死後事務委任契約にかかる費用とは?支払い方法や締結時の注意点

死後事務委任契約は、委任者(依頼者)が自分の死亡後に発生するさまざまな事務手続きを第三者(受任者)に任せるための契約です。具体的には、葬儀や遺産整理、公共料金の支払い停止手続き、銀行口座の凍結解除など、死後に必要な事務を実行してもらえます。 死後事務委任契約は、遺族に負担をかけることなく、委任者の希望に沿った形で死後の手続きを進められる点がメリットです。しかし、契約にどのくらいの費用が発生するのか、委任者にとっては気になる要素であるかと思われます。 そこで今回は、死後事務委任契約の費用相場や支払い方法、契約締結時の注意点について解説します。


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死後事務委任契約の費用相場

ここでは、死後事務委任契約の費用相場を紹介します。

死後事務委任契約書の作成費用

「死後事務委任契約書」を作成する際は、委任者の意向を十分に反映させる必要があります。そのため、契約書の作成は、司法書士や行政書士などの専門家に依頼するケースが一般的で、費用の相場は30万円前後です。

死後事務委任契約書には、葬儀社の指定やデジタルサービスの解約依頼など、死後事務を適切に遂行するための重要な情報が含まれています。そのため、契約書の作成に際しては、専門家や業者任せにせず、委任内容や費用の明細を委任者自身がしっかりと確認することが大切です。

死後事務委任の報酬金

死後事務委任にかかる報酬金とは、葬儀や納骨、永代供養などの手配にかかる基本的な費用のほか、遺品整理や各種手続きの代行費用のことです。依頼する内容によって異なりますが、一般的な費用相場は50万~100万円程度です。

依頼する事務の範囲が広がるほど費用も増加するため、事前に具体的な委任内容を明確にしておくことが欠かせません。下記は、委任内容ごとにかかる費用の相場です。

委任内容 費用項目 費用(相場)
葬儀・埋葬・遺品整理 葬儀・埋葬の手続き・手配 10万円~(希望内容によって変動あり)
遺品整理 2万円~(整頓内容によって変動あり)
施設・賃貸物件の手続きなど 病院・介護施設の諸手続き 2万円~5万円
賃貸住宅明け渡しの手続き 2万円~5万円
行政機関への届出・納税 市町村役場への諸届出 1万円~10万円
住民税・所得税の納税手続き 2万円~5万円
その他 公共料金精算・解約手続き 1万円~6万円
デジタル遺品の整理・消去 1万円~5万円
勤務先企業等への退職手続き 5万円
関係者への死亡通知 1,000円/件
銀行や携帯電話回線の解約手続き 2万円

公証役場の手数料

死後事務委任契約書を作成する際は、公正証書化をします。公正証書とは、公証人が作成する公的な文書です。

公正証書化は任意ではありますが、契約内容を第三者が確認した上で正式に証明してもらえるため、後々のトラブルを防ぐためにも積極的に活用すべき手続きといえます。さらに、万が一契約書を紛失した場合でも、公証役場に保管されているため再発行が可能です。

公正証書化には、公証人への手数料が約1万1,000円、謄本(契約書の写し)を作成するために3,000円程度の費用がかかります。

預託金

預託金とは、葬儀費用や納骨、遺品整理、病院や介護施設への支払いなど、死後事務にかかる費用を生前に代理人や専門機関に預けておく資金のことです。亡くなった直後に発生する各種費用を委任者自身が生前に準備しておくことで、死後事務をスムーズに執行できるようになります。

預託金の金額は、委任する事務内容や葬儀の規模によって異なりますが、一般的な相場は100万円から200万円程度です。預託金は契約時に受任者へまとめて預けられ、死後の手続きが完了した後に残金が発生した場合は、相続財産として返還されます。

死後事務委任契約にかかる費用の支払い方法

死後事務委任契約にかかる費用の支払い方法は3つあります。下記で、それぞれの支払い方法について詳しく説明します。

預託金

契約時に必要な費用と報酬をまとめて預けておき、委任者が亡くなった後、預託金から精算する方法があります。支払い遅延や費用不足などの問題が発生しにくく、事務手続きをスムーズに進められるがメリットです。

一方で、初期費用としてまとまった金額を用意する必要がある点に注意しましょう。また、預けたお金が悪用されるリスクがゼロではないため、信頼できる事業者選びが重要です。

遺産

死後事務委任契約にかかる費用を、亡くなったときの財産から清算する方法があります。遺産で精算するメリットは、契約時にまとまった費用を用意しなくてもよい点です。現金を手元に残しておくことで、急な出費や生活費への対応が可能です。

しかし、遺産から精算する場合、受任者が遺言執行者として相続財産から死後事務に必要な費用を捻出できる仕組みを整えなくてはなりません。そのため、契約と同時に遺言書を作成し、遺産の一部を受任者に渡すことを明記する必要があります。遺言書の作成費用や公正証書作成費用などが別途発生する点に留意しましょう。

また、遺言書を作成する場合には、相続における紛争を生じさせないために、事前に遺産の管理や分配について相続人と十分に話し合っておくことが大切です。

保険料

生命保険金を利用して死後事務を代行する受任者へ費用を支払うことも可能です。ただし、生命保険金を使った支払い方法にはいくつかの注意点や条件があり、慎重に検討する必要があります。

まず、生命保険の受取人に関する制限です。多くの保険会社では、生命保険金の受取人を2親等以内の親族に限定しています。そのため、死後事務委任契約を結ぶ法人や団体、専門家を保険金の受取人として直接指定できないケースがほとんどです。

この制約をクリアするためには、保険金の受取人として親族を指定し、遺言書でその親族が死後事務委任契約の受任者に対して費用を支払うよう明記しておく必要があります。

遺言書を作成するとなれば、その分の手間や費用も発生します。また、保険金を受け取る親族にも事情を説明し、トラブルが起きないように理解を得ておくことが重要です。

死後事務委任契約を締結する際の注意点

死後事務委任契約の費用に関するトラブルを防ぐため、下記で紹介する注意点を押さえておきましょう。

事前に親族から同意をもらう

死後事務委任契約は委任者と受任者の二者間で結ばれるため、親族がその存在を知らない場合、委任者の死後に突然見知らぬ人物が現れることになります。そのため、親族にとっては不審に感じられ、手続きがスムーズに進まなくなる可能性があります。

特に、弁護士や専門家など、家族とは面識がない第三者に委任する場合は、親族に契約内容や依頼したことをしっかり伝えておくことが大切です。

また、死後事務委任契約で親族の意向と委任内容が食い違っていると、予期しないトラブルが発生する可能性があります。例えば、委任者が指定した手続きが親族の希望に反していた場合、親族との間で意見の相違が生じ、手続きが進まないことがあります。

このような状況を避けるためにも、親族に事前に契約の内容を説明し、同意を得ておくことが必要です。契約書には委任する内容を詳細に記載し、親族と受任者の間で認識にズレが生じないようにしましょう。

預託金の管理方法を確認する

死後事務委任契約のトラブルとして多いのが、「解約時に預託金が返還されない」ことです。死後事務委任契約には、受任者が預託金を不適切に使い込んだり、契約先の民間企業が倒産して返還されなくなったりするリスクがあります。

このようなトラブルを防ぐためにも、契約時には預託金が事業者の運営資金と区別されているか、契約書に預託金が返還されるかどうか明記されているかなどを確認しましょう。

判断能力が十分なうちに契約をする

委任者が認知症などで判断能力を失ってしまうと、原則として死後事務委任契約は結べなくなります。民法第3条の2では、意思能力がない状態での契約は無効とされています。そのため、判断能力を有しない状態で契約を結んでも、その契約は法的効力をもたず、受任者が死後事務を執行できません。

さらに、判断能力がない状態では、専門家や民間企業が契約を受け入れてくれることもありません。死後事務委任契約を結ぶためには、認知症などで意思能力が欠如する前に行動することが大切です。

出典:e-GOV「民法

高齢者等終身サポート事業者に死後事務を依頼するメリット

死後事務を依頼するなら、高齢者等終身サポート事業者へ依頼することをおすすめします。

高齢者等終身サポート事業者とは、死後事務のみならず、病院や介護施設に入る際の手続支援や、日常生活における財産管理のサービスを提供している民間企業です。

近年、少子化や核家族化により、身寄りのない一人暮らしの高齢者が増加する中、病院や介護施設への入院・入所の際に求められる身元保証人がいないことが課題としてあがっています。そこで、家族や親族に代わって、身元保証等サービスを提供する高齢者等終身サポート事業者が台頭しています。

高齢者等終身サポート事業者に死後事務を依頼することで、利用者の希望にあわせて、葬儀の手続きや公共料金等の解約手続き、遺品の整理などが行われるため、頼れる人がいない方にとっては大きなメリットです。

しかし、なかには利用者の財産を使いこむ、高額な預託金を請求する事業者もいるため、依頼先には細心の注意を払わなければなりません。

2024年6月、政府からは「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」が発表され、事業者が遵守すべきチェック項目が示されているため、事業者を選ぶ際の判断基準とすると良いでしょう。

株式会社あかり保証」は、弁護士・司法書士が主体となっている、数少ない高齢者等終身サポート事業者です。ガイドラインの全事項を遵守しており、利用者様の意向に寄り添ったサービスをご提案しています。

死後事務サービスでは、専門家として費用・預託金等を適切に見積もった上で提供をしておりますので、安心してサポートを受けることが可能です。また、利用者様から預かった財産は、事業の口座と分けて信託口座で管理しているため、万が一の場合でも安全に保管されます。

まとめ

死後事務委任契約の費用には、契約書の作成費用、死後事務委任の報酬金、公証役場の手数料、預託金などがあげられます。死後事務委任契約を結ぶ際は、事前に親族から同意を得ること、預託金の管理方法を確認することが重要です。


この記事の監修者

斉藤 正行

1978年に奈良県生駒市で生まれる。
2000年3月に立命館大学卒業後、コンサルティング会社に入社し飲食業のコンサルティング、事業再生等を手がける。
その後、介護業界に転身し、老人ホーム会社の取締役運営事業本部長、デイサービス会社の取締役副社長を経て、2013年8月に 株式会社日本介護ベンチャーコンサルティンググループを設立。
2018年6月に法人種別・サービス種別の垣根を超えた介護事業者の横断的組織である一般社団法人全国介護事業者連盟の 設立に参画、2020年6月に理事長に就任。
そのほか介護団体・法人の要職等を兼任し、介護業界の発展に心血を注いでいる。


この記事の監修者

清水 勇希

弁護士/株式会社あかり保証 代表取締役
1995年京都府宇治市生まれ。立命館大学法学部を首席で卒業後、司法試験に合格。北浜法律事務所を経て、2022年10月にリット法律事務所を開設。弁護士として、介護法務、医療法務、不動産法務等に注力。2024年7月、「身元保証業界を変えたい」「身寄りのない高齢者の方に、信頼かつ安心のあるサービスを提供し、一番頼りになる存在となりたい」と思い、株式会社あかり保証を創業。代表取締役に就任。
若くして数々の資格を取得し、弁護士として活躍する傍ら、株式会社エアトリの社外監査役、医誠会国際総合病院の倫理審査委員会外部委員など、多岐にわたる分野でその手腕を発揮している。