デイサービス経営はなぜ厳しい?理由と改善策を解説

近年の日本は超高齢社会に突入していることから、介護の事業所・施設は、今後ますます求められることでしょう。しかし、中には「デイサービスの経営は難しい」という声も少なくありません。 高齢者人口の増加に伴って、デイサービスの利用者は増えると予想されていますが、なぜマイナスな意見が挙げられているのでしょうか。今回は、デイサービス経営の現状や、厳しいといわれている理由、その対策について解説します。


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デイサービス経営の厳しい状況

独立行政法人福祉医療機構が実施した調査によると、デイサービスの赤字施設割合は、2019年度が38.0%、翌年の2020年度は41.9%でした。

出典:「2020 年度(令和 2 年度)通所介護の経営状況について」(独立行政法人福祉医療機構)

一方で、年間営業日数や定員数、従事者1人あたりの人件費に大きな変化は見られません。人件費にあたっては介護職員処遇改善加算の影響もあり、上昇傾向が見られます。

※介護職員処遇改善加算とは、一定の要件を満たした介護事業所に勤める介護職員の賃金改善を実行するための加算のこと。

施設の区分ごとに見ると、赤字施設割合が増加しているのは大規模型Ⅱです。

※大規模型Ⅱとは、前年度の延人員数が900名以上のデイサービスのこと。

施設の区分 2019年度の赤字割合 2020年度の赤字割合 前年度との比較
地域密着型 39.4% 40.5% 1.1%増
通常規模型 38.3% 43.4% 5.1%増
大規模型Ⅰ 23.9% 24.6% 0.7%増
大規模型Ⅱ 17.9% 32.1% 14.2%増

他の施設もすべて赤字の割合が増加していましたが、大規模型Ⅱのみ2ケタ台となっています。

また、近年は介護事業の倒産件数も増えています。2020年に東京商工リサーチが公表した「老人福祉・介護事業の倒産状況」では、全体の118件が倒産しており、過去最多という結果となりました。

出典:「2020年「老人福祉・介護事業」の倒産状況」(東京商工リサーチ)

デイサービスの経営が厳しい理由

デイサービスの需要は決して低いわけではありません。後期高齢者人口が急増し、需要が高まる一方で、デイサービスの経営が厳しくなるのは、いくつかの理由が挙げられます。

ここでは、デイサービスの経営が厳しい理由について、5つ解説します。

他社との競争が激化

首都圏をはじめ、人口の多い地域ではデイサービスを提供する企業が複数存在します。

デイサービスの売上高をアップさせるためには、利用者を増やし、稼働率を向上させることがもっとも効果的な対策です。近年は、人件費の高騰も影響して、多くのデイサービスが利用者の増加による増収を目指しています。結果、同じエリアで他社との競争が激化している状況です。

介護報酬の削減

デイサービスの事業所・施設数が増えていることだけでなく、介護報酬の削減も経営が厳しくなっている理由のひとつです。

2015年には介護報酬が改定され、小規模型事業所の基本報酬が大幅に削減されました。2012年度と比較すると、約10%の介護報酬削減です。

介護報酬は7~9割が介護保険から支払われ、残りの1~3割が利用者負担となります。デイサービスの規模や滞在時間、介護度などによって点数が振り分けられており、合計点数に応じた報酬が支払われる仕組みです。

デイサービスの主な収益は、介護報酬です。収益の柱が削減されたことで、経営難となったデイサービスも増加したのではないでしょうか。

人材不足

介護労働安定センターの調査によると、介護施設の63%は人材が不足している状態です。職業別で見ると、訪問介護員の不足は80.6%にもおよんでいます。

出典:「令和3年度「介護労働実態調査」結果の概要について」(公益財団法人 介護労働安定センター)

人材が少ない状況は単純な労働力の不足のみならず、新規採用で雇い入れた人材の教育にも影響します。満足な教育ができない状況は、より定着率を下げたり人材確保を困難にしたりするでしょう。

人件費の高騰

多くの業界で生じている人件費の高騰は、介護職にも起こっています。介護業界では慢性的な人手不足が続き、人件費が上昇傾向です。

高い報酬や好条件の職場環境を提供しなければ人材が集まりにくく、小規模な事業所であっても人件費の見直しが求められています。

とくに介護、看護職員、機能訓練指導員などのスタッフは、資格やスキルに応じた手当て、報酬によって高騰しやすい傾向です。専門分野の人材配置を強化するほど、事業所の人件費は高くなります。

デイサービスの経営が厳しいときの対応策

厳しい経営状況を抜け出すためには、積極的な対策が不可欠です。世界情勢の影響で売上高が増減することもありますが、適切な対策を行うことでマイナスを軽減できます。

稼働率をアップさせる

まず取り組むべき施策は、稼働率アップです。新規の利用者を増やせるよう営業を積極的に行ったり、既存の利用者に通所回数を増やしてもらう工夫を行ったりします。

営業先は、近隣の地域包括支援センターや居宅介護支援事業所などがおすすめです。たとえばケアマネージャーに事業所名や担当者の顔を覚えてもらうと、地元の相談者や高齢者に信頼できる事業所として紹介してもらえる確率が高くなります。

既存の利用者の通所回数を増やすには、居心地の良い空間作りだけではなく、所用で利用を休んだ日を振替利用してもらう方法も効果的です。利用者から休みの連絡を受けたときに「振替利用もできますよ、明後日はいかがですか」とスタッフ側から提案しましょう。

デイサービスのほうから振替利用できることを伝えれば、利用者側も応じやすくなります。

人員や業務体制を見直す

主な事業に関わる介護職員の人件費は、安易に削るべきではありませんが、一方で事務・管理にかけるコストは見直しをおすすめします。仕事が効率的に進捗できるように、業務体制や配置は適切か見直します。

事務・管理に関する業務の多くはルーチン化しており、ITツールによる半自動化が可能です。ITツール導入後、普段の業務にスムーズに取り入れられるようになるまで手間はかかりますし、きちんと効率化につながるようなITツールの選別は必要ですが、結果的に職員の負担を削減できる分、ツールやシステムでは対応できない他の業務を人に任せられます。

業務環境の改善は、生産性向上に加えて従業員の離職防止の観点からもおすすめです。手間のかかる業務をいくつかITツールで半自動化できれば、モチベーション低下を防ぎ、定着率アップにつながります。

加算を算定する

介護報酬加算を算定しましょう。加算の種類により算定要件が変わるため、事前にどういったものがあるのか確認しておきましょう。

加算可能な項目を取得できれば、現状よりも利益率ひいては職員の報酬をアップさせられます。

デイサービスで算定されている介護報酬加算のいくつかをご紹介します。

・個別機能訓練加算

・個別機能訓練加算Ⅱ

・入浴介助加算

・栄養改善加算・口腔機能向上加算

・中重度ケア体制加算

・介護職員処遇改善加算

とくに「介護職員処遇改善加算」は、加算Ⅰと加算Ⅴで介護職員1人あたり25,000円もの差があります。事前に加算内容を確認し、漏れや誤りがないよう加算しましょう。

まとめ

2020年は老人福祉・介護事業全体で過去最多の倒産数を記録したことからも分かるように、デイサービス経営も厳しい状況が続いています。ただし需要が激減したわけではなく、経営改善の余地があるのが特徴です。

事業の特性上、主力となるスタッフの人件費を安易に削ることはできません。ルーチン化している業務のIT化や稼働率の改善など、まずは現状の課題を解決することから始めましょう。画期的な方法を模索するよりも、目の前の課題を解決していくほうが経営状況を好転させる最大の手です。