員の平均給与額は常勤で31万4,590円、非常勤のスタッフで20万1,120円です。

出典:「令和3年度介護従事者処遇状況等調査結果」(厚生労働省)

また、一般社団法人シルバーサービス振興会が調べたところ、黒字となっている訪問介護事業者が人件費に割いている支出の割合は売上高の74.9%でした。

出典:「事業収支シミュレーション」(一般社団法人シルバーサービス振興会)

事業継続のためには、サービスの要となっている人件費を安易に削る施策はできません。黒字となっている事業者の例を参考に、74.9%を目安に人員配置することが重要です。

ポイント3.訪問回数の少なさによって人件費が賄えていない状況

独立行政法人福祉医療機構の調査によると、2018年度の訪問介護における経営状況は47.7%が赤字施設でした。

出典:「訪問介護事業所の経営状況について」(独立行政法人福祉医療機構)

特徴的なのは、赤字施設と黒字施設の活動収益は同水準であることです。赤字・黒字を分ける要因となっているのは、訪問回数の差でした。訪問回数が少ない影響により、収益で人件費を賄えずにいる結果、赤字となっているのが現状です。

訪問介護の平均売上を高める方法

訪問介護の現状は、上記のとおり事業自体は需要もあり成り立っているものの、訪問回数の少なさが収益を目減りさせています。売上を高めるためには、支出と収益のバランスを改善することが重要です。

訪問介護の平均売上を高める方法として、次の5つが挙げられます。

1. 訪問回数・日数を増やす

第一に考えられる策が、単純に訪問回数や日数を増やすことです。現状が訪問回数の少なさによって収益を十分に得られていない以上、不足分を埋めるほどの案件数をこなす必要があります。

訪問回数や日数を増やすには、現在のヘルパーの訪問ルートを見直しましょう。効率的にまわれるルートを組めば、人員を増やすことなく訪問回数を増やせます。

また、派遣するヘルパーの質も重要です。幅広く対応できる人材が多ければ、どの時間、どのルートでも任せられます。一方でケアスキルに不安のあるヘルパーが多い場合、移動ロスのおそれがあります。

他にも、サービス提供エリアや利用者の利用頻度も重要です。サービス提供エリアは広げすぎないようにしましょう。幅広いサービス提供エリアは多くの案件数を獲得できそうに思えますが、1件ごとの移動時間を考えると効率的ではありません。

利用者も週1回の利用者より、週2回以上の利用者を中心にすると、業務効率は向上します。週1回利用者が30名いるA事業所と、週2回利用者が15名いるB事業所は、訪問回数は変わりません。しかしルートや要望が異なる分、A事業所の業務効率は落ちます。

表面的な訪問回数だけではなく、同じ訪問先の日数を増やす施策も考慮する必要があります。

2. 事務・管理業務の効率化を図る

生産性の低下を招く要因のひとつが、事務・管理に関する業務です。本筋となる訪問介護事業以外の部分に、効率化すべきポイントが潜んでいることもあります。

たとえば内勤業務はある程度、IT化できる可能性があります。適切なツールを導入できれば、事務・管理にかける人件費のコストダウン、経費削減につながります。無料ツールや格安のシステムを利用するだけでも、業務効率が改善され、人員数を減らせる可能性があります。

3. 質の高いサービスを提供する

サービス内容の見直しもおすすめです。訪問介護の報酬は、訪問回数で対価が決まるものではありません。1時間のうちに対応できるケアサービスによって決定します。サービスの質が上がれば利用者も高い価値を感じ、報酬を高く設定できます。

質の高い訪問介護サービスを提供するコツは、マネジメント人材を配置することです。現場のニーズをとらえ、提供するサービスに反映できるマネジメント人材がいれば、利用者目線の事業所として喜ばれます。

訪問介護の枠にとらわれず、日常生活で困りごとを抱えている人を支える事業と幅広く考えると、事業を多角的に展開できます。たとえば看取り、認知症ケア、中重度者対応など、専門性の高いサービスに特化することも選択肢のひとつです。

4. 利用者満足度を可視化して改善策を実行する

質の高いサービスを用意しても、現場のニーズに合っていなければ利用者数や訪問回数を増やす効果は期待できません。新しい事業を取り入れるにしろ、現状のサービスを見直すにしろ、事前調査が必要です。

ニーズや現状を知るための方法として、利用者満足度の可視化が挙げられます。アンケートを行い、現在の利用者満足度を可視化しましょう。アンケートの設問例は、下記のとおりです。

・提供される食事はおいしいですか?

・ヘルパーは訪問時間を守っていますか?

・ヘルパーは困ったときに相談しやすいですか?

・安心してサービスを利用できていますか?

・前回と比べてサービスの質は上がりましたか?(2回目以降のアンケート)

など

改善すべきところはどこか、満足度の高いサービスは何かを知り、事業展開に活かすことが重要です。

5.利用者の獲得に向けた営業を行う

2000年の社会福祉法改正によって、介護サービスは「措置」ではなく「利用」と表記されるようになりました。行政から近隣の利用者が斡旋されるのではなく、事業者側が主体となって介護への想いを世に広げ、認知を拡大し、利用数増加に動く必要があります。

以下の施設を中心に営業をかけ、利用者の獲得を目指します。

・居宅介護支援事業所

・地域包括支援センター

・病院などその他施設

・地域住民

多くの介護サービスが存在する中で自社を選んでもらうためには、ブランディング戦略も必要です。強みをアピールして、魅力を感じてもらいましょう。

他にもケアマネージャーから利用者を紹介してもらったり、ホームページ、ブログ、SNSによる情報発信を行ったりする方法も効果的です。

生産性の高い訪問介護サービスで安定した売上高を目指そう

訪問介護事業の平均売上を伸ばしていくためには、生産性向上が欠かせません。生産性向上と一口にいっても、職員の定着率と業務の効率性、2つの観点から取り組む必要があります。

たとえば職員の定着率を高めるなら、下記の制度導入が考えられます。

・リフレッシュ休暇

・子育て両立支援

・資格取得祝い金

業務効率を高めるのであれば、下記の対策が挙げられます。

・営業エリアやルートの見直し

・通信コスト削減(固定電話など)

・転送電話の活用

マンパワーに頼って人的工数を上げるのではなく、現状の体制で課題となっている部分を改善して、安定性を確保していくことから始めましょう。

まとめ

訪問介護の平均売上は、企業規模によって左右されます。企業規模が大きいところであれば、1ヶ月あたり400万円以上の売上高となる場合も珍しくありません。

特徴的なのは、保険外のサービスを導入していても、利益に大きな差は出ないことです。よって訪問介護が今後の売上をアップさせるためには、訪問回数の増加につながる施策を追求する必要があります。まずは介護への想いをより多くの人に伝えられるよう、利用者数を増やし、生産性向上をはかることで、安定した運営を目指しましょう。