介護人材は2040年度までに約57万人不足?!
厚生労働省が公表している資料によると、2026年度には約240万人の介護職員が必要とのことです。2022年の介護職員数が215万人であるため、約25万人不足する可能性があります。
さらに、2040年度には必要な介護職員数が約272万人に達し、現在よりも約57万人多く必要です。
出典:厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
介護人材が不足する背景
介護業界の人材不足が進んでいる理由には、少子高齢化が大きく影響しています。実態を解説しましょう。
高齢者の人口は増加傾向にある
内閣府の調査によると、2023年10月1日時点で、日本の総人口は1億2,435万人であり、そのうち65歳以上の人口は3,623万人に達し、高齢化率は29.1%です。これは、日本の総人口のおよそ3割が65歳以上の高齢者であることを意味しており、今後も高齢者の割合は増加していくと予測されています。
65歳以上の人口を詳しく見ると、「65~74歳」の人口は1,615万人で総人口の13.0%を占めており、「75歳以上」の人口は2,008万人で総人口の16.1%を占めています。特に75歳以上の高齢者の割合が増えており、今後は要介護者の増加がさらに進むと考えられます。
一方で、15~64歳の生産年齢人口は1995年に8,716万人でピークを迎えた後、減少傾向が続いており、2023年時点で7,395万人(総人口の59.5%)です。このように、高齢者の人口が増加し続ける一方で、生産年齢人口が減少しているため、介護サービスを必要とする人が増え続ける一方で、介護人材の確保が難しくなっています。
出典:内閣府「令和6年版 高齢社会白書」
介護労働者は減少の一途を辿っている
内閣府の調査によると、出生数は年々減少しており、2070年には45万人になると推計されています。この少子化の進行により、将来的に介護を担う若年層の人口が減少し、介護を必要とする高齢者が増え続けるという悪循環に陥っているのが現状です。
また、公益財団法人介護労働安定センターが公表した調査によると、介護事業所における従業員の過不足感について、「大いに不足」「不足」「やや不足」を合計すると64.7%に上り、約3分の2の事業所が人手不足を感じていることがわかりました。
さらに、より深刻な不足感を示す「大いに不足」と「不足」の合計も34.0%に達しており、多くの事業所で介護職員の確保が困難になっている状況です。
出典:
内閣府「令和6年版 高齢社会白書」
公益財団法人介護労働安定センター「令和5年度 介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査 結果報告書」
介護人材が不足する原因
介護職に従事する人材が不足すると、質の高い介護サービスを安定的に提供することが難しく、利用者やその家族への負担が増大するおそれがあります。
ここでは、介護人材が不足する原因について、詳しく紹介します。
給与水準における課題
介護職は、高齢者や障がい者の生活を支える重要な役割を担い、専門的なスキルや感受性が求められる職業です。しかし、現状として、給与水準が他の専門職と比較して低いことが大きな課題となっています。
この給与の低さが、職業としての魅力を損なう一因ともなっており、介護職の定着率に影響を与えている状況です。
介護職は、利用者の移乗や入浴介助、さらには認知症の高齢者への対応といった身体的・精神的な負担を伴う業務です。それにもかかわらず、給与が他の職業と比べて低い水準であるため、業界全体でその改善が急務とされています。
多くの介護施設では、給与改善に向けた取り組みを行っており、給与水準の引き上げを実現することで、介護職の社会的評価や職員の定着率の向上を図っています。
労働環境における課題
介護職は、慢性的な人手不足により、多忙な業務や長時間労働が常態化しているのが現状です。特に、一人当たりの業務負担が大きく、十分な休息が取れないことが課題となっています。夜勤や早朝勤務が必要な職場も多く、シフト制で働くため、生活リズムが乱れやすく、心身の疲労が蓄積しやすいという問題も抱えています。
また、介護職には「きつい・汚い・危険」の「3K」のイメージが根強く、これが介護業界への就職を敬遠する一因になっています。しかし、近年ではこれらの負担を軽減するため、業務の効率化や環境改善が進められています。
職場の人間関係における課題
介護職は、利用者だけでなく、その家族や他の職員、さらに医療従事者とも密接に関わる仕事です。このように多くの関係者と連携する中で、円滑なコミュニケーションとチームワークが求められます。
しかし、職場における人間関係のトラブルが解消されないと、チームワークの低下や職員間の摩擦が生じることもあります。
多くの施設では、職場の人間関係を改善するための研修やコミュニケーションを促進する取り組みを行っており、職員同士の連携を強化するための努力が続けられています。
人材不足の解決に向けた取り組み
介護業界の人材不足の原因には、競合他社との競争激化や定着率の低さなど介護業界特有の理由だけでなく、生産年齢人口の減少や介護の需給も関係しています。
介護サービスの需給については今後の大きな課題になることから、国も改善のためにさまざまな見直しを行ってきました。
ここでは、介護人材の不足を解消するため、国を挙げて行われている取り組みを3つ紹介します。
介護事業者の認証評価制度
「人材育成等に取り組む介護事業者の認証評価制度」は、人材育成や就労環境改善などにつながる取り組みを都道府県が評価を行い、基準を満たした介護事業者の認証評価を行う制度です。
認証評価制度により、介護事業者の人材確保や育成についての取り組みが見える化されるようになります。これにより期待されるのが、介護業界全体のイメージアップ、業界全体の労働環境の整備、介護職の人材確保や離職防止などです。
福祉・介護職員等処遇改善加算
「福祉・介護職員等処遇改善加算」は、2024(令和6)年度の介護報酬改定において、従来の処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等加算を一本化した制度です。この改定により、介護職員の賃金向上を図るとともに、事業者が負担する手続きを簡素化し、事務負担を軽減することが目的とされています。
加算を受けるためには、次の要件を満たす必要があります。
・キャリアパス要件:職員のキャリアアップに向けた研修計画や経験・資格に応じた賃金体系が整備されていること
・月額賃金改善要件:一定の賃金水準を達成すること
・職場環境等要件:職場の働きやすさを向上させる取り組みが行われていること
これにより、経験や技能のある介護職員が、ほかの産業と比較しても遜色のない賃金を受けられるように改善が図られています。
介護人材確保のために介護事業者がすべき対策
介護業界では、深刻な人手不足が続く中で、採用競争が激化しています。数少ない介護職志望者の取り合いが進み、優秀な人材の確保が困難になっています。このような状況を打破するためには、介護事業者が職場環境を改善し、働きやすい職場作りを進めることが不可欠です。
ここでは、介護人材を確保するために介護事業者が取り組みたいことを紹介します。
給与や福利厚生を見直す
介護職の魅力を高めるためには、給与や福利厚生の見直しが重要です。例えば、基本給の引き上げや、夜勤手当、休日出勤手当などの待遇改善が求められます。
また、介護職員の生活をサポートするため、健康管理やメンタルヘルス支援、育児や介護との両立支援といった福利厚生の充実も、従業員の定着率向上につながります。
さらに、処遇改善加算を適切に算定することで、職員への給与水準の改善が期待できます。
そのほか、資格取得支援制度の強化も有効な手段です。介護職員のスキルアップを支援することで、職員のモチベーション向上やキャリアパスの確立につながります。
多様な人材を確保する
国内の労働力人口が減少している中、人手不足を解消するために外国人労働者を採用するのも有効な方法のひとつです。
厚生労働省は、介護分野における外国人労働者の受け入れを推奨しており、特定技能制度を活用することで、外国人の採用がより容易になっています。
介護業界での外国人採用については、下記の記事で詳しく解説しています。
「介護職員に外国人を採用するには?4つの在留資格の受け入れの仕組みと留意点」
また、より多くの人材を確保するためには、正社員だけでなく、契約社員やパート、アルバイトなど、さまざまな働き方を提供することが重要です。
これにより、育児や介護との両立を希望する方や、フルタイム勤務が難しい方にも働きやすい環境を整えることができます。
研修・教育制度を整える
研修制度を充実させることで、職員は自らの専門性を高め、より質の高いサービスを提供できるようになります。
また、資格取得支援やスキル向上を図る研修を実施することで、職員は自信を持って仕事に取り組みやすくなり、将来性を感じられる職場として定着しやすくなります。
さらに、研修を通じて、施設の理念や方針を明確に伝えることも可能です。理念に共感できる職員は、施設への愛着が湧き、仕事に対するモチベーションが高まるため、結果的に退職のリスクを減らす効果も期待できます。
職員のメンタルヘルス対策をする
介護職は身体的・精神的な負担が大きいため、職員が健康を維持できる環境作りが重要です。
そのためには、定期的にストレスチェックを行い、早期に不調を把握して対策を講じることが効果的です。ストレスの兆候を見逃さず、職員のメンタルヘルスを支える体制を整えましょう。
また、パワハラやセクハラに対応するための相談窓口を設置することも大切です。職場内のトラブルを未然に防ぐため、職員が安心して相談できる環境が求められます。
さらに、定期的に面談を行い、業務上の悩みや課題を把握し、解決策を一緒に考えることも効果的です。
介護ロボットを導入する
介護業務は身体的に負担が大きく、長時間の立ち仕事や重い物を持ち上げる作業が職員の疲労やストレスの原因になっています。このような状況において、介護ロボットを導入すれば、業務の効率化や職員の負担軽減が可能です。
例えば、パワーアシストは、利用者を移動させる際の体力的な負担軽減に効果的です。見守りセンサーを導入すれば、利用者の安全を遠隔で確認でき、職員が常に近くで見守る必要がなくなります。
介護ロボットについては、下記の記事で詳しく解説しています。
「介護ロボットにはどんな種類がある?導入する方法や利用実態も解説」
ITシステムを活用する
介護現場では、日々の介護記録や勤怠管理など、多くの事務作業が発生しますが、これらをデジタル化することで、業務の効率化を図れます。
例えば、介護記録システムを導入することで、ケア内容や利用者の状態を簡単かつ正確に記録でき、紙ベースに比べて作業時間を大幅に短縮できます。データは即座に更新されるため、情報共有がスムーズになる点もメリットです。
また、勤怠管理システムを活用すれば、労働時間やシフト管理が効率化されます。
さらに、チャットツールを導入することで、職員間のコミュニケーションがスムーズになり、重要な連絡や指示を漏れることなく伝えることが可能です。
このようにITシステムによって職員の業務負担を軽減すれば、離職率を抑えることができるでしょう。
まとめ
多くの介護事業者で人材不足を感じている現状があります。人材不足の問題を解決するためには、自社での取り組みについて見直しを行うほか、必要な情報を常に取得できるようにしておくことが大切です。
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