小規模多機能型居宅介護の経営は厳しい?赤字の実態と問題点を解説

小規模多機能型居宅介護は、要介護度に合わせて通所・訪問・宿泊のサービスを提供する地域密着型のサービスです。利用者数が限られていることや、ワンストップサービスであることから、高い柔軟性を実現しています。 小規模多機能型居宅介護は需要も利便性も高い一方で、「経営が厳しいのでは?」という声もあります。 ここでは小規模多機能型居宅介護について、実態や問題点を解説します。


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小規模多機能型居宅介護の経営が厳しい現状の実態

小規模多機能型居宅介護とは、住み慣れた環境での生活を支えるために、通所・訪問・宿泊の3種類のサービスを提供する事業所です。身体介護のほか、日常生活の支援や機能訓練も行います。

小規模多機能型居宅介護では、利用者のケアプラン作成からサービス提供まで、すべて一括して行えるのが強みです。

高齢化社会が続いていることも影響して、さまざまな介護サービスの需要自体は高い傾向があります。一方で、小規模多機能型居宅介護の経営が厳しい現状があることは、事実です。

全体の51.8%の事業所が赤字経営

小規模多機能型居宅介護は現在、全体の半数以上におよぶ事業所が赤字経営の状態です。2019年時点の収支差率が2.8%となっており、51.8%の事業所が赤字となっています。

一般的な収支差率は、介護サービス全体で3.1%が平均です。割合で見るとわずか0.3%の差とはいえ、金額ベースに直すと13.7万円もの差があります。

出典:「小規模多機能型居宅介護の報酬・基準について」(厚生労働省)

介護事業の倒産が過去最多を記録

介護サービスの需要が高いからといって、事業そのものが安泰するとは限りません。2022年前期、介護事業の倒産が過去最多を記録したことが話題となりました。

これまで過去最多とされてきた年間倒産数は、2020年の118件です。しかしながら2022年度においては、1~9月の前期ですでに100件の老人福祉・介護事業が倒産しており、前年同期比で96.0%増えています。

勢いが減速する気配はなく、残り半期で2020年の118件を大幅に上回ると見込まれています。負債額は1億円未満の事業所が約8割におよび、小規模事業者が中心です。

出典:「「介護事業者」の倒産が過去最多 価格転嫁が難しく、大規模な連鎖倒産も発生」(株式会社東京商工リサーチ)

小規模多機能型居宅介護の経営が厳しい背景にある問題点

高齢化社会でありつつも小規模多機能型居宅介護の経営が厳しくなる原因は、サービスの特性ゆえに抱えやすい、いくつかの問題点にあります。

経営が厳しくなる背景として、次の4つの問題点があげられます。

要介護度が低い利用者が多い

小規模多機能型居宅介護の特徴のひとつが、要介護度の低い利用者が多い傾向にあることです。厚生労働省の2021年度に関する資料によると、居宅サービスの利用者の割合は訪問・通所のいずれも要介護1~2のみで全体の6割以上を占めていました。

出典:「居宅サービスの状況」(厚生労働省)

新規契約者の状況も同じく要介護1~2が多くの割合を占めており、全体の54.9%にもおよびます。一方、契約終了者は要介護3以上が多く、55.8%となっています。

出典:「小規模多機能型居宅介護の報酬・基準について」(厚生労働省)

要介護度が低いと、基本報酬単位が大幅に少なくなり、加算算定率も低くなります。比例して事業所が得られる報酬も少なくなるため、要介護度の低い利用者の割合によっては、経営が厳しくなる原因となり得ます。

要介護度ごとの加算算定率の差が大きい

介護報酬は、基本報酬をはじめ複数の加算項目によって算出されます。基本報酬は要介護度ごとに異なり、小規模多機能型居宅介護における基本報酬は以下のとおりです(施設に居住しない利用者にサービスを提供する場合)。

要介護度 介護報酬
要介護1 10,423
要介護2 15,318
要介護3 22,283
要介護4 24,593
要介護5 27,117

 

基本報酬のみを見ても、要介護1と5では2倍以上の差があります。同じ10人の利用者を受け入れても、要介護度が低い人の割合が多ければ、基本報酬や加算算定率の差で収益は大きく異なります。

登録者(利用者)が増えない

小規模多機能型居宅介護は、比較的新しいサービス形態です。周知されていないことも多く、登録者(利用者)が増えにくいのが現状です。

前述のとおり、小規模多機能型居宅介護は事業所内でケアプラン作成からワンストップで対応可能です。内部のケアマネージャーが担当するため、外部のケアマネージャーや地域包括支援センターから紹介されるケースが少ない傾向にあります。

外部から紹介されにくいため、積極的に周知活動をしていない小規模多機能型居宅介護事業所は地元住民に存在を知られることなく、経営難に悩まされることとなります。

人件費が高い

人件費が高くついてしまう点も、経営を圧迫する原因です。近年は介護職の待遇改善の動きもあり、2020年度と2021年度で比較しても従業員一人あたりの人件費は7万円増加しています。

多くの企業や業種にとって、人件費はコストの大半を占める部分です。小規模多機能型居宅介護事業所においても、黒字の事業所に比べると赤字の事業所のほうが年間18万8千円も上回る人件費がかかっています。

人件費率を通常規模や大規模事業者と比べると、下記のとおりです。

・地域密着型の小規模事業者:66.1%
・通常規模の事業者:69.3%
・大規模事業者:66.3%

規模の小さな事業所ほど、数%とはいえ人件費の割合が大きくなっていることがわかります。

出典:「2021年度(令和3年度)通所介護の経営状況について」(独立行政法人 福祉医療機構)

小規模多機能型居宅介護の経営を改善するポイント

上記のとおり、経営が厳しくなる要因は複数あげられます。しかし、すべての小規模多機能型居宅介護が経営難に陥っているわけではありません。経営難を回避するには、経営リスクを軽減するための対策が必要です。

最後に、小規模多機能型居宅介護の経営を改善するためのポイントを3つ解説します。

加算を確実に取得する

収益の主軸ともいえる介護報酬加算は、事業所側が正しく申請しなくては得られません。申請の抜け漏れや間違いが生じないよう、加算できる項目を再度確認しましょう。

加算の項目として、「個別機能訓練加算」「口腔機能向上加算」「栄養スクリーニング加算」などがあげられます。利用者の課題やニーズに応じて、必要な方に対して体制や条件がすべて満たされているのであれば、しっかりと加算し、確実に報酬を受け取れるようにしましょう。

独自営業と外部連携で登録者を増やす

地域密着型の小規模多機能型居宅介護は、地元住民の認知度が利用者数を左右します。認知度を高めるためには、独自営業が効果的です。地域の高齢者やその家族、友人、知人に対して認知拡大を行い、選択肢のひとつに加えてもらいましょう。

地域包括支援センターや居宅介護支援事業所への営業もおすすめです。

小規模多機能型居宅介護は基本的にケアプラン作成からすべての事業をワンストップで行えるものの、外部機関との連携が不要なわけではありません。積極的に営業して連携を図り、紹介してもらうことも大切です。

IT化で業務効率化を図る

人手不足を解消する方法のひとつが、IT化による業務効率化です。介護業務では、事務作業など職員や有資格者が必ずしも担う必要のない業務もあります。ルーティン作業などからIT化を進め、人員を割くべき場所を限定することで、人件費を削減できます。

IT化は一般企業でも取り入れられている経理関連や顧客管理システムなど、小規模多機能型居宅介護の事業所にも導入できるものが複数あります。まずは、単純作業からIT化を検討してはいかがでしょうか。

まとめ

小規模多機能型居宅介護は地域に密着した画期的なサービスでありつつも、複数の事情によって経営難に陥りやすい問題も抱えています。

経営を安定させるには、質の良いサービスを提供する必要があるものの、多機能であることから、なかなか実現することが難しいものです。通所・訪問・宿泊のサービスをすべてこなせる人材を育成・確保するのが困難なことも、小規模多機能居宅介護ならではの課題であります。

厳しい状況下で少しでも安定した経営を行うためには、加算の取りこぼし防止などによる収益増とともに人手不足を解消するIT化などの業務効率化が欠かせません。

また、専門性の高いサービスを提供できるよう、利用者本位のサービス提供ができる体制を構築していくことも重要です。そのためには、人材の育成・確保に力を入れることが、経営安定化の最大の秘訣となります。

現状抱えている問題を整理して、事業所に合った対策から取り組んでいきましょう。